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IH電磁調理器からの火災
                               A1−47   10’12/26

 1, IH電磁調理器
 
   電磁調理器は、便利だ。
  何よりも、「火災による死者」の中に占める「着衣着火による死者」を低減させることでは、最も有効な手立てである。
  このホームページの「着衣着火」のページに記載したように、ガス会社の方針となったハイカロリーバーナの利用拡大が、
  結果的に
「あふれ火」の現象を招き、そのため着衣着火が急激に増大した。確かに、着衣着火は、石油ストーブなど
  「火気器具全体」に言える現象ではあるが、着衣着火の死傷者の増加は、ガス会社のハイカロリーバーナの商品拡大
  と時期が一致している。この点では、ガス会社の“製品安全”指針の見直しがない限り、次の100円ライターになりか
  ねない。内向きバーナや予混合バーナなどの開発が望まれる。
  次第に、このガス器具の危険性の認識から、
IH電磁調理器に器具変更をする人が増えている。良いことだと思う。
  2008年(平成21年)の全国の火災による死者1300人の9..2%の120人が着衣着火によるとある(消防白書)。 もちろん
  全部がガス器具ではないが。その大部分を占めていることは間違いない。
 
 IH電磁調理器の便利さは、揚げ物時に直火ほどに気を使わなくても済むことや掃除のしやすさなどがあり、「ガスより
  安全・清潔」の意識の中で設置率が増加している。下図では、2009年の普及率が13.6%と、なっている。しかし、利用面
  での増加は、その特性を理解しないまま使用して、火災などの事故を引き起こす件数の増加を招くことになっている。
  よく指摘されるのは、調理後のプレートが高温になっている時に触って火傷をすること、であるが、救急事故の実態からは
  他の調理・暖房・ポット類と比べて、そんなに多い比率ではないが、将来的には危険要因を内包させていると思う。現段階
  で、言えることは、「分厚い取り扱い説明書を必要とする」ことから来る“面倒な器具”と言う印象はあるようだ。
 

  IH電磁調理器の原理と安全性
  
  電磁調理器のプレートの下には、うず巻き状のコイルが内蔵されており、2万Hz以上の高周波電流を流すことで、電磁
  誘導の法則にしたがう磁力線が発生し、この磁力線により、プレート上の鍋などの鉄材が渦電流を発生させます。鍋の
  鉄材には電気抵抗があることから、この渦電流の流れによって鍋自体が電気コンロと同じ原理で発熱します。発熱によ
  る熱で調理することになります。
   このため、渦電流が流れなければ熱が発生しないので、土鍋、ガラス容器などは絶縁体を過熱することができませんし、
  銅やアルミニウムなどは、渦電流が金属体内部に入り込まず、金属体の表面を抜けてしまい、電気抵抗が極めて小さい
  ため、熱の発生も弱くなります。
  ホーロー・鉄・ステンレスなどの“磁化されやすい金属”で、電磁誘導が生じることが必要です。
  このように、利用する鍋の材質が限られているばかりでなく、安全のために様々な装置が組み込まれています。
  メーカによりそれぞれ異なる仕様となっており、一概に言えません。
 @ 過熱防止機能・空焚き防止機能(急激な温度上昇や一定温度以上検知、停止)
 A 揚げ物鍋そり検知機能(揚げ物モード使用時、鍋底に2mm以上の凹凸を検知、停止)
 B 鍋なし自動停止機能(調理中に鍋がプレートから無くなった場合、30秒で停止)
 C 小物検知機能(スプーンなどの金属小物及び直径11cm以下の鍋を載せると検知、停止)
 D 切り忘れ防止(各ヒータ及びロースターを使用し一定時間経過後、停止)
 E 高温注意ランプ(調理後、プレートが高温の時はランプ点灯)
 F 調理部表示ランプ(鍋を下部コイル中央に置くようにする表示用円形のランプ)
  これらの安全装置を「注意書き」として、掲載している。
  下左が東芝のIHクッキングヒータの注意事項だ。特に、「揚げ物」に対して、
    @指定の「鍋」を使用すること、
    Aスイッチを「揚げ物」モードにすること、
    B油の量を一定量以上
とすること、の点を示し、その上で、そばを離れないにように注意している。
 確かに、これだけ「注意」を守っている限りは、「火災は起こり得ない」。しかし、人の行動は、必ずしも「注意書き」
 どおりに行動しないことから、火災などをひき起こす。
 
  
2, IH電磁調理器の火災事例
 東京消防庁管内の火災統計
 
 「電磁調理器」を発火源とする火災の統計数値は、2004年(平成16年)に6件あり、2005年、2006年は5件以下、
 2007年(平成19年)9件、2008年(平成20年)10件、2009年(平成21年)9件と、2007年以前からは、徐々に
 増加傾向を示している。 と言っても、2009年の電気関連火災は1,069件あり、建物火災での電気関連火災だ
 けでも年間906件もあることから、火災件数9件は1%でしかなく、他の電気機器類に比較すると注意喚起を呼び
 起こす、と言うほどものには至っていない。
 火災原因は、いずれも「放置・忘れる」「過熱」などの調理中に通電されたまま離れて、料理材料を焦がしたりして
 発煙や火災となっているものやフライパンなどで揚げ物をしたため“天ぷら油火災゜となっているものである。3年間
 で1件だけ、内部基板のトラッキングによる火災が上げられているが、他は人為的な不注意が原因となっている。
 機構的には様々な安全装置が
IH電磁調理器には、組み込まれているが、「人の予期せぬ行為」の中で火災は発生
 するものであり、必ずしも「安全神話」に寄り掛かって過信することは禁物だ、と言える。
 
 ★ なお、火災統計上の注意点として、移動可能なコンパクト設計のIH電磁調理器とガラスプレート板の電熱調理
  器を間違えて、発火源としていることである。 原因の詳細事項で、プレート上の「可燃物が燃えた」と言う場合や
  プレート上の「スプーンが過熱されて、付近の可燃物が燃えた。」と言うような事案は、電熱器具をIH器具と思い
  込んで、誤った判定しているものである。 このため、全国統計などでは、この発火源の見誤りの誤入力が多いの
  で、他の発火源コードと異なり、最も多く誤入力があり、火災統計数字が全てその器具の火災とは言えない
  ことである。
  
火災事例
 事例として公表されているのは、東京消防では、平成9年1月・平成19年6月の2件(いずれも月刊「東京消防」)。
 京都市消防は、平成14年頃(全国消防技術者会議資料・平成15年10月)。
 また、“火災の事例はない”が検討した報告として、名古屋消防・熱田消防署が月刊消防で「IHクッキングヒーターに関
 する考察」があり、さらに詳しくは、国民生活センター「IHクッキングヒーターの安全性」(2003年7月4日)が出されている。
 検証内容としては、国民生活センターの論文が優れており、ネットで入手可能です。
 [入手先] http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20030704_1.pdf 

  以下に、消防関係の火災事例を紹介します。
 #1 (京都)2003年  ミルクパンに油を入れて「加熱した」際に火災となった。
  この研究会報告では、火災事例そのものの記載は見当たらず、火災実験として、
  IH用対応「揚げ物鍋」を使用して、「加熱」モード、と「揚げ物」モードで油の量を変化させて実験し、次に、非対応「鍋」を
  使用して、同様の実験を行っている。
  結果的には「揚げ物」モードでは安全装置が働き「発火せず」、「加熱」モードでは、対応鍋だと油が少量300cc
  以下
の時に「発火」し、非対応鍋だと過熱モードだと、油量が1000ccと多量でない場合は、全て「発火」している。
   IH用対応「揚げ物鍋」を使用して、「加熱」モードの実験結果
 
 
#2 (東京)1997年1月 世田谷
 調理としてではなく、作業場の作業中にIH電磁調理器を熱源として使用し「紙粘土」の製作中に出火した火災。
 作業場で紙粘土によるお面を作っており、牛乳パックを紙粘土の原材料にしていた。このため、紙パック表面のポリ
 エチレンフィルムを剥がしやすくするため、鍋に紙パックを入れ、電磁調理器で過熱して煮詰めていた。出火時、発
 見者は、電磁調理器上のステンレス鍋から高さ30cmの炎が立ち上がっているのを目撃し、119番通補遺した。
 作業は、出火前日の14時頃に鍋をかけて、スイツチを入れ、そのまま忘れてしまい、17時間放置、加熱されていた
 ことが判明した。
  電磁調理器に置かれ置かれていた鍋は、直径28cm、高さ9cm、厚さ1mm、容量5.9?のステンレス製鍋で、
 そこが内側にくぼみプレートとの接触面に約1mmの隙間ができる。鍋内には、牛乳パック20cm×4cmに裁断され
 た250枚の束が2つ入れられ、下の束はほとんど炭化し、上の束も一部炭化していた。
 牛乳パックは、表面のポリエチレンフィルムは、発火点約350℃、紙パック部は発火点約430℃であった。
 =再現実験=
 @ 底の平らな
IH用鍋を用いて、加熱実験すると、鍋底が240℃になると「異常温度防止装置(空だき・過熱防止)」が
  作動して、過熱が停止され、止まった。
 A 火災時の鍋を使用して、同様の実験をすると、鍋の水が蒸発して空だき状態となった後に鍋底は552℃となり、発煙
 し、温度制御装置が働き、温度低下し温度が360℃で、再び、上昇し400℃前後で推移した。この状態で加熱を続けると
 ポリエチレンフィルムが溶融し、紙も炭状の無炎燃焼となった。 「空だき状態」となった時のステンレス鍋の底のくぼみが
 過熱による熱膨張のため、くぼみが13mmも反り返っていた。
 = 結 論 =
 このように、見た目で「底が平な鍋」で、IH電磁調理器用にふさわしと思っても、過熱影響により鍋底に「反り」が発生して、
 安全装置が働くなることがある。「底が平な鍋」と明記されている「平」の見方は、鎮火後の火災現場の中では、過熱された
 場合にも「平」かどうかを、現場の鍋の性状から確認して見る必要がある。

 #3 (東京)2007年6月 杉並
 一般住宅で、組み込み式の
IHクッキングヒータで、揚げ物中出火し、天井等台所の一部を焼損した火災が発生した。
 居住者が、揚げ物をするため、市販の鍋に油150ccを入れて、「揚げ物モード」により加熱し、他の調理をしたいたところ、
 鍋から発煙したため、スイッチを切ろうとしたが、鍋から炎が上がったので、鍋をシンクに運んで、水道水で消火した。
 調査時には、IHクッキングヒータは正常で使用可能であった。
 使用した鍋は、直径17cm、深さ約15cmのステンレス製で、通称ミルクパンと呼ばれる片手鍋で、重宝される鍋だ。
 =再現実験= 
 
A 専用「揚げ物用鍋」を使用する。
  @ 油100ccを入れて、中心において、「揚げ物モード」で加熱、2分で発煙、油温度320℃で過熱防止が働き、停止、
    油171℃と低下した時に、再入力され加熱を始め245℃で電源停止、195℃で再入力、この繰返して「出火せず」。
  A 油200ccを入れ、中心から20mm前方に置いて「揚げ物モード」で加熱、2分40秒で発煙、油280℃で過熱防止が
   働き、その後は、@と同じで「出火せず」。
  B 油200℃を入れ、中心から35mm後方に置いて「揚げ物モード」で加熱、2分15秒で発煙、油303℃で過熱防止が
   働き、その後は@と同じで「出火せず」。
 B 出火時使用した、ミルクパン鍋を使用する。
  C 油150cc(油面高さ1cm)を入れて、中心において、「揚げ物モード」で加熱、211℃で、揚げ物鍋そり検知機能が
   働いて、電源がOFFとなり「出火せず」。
  D 油150ccを入れて、中心から20mm前方置いて「揚げ物モード」で加熱、2分15秒269℃で発煙、3分00秒で
   337℃となり、3分30秒387℃となって、3分37秒405℃で「発火し、出火した」。
 = 結 論 =
 
京都市消防局の初期の実験と同様に、他の実験レポートはいずれも「揚げ物モード」ではなく「加熱モード」にした時に
 「発火し、出火した」と報告されている。
 今回のように「揚げ物モード」であっても、条件[ミルクパンやフライパンなどを使用・中心よりずらして鍋を置く・少量の油
 を使用する]の条件が揃うと「火災事例」のように出火し、火災となった。

 火災実験によりIH電磁調理器から「出火した天ぷら油火災」

 ミルクパンの鍋に小量の油を入れ、鍋の位置が中心からずれでいた

 たため、「揚げ物モード」を使用していても出火した実験。

 
IH電磁調理器の火災事例から見た注意点
 
 IH電磁調理器を使用している方では何度か経験があるかもしれないが、予備加熱していて「フライパンを焼いてしまう」
 ことだ。ガスと比べて「炎」に対する認識が薄く、このため、「加熱が遅いのでは」と思っている人が多いことだ。 
 実際は、ガスよりも「火力が強い」ことで、しかも、ガスのように鍋ややかんの全体が熱くなっていくような状態ではなく、
 プレートに接した底部周辺が、強く熱せられる状態ができることだ。
 調理人の中には、このことから「煮込み、をすると鍋底が焦げやすく、具材に味がしみ込まない」などと言う人もいる。
 このように、火力がガスより強く、ミルクパンのような鍋で小量の油を加熱すると「危険だ!」と言う、理屈を
 提示して、わかってもらう必要があるのではと思う。
 現行の取り扱い説明書は「なぜ」と言う、説明がほとんどない。
 下左の「鍋」の形状注意などは、大変詳しく分かりやすいが「なぜ、なのか」の説明がないから、読んだあとの
 記憶に残らない。 下右の「揚げ物時の注意書き」などは、全部覚えて守ることがたいへんなことだ。
 (いずれも、パナソニックのIHクッキングヒータの取説)
 ガステーブルには、プレート部に「揚げ物時の注意書きシート」が貼付されているが、最低限注意すべきことを
 貼付することも必要ではないかと思える。IHクッキングヒータは、「見た目に美しい」との印象をセールスポイントにし
 ているためか、その分、取説書にぎっしり書き込んで、「説明責任を果たした。」と言う態度は、メーカの責任のあり方
 としては考え直すべきではと思う。これからの需要が、IH電磁調理器に向かうのは、ガスの「あふれ火」の解決策がない
 ことからも明白だと思う。
 火災や事故を踏まえた、「説明責任」を検討してはどうだろうか?

  IH電磁調理器からの火災を取り上げた。
 他の電気機器類に比較すると、人が日常使用する器具としては「安全性」が極めて高い製品だといえる。
 しかし、取り扱い説明書を熟読して、そのとうりに使用しないと危険性が高いことも確かであり、「揚げ物モード」でない「加熱
 モード」で、ミルクパンなどの鍋を使用すると危険だ、と言うことが分かりにくいことも事実だ。
 ガステーブルも最近は左右のコンロともに「過昇温度防止装置」が着いて、天ぷら油火災への対応を一応付すようになり、
 どんな場合でも「安全性」を優先することとなった。
 しかし、IHクッキングヒータでは、使用時に「揚げ物モードにする」と言うことが、どれだけ理解されているのだろうか。トップ
 プレートには、そのような表示がになく、引き出し式スイッチを開けないと分からない構造のものもある。
 一般家庭の調理器具は、誰もが全員その取り扱い説明書を読む、とは限らない。
 「火災への落とし穴」は、そんな当たり前のところに横たわっているように思う。
                    
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