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[五右衛門さんの提供火災事例] A1-24 08.03.20
1,中性線欠損の火災 | ||
「中性線欠損の火災」と言う名称、何やら、難しそうですが、一般家庭への配電が 単相3線式配線による方式をとっていることから発生する火災で、共通の中性線に 使用している配線が何らかの理由で断線した時に、その負荷側の電気機器に「異常 電圧」が掛かり、電気機器の損傷又は火災が発生するものです。 多くの家庭は、単相3線式配線により配電しています。 3本の配線が電柱から送られ、積算電力計を経て、建物内の配電盤に3本の配線が送られ、 その内の白線(赤・白・黒の時)を共通線として、(赤・白)(黒・白)の2本づつから、+−とし 100Vを負荷側に配電しています。 ゆえに、(赤・黒)で配線すると単相200Vとなります。 |
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左写真は、我が家の台所にある配電盤。 左から、電流制限器(Sブレカー)で、供給電力会社提供の契約 電流以上に電気を流さないことと、負荷側の過電流事故の発生 を防ぐ装置です。 次いで、漏電遮断器(ELB)で、負荷側での漏電事故を防ぐた めに、施主側が設置する、と言っても、電気屋さんが通産の指 導基準に基づき、必ず取り付けます。 そして、小さいのが20A配線用遮断器(NFB)で、負荷の短絡 事故などを防止する目的で設置します。 で。 Sブレカーの3本の中央の白線が、共通線の接地線です。 常に、単相3線では中央の線又はバーがそれに該当します。 |
2, 具体的な火災事例から。 | ||
火災は、夜の21時に発生しました。 耐火建物、作業所併用住宅の作業所外壁の配電盤内の開閉 器とテレビなど8つの電気機器の一部が焼損しました。 居住者が風呂から出て、着替えをしょうとした時に、急に蛍光灯が 消え、かすかに臭気がしたので、119番通報した。 消防隊が確認したところ、開閉器などが焼損していた。 左写真は、テレビ内部のフライバックトランスの側の電源部回路の 基板部品の焼損状況。 |
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屋外配電盤の開閉器の焼損状況。 中央の白線(共通線)の接続部が 溶融しています。 この限りでは、「開閉器の接触部過熱」 と言う火災原因の分類になります。 また、上のテレビ等の電気機器にの 焼損だけを限ると「過電圧による スパーク」となりますが、広く焼損全体 をとらえて、「中性線欠損による火災」 と呼びます。 さて、一次的な原因は、左写真のように 電気火災では、よく見られる接続部の接 触部過熱です。 接続部の〆が甘かった事などにより接触 抵抗が次第に増し、発熱出火するもので、 初期段階で亜酸化銅増殖現象が関与し ています。 さて、理論的な説明です。 |
[理論]は分かりやすく、 テレビを200Wとし、ドライヤー を1000Wとする2つの機器 だけが負荷で使用されて いたとします。 通常は、上段のように 負荷ごとに100Vの電圧が 印加され、使用されている。 ここで、事例のように、開閉 器の中性線が溶けて、接続 端子からはずれた時、負荷 はどうなるか? [テレビとドライヤ]が1つの 電気機器となる回路が できる。2つの機器の 両端に単相200Vが印加 されることになる。 |
で、合成抵抗(RとR’)の機器に200Vが掛かるときの 電流を計算し、そのIとRを掛けた値が、それぞれの印加 電圧となる。左の計算で、テレビに約167V、ドライヤーに 約34Vとなる。 このため、瞬時にテレビの電源回路部が過電圧により 抵抗などが破壊されます。 実際の家庭では、負荷がいろいろあるので、単純では ないが、結論として。 「W数の低いものが焼損(損傷)する。」 例えば、鑑賞魚用空気ポンプ、蛍光灯安定器、100V使 用の電話機、ファクシミリなど、常時印加されていて、 W数の低いものが、複数個焼損します。 |
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3, 火災現場での調査要領。 | |
☆一般家庭内で複数個の機器が損傷していますので、良く調べます。 雷のサージによる被害と似ていますので、逆に、「中性性欠損」を考えないで、「雷による原因」と 判定することもあります。特に、テレビの電源部が焼損することがあることから、アンテナ線に異常 ないにも係わらず、テレビ火災に固守して、「雷」とすることがあります。 ☆ この事例では、その内の配電盤内の機器でした。 このように配電盤内の機器を見ることは、最も大切なポイントです。 また、近隣で電気の配電線工事が行なわれていないか、などもポイントです。 ☆ 電柱工事で、誤って中線線を先に外してしまうことがあり、この場合は、消防の調査員が調べる 頃には、居ないので、まつたく分からないことがあります。近隣者に、引き込み線付近の電柱の工 事がないか、あるいは、引き込み線を損傷させるような外周部工事をしていないか、など、広範囲に 調査の対象を広げて、対応します。つい、「燃えている物だけ」に、とらわれて住宅内だけを対象に 調査すると、この火災原因はわからなくなる事があります。 [注:昔、電気火災の授業で、この「中性線欠損の事例」の計算問題を試験に出したことがありましたが、 皆から、ものすごく不評でした。 ま、こんな火災、ほとんどないのだから、計算方法を知る必要もない、と言えます。 まずは、「W数の低い機器が複数個、同時に、発生する火災は中性線欠損を疑え・・・・」ぐらいが、必要な知識と 言えます。 と言う事で、くれぐれも、試験問題にしないほうが、良いようです。 ] また、消防活動として、「ガス充満・爆発危険のある所での」電路遮断は、一番最後が真ん中の線ですから、まず、両端の線 から外して、最後に中央の線で、電路を遮断します。 |
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いずれにしても、上の火災事例の場合もそうですが、火災統計分類上は存在しません。 「迷走電流」と同じで「中性線欠損火災」は、 一度に複数個の焼損箇所ができる、マレな火災で、火災統計上は、その最も顕著な箇所のみ をとらえて、原因部類します。で、この場合は「歯形開閉器の接触部過熱」となります。 この火災は、趣味的に、コツコツと資料収集する対象なのでしょう。 「迷走電流」「中性線欠損火災」は、統計や研究者にとって火災対象外の 「火災調査員だけが知る火災」です。資料もないのが普通です。 |