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ワインセラーの火災
                               A1−26   08.06.22 

  1,ワインセラーからのアンモニアガス漏れ事故
 
 ★ ワインセラー(ワインクーラ)の浸透
  「独身の女性のマンションには、置いてあるよ。」と誰かが言っていた。が、そんな自宅に伺ったことのない「私」は良く
  知らなかった。
  確かに、「ビールは太る」と言われると、なんとなくワインのほうが、良さそうだ。そのくせ、ワイン1本は飲む気になると
  以外と早く無くなる。 と言って、しばしば酒屋に買いに行くのは、独身の女性としては「チョット」抵抗がある、そこで、
  ある程度、ストックするようになる。 ビールなら冷蔵庫で間に合うが、ワインだと、冷え過ぎて、味が落ちる。それに、
  寝かせて貯蔵するワインは、冷蔵庫に不向きだ。  
  手頃な値段でインターネットで取引されている、「北欧製のワインセラー、何と、魅力的な調度品なのか」と、思ってしまう。
  一升酒、か、ビールのがぶ飲みしかしらない 「おじさん達」と違い、洗練された、女性にとって、夕食時1杯のワインは、
  明日へのビタミン剤なのかな? と、思う。
  ちなみに、ワインセラーは、8℃〜15℃の適温。日によって、種類の違うワインを飲みたい人に取って、5〜8本程度入る
  大きさが、最近、都心のマンション住まいの若い人達と独身女性の「ワインセラー」ブームになりつつある。
  韓国の人がキムチ専用冷蔵庫を持つている、と同じ程度に、若い人達の必須“調度品”なのかな?
    
   ★
 アンモニア・ガス漏れ事故
  2008'05/29東京新聞夕刊に「ワインセラーガス漏れ注意」の記事が掲載された。
  東京消防の調べとして、3年で8件の漏洩事故があり3名の人が救急搬送されている。


年度  件数  負傷者 
  2005年度  5件  1名 
 2006年度 1件  2名 
 2007年度 1件  0名 
 2008年度 1件  0名 
  
  事故件数としては都内で年間1件程度ではあるが、ワインセラーの利用状況から言うとそれなりの件数と言える。
  利用・設置場所が地下の飲食店や自宅のダイニングなど、閉鎖的な居室で利用されることが多く、漏れたアンモニア
  ガスを吸い込んで、手足のしびれなどの症状を訴えて救急搬送されている。
  ワインセラーは、冷却用の冷媒にアンモニアガスを使用しており、漏れた際の事故時に人身上の負傷者を出し易い
  こととなる。日本製冷蔵庫は、フロン系の冷媒をコンプレッサーで圧縮して、その際の放熱を利用しているが、北欧で
  は、気候的に夏場の暑さが日本ほどではないこと・地球環境の視点などから、アンモニアガスを用いる冷蔵庫が多い。
  

 ★ 取扱説明書を読んで使って下さい。
  事故を起こしている居室空間では、壁面にぴったり、家具と同じようにくっつけて、使用していることが多かった。
  このため、十分な「放熱」がとれなくなり、過負荷の状態で稼動し続けて、配管等にクラックが生じることになる。
  左右と背面に十分な空間(15cm以上)開けることが求められている。
  北欧系の機械部品は、熱帯に近い日本の気候の中では、もともと、さまざまなトラブルが発生しやすくなる。
  車両でも、北欧系製造メーカの車両はクーラの構造がラフでこの部分で火災を引き起こしている例があるように、
  この種のワインセラーも、夏場に、狭い部屋に周りの十分な空間がない状態で、フル可動することを求められる構造
  となっていないために、冷媒稼働のヒータ部が設計より過熱気味になり、腐食作用が進みやすかったものと推定される。

  ・直射日光などの当たる所と熱い場所には置かない。
  ・左右・背面・上部の空間を開けて、通風と放熱の良い所に置く。
  ・水平に置く。傾けると、冷却装置の故障につながり易い。 
 ★ 使っていて「臭いがしたら、すぐ、電源止めて!」、換気する。又は、避難。
  
アンモニアガスは強アルカリ制で、有毒性がある。吸い込むと、激しい鼻・喉の刺激を受け、長時間におよぶと肺や
  気管支の炎症を起こす。
  
   2,ワインセラーからの火災 
  ★ これは、ワインセラー機器からのアンモニア・ガス漏れの事故ばかりでなく、「火災」を発生させていることから、
  その調査概要を、雑誌・東京消防を引用させてもらった。(所轄は麻布)

 
  出火したのは、マンションのダイニングキッチン内に置かれていたワインセラーで、床等も焼損した。
  当初、メーカでは、アンモニアガスの冷媒であり、「火災事例もない」ことから、他の原因では、との意見があったが、
  火災原因は、冷媒のアンモニアガスと合わせて使用されている水素ガスが、配管クラックから、噴出したことにより
  出火したものと判明した。
     
 焼損したワインセラー。   背部は手前のボイラ・左上部のコンデンサ
 その下のアブサーバがあり、その下部に
 電源部と冷媒タンク(受液槽)がある。
 焼損は、ボイラ背部付近が強い。
 ヒータと抱き合わせって、溶接されて
 いる溶媒配管のピンホール(クラック)
 ここから、焼けが見られる。
 
   
 ★ 事故原因
  この外国製のワインセラーは、冷却剤としてアンモニアを用いて、水素との反応により、庫内を冷却する“拡散方吸収式
  冷蔵庫”である。 圧縮型の協力な冷蔵庫を必要としない北欧諸国の定温冷蔵庫(8℃〜15℃)として、広く使用されてい
  る。
  原理は、アンモニア水溶液を加熱して気化し、高温・高熱にして、水分だけを回収し、コンデンサに送って放熱させて液化
  させ、この液体を庫内のエバポレータに噴出させると、気化して、気化熱を奪って庫内が冷却する。気化したアンモニアを
  さらに、水分と反応させて高濃度のアンモニア水となり、又もとに戻る。その際、気化効率と分離を良くするため、庫内のエ
  バポレータに入るところで水素ガスと混合させ、混合ガスにして、比重差を利用して分離し、アンモニア水溶液を取り出す。
  この構造上の中で、加熱するボイラと呼ばれる配管部付近でクラックが発生した。


  クラックは、ボイラと呼ばれる加熱部のヒータと溶媒が流れる管の抱き合わせの溶接部に発生し、応力腐食破れによる
  ものとわかった。つまり、気相部と液相部の境目になるため、圧力応力と腐食反応が進行しやすく、また腐食抑制剤(イン
  ヒビター)の影響もあって、クラックが発生した。
 
  火災は、クラックからアンモニアガスが流出し続けると、アンモニアのガス圧が低下して、アンモニアガスと水素ガスの分離
  位置がズレるために、次第にクラック部が水素のガスの領域入ってきて、水素ガスが噴出し、高圧の噴出時の配管との化
  学反応と摩擦熱で高熱となり出火するものであった。
 
  本事故品は、フィンランド製(型式RD2000)ワインセラーで、2008年4月8日新聞紙上で社告している。

 ★ 日本でも、近い将来、このアンモニアガスによる「吸収式冷却システム」の冷蔵庫が広がると思うが、北欧系で開発された
  機器類は、市場でのトラブル対策を経て、安定してから、購入し利用されるほうがベターかなと思う。

 


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