PC−9801BX3は、1995年1月に発表されたフェローシリーズの486マシンです。一番の特徴はその価格で、定価\98,000。98シリーズで初めて10万円を切ったマシンでした。
価格といえば、NECのPC98シリーズといえば、とにかく高かったという印象があります。
実際はどうだったのでしょうか?98全盛時代の主力機種の価格を下に示します。
1987年 | VX21(286/10MHz) | \433,000 |
1989年 | RA21(386/20MHz) | \498,000 |
1992年 | FA2 (486/16MHz) | \458,000 |
一方、エントリーモデルとして比較的安価に提供された機種もありました。下に示すような機種がそうです。
1987年 | UV11(V30/10MHz) | \265,000 |
1991年 | UF(V30HL/16MHz) | \218,000 |
1992年 | US(386SX/16MHz) | \248,000 |
でもそれはある意味で仕方がなかったといえます。なぜなら、98全盛期の98は、各機種が個別によく練られた設計がされていたからで、エントリー機種と言えど専用に設計されたとても完成度の高いマシンだったからです。UV11やUSの内部を見れば、この時期の98がいかに作り込まれているかが分かると思います。
ただ皮肉なのは、完成度が高い分、後からパワーアップする余地がほとんどなくなってしまい、それが逆にユーザーの不満を募らせる結果になってしまったことです。
このように、98シリーズは安価なら安価なりに1つのモデルとして完結したマシンを提供していた訳ですが、各社DOS/V機の登場以降、この方針に変化が現れます。DOS/V勢との価格競争に対抗するため、設計の合理化、パーツの共通化、デファクトスタンダードの採用を計らなくてはなりました。
この流れのなかでフェローシリーズBXが誕生します。98アーキテクチャを必要最小限のパーツで実現したBXは、それまでの98と違って非常に簡素な作りになっており、その内部はスカスカです。その甲斐あって価格は激減し、初代BXで\218,000、二代目BX2で\178,000、そして三代目BX3でついに10万円を切る、\98,000を実現したのでした。
このようにBX3は最低限の98アーキテクチャしか備えておらず、そのままではただのDOS専用マシンでした。しかし、CPUに486DX/33MHzだったことがBX3に最高の拡張性を与えることになりました。33MHzというバスクロックは(ほとんど出回らなかった486DX/50MHzを除いて)486系で最高であり、CPUの交換だけでハイエンド486マシンと同じ性能までアップすることが可能でした。たとえば、アイオーデータ社のPK-A586/98を使えば、Pentium/75MHz相当の性能までアップグレードできました。
その他にも、いろいろ優れた拡張性を持っています。内部に余裕があるので増設HDDやCD-ROMも余裕で装着できました。インターフェイスはIDEで、DOS/V機のようにマザーボートから直接接続するので、専用HDDユニットやSCSIボード等を用意する必要もありませんでした。ウィンドウアクセラレータは標準装備ではありませんでしたが、Cバス用のウィンドウアクセラレータは多くの種類が市販されており、不自由はありませんでした。自分の好みの物を選択できること、内蔵アクセラレータがないことで逆に増設によって無駄になる部分がないことなどは、増設を前提に考えれば利点であるとも言えます。
このように考えていくと、BX3は98シリーズでありながら、DOS/V機で言う「ベアキット」のようなマシンだったと言えます。すなわりユーザーの必要とする性能に応じて自由に周辺機器を増設・交換し、アップグレードを楽しむことのできたマシンだったのです。BX3はベテランユーザー向け低価格パソコンと言えましょう。
しかしBXのような機種は、後継機BX4以降、ラインアップから消えてしまいます。Windows95の登場以降、単なる低価格機が入門機として位置づけられた時代は終わりを告げ、ビギナーユーザー向け機種といえども、最初からある程度の性能が必要になったのです。その後にエントリー機種としてバリュースターが発表されましたが、これらはWindows95を最初から活用できるよう至れり尽くせりでまとめたマシンで、BX3のようなシンプルな機種ではありませんでした。価格も20万円以上と、以前ほどではないものの、再び高価格路線に戻ってしまったのです。