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回廊型遊具の火災
                               A8-48   11.06.05  

  1,回廊型遊具の火災
 
 ★ 回廊型遊具の火災
 
 この火災は、 奈良市消防局により平成13年全国消防技術者会議で報告され、翌2002年2付きの火災学会誌
 で、火災概要とその火災調査結果等について報告されている(火災No256号)。 さらに、平成21年6月に東京都
 墨田区で同様の火災が発生し、その事例を東京消防庁向島消防署が平成22年全国消防技術者会議でも発表
 した。
  平成11年5月奈良市で発生した合成木材の回廊型遊具の火災調査結果は、当時は、特異な火災であり、火災
 以後は、遊具の材質を難燃性又は自己消炎性に改良されて安全性を確保にしていくはずであったが、10年後に
 同様の火災が東京都内で発生し、改めて、当時指摘されたその熱量の大きさにより付近の多数の住宅等が輻射
 熱で被災することとなった。

   
 火災延焼中の情況、  出火する前の回廊型遊具の形状と大きさ

 
      
 ★ 公園の回廊性遊具が燃える
  回廊性遊具は、階段・展望台・吊り橋・回転滑り台などを多様に組み合わせて冒険心を掻き立て、子供の遊び心
 を引き付けてアスレチック感覚で遊べる遊具で、公園、幼稚園など多くの場所で敷設されている。遊具の構成素材
 は、鉄材、白木の木材や板、合成樹脂製疑似木材などが使用されている。遊具の材質が可燃性であれば放火等
 により「燃える」ことはあるが、火災となった合成樹脂疑似木材で組み立てられた回廊型遊具は、その燃え方が建
 物火災に近い性状となる。
 

 回廊性遊具
 大規模公園などでは
 良く見かける遊具だ。

  2,材質とその燃焼特性

 材質

  この合成樹脂製の疑似木材の材質は、成分分析表によると[ポリエチレンPE 70%・ポリプロピレンPP 25%、
 その他5%]で、数社から製造販売されている。東京の火災現場の製品名称はプラスチック製擬木「プラウッド」
 となっている。成分的にもポリエチレン(PE)の発火温度が約350℃なので、ライター等で着火しやすいことはわ
 かる。
 合成樹脂疑似木

 着火実験
 火源 合成樹脂擬木 杉の木材
マッチ マッチ2本で着火拡大 着火せず
ライター 60秒で着火拡大 着火するが拡大しない

  有炎火源に対しては、着火性が高く、容易に着火してその後に拡大に向かう。
  たばこでは着火せず、微小火源などの花火の火粉の降りかかっただけでは着火しないと推定されことから、
  「放火」など意図して有炎火源を接しない限りは、火災とならないので火災事例が少ないものと思われる(統計的
  に火災事例がほとんど計上されていない)。 
着火

実験
 (写真には、バックが黒なので、本体の端部に“白い線”をいれている。)

ライターで着火すると容易に着火し、燃え上がると液状化して「炎の点いたしずく」が滴下する。

 
熱量
単位面積あたりの
最大受熱量
(試料から1mの距離)
最大輻射温度
(試料から10cm)
合成樹脂擬木 1.39kW/㎡   184.0℃
 木 材 0.39kW/㎡  77.7℃ 


 実験の受熱量から比較すると、放出されるエネルギーは
 木材の3.5倍、最大輻射温度は2.4倍近い値となった。

 奈良市消防では、実大規模の火災実験を実施している。
 この時の疑似木材の材質は、ポリエチレン約80%、木粉約20%で、
 実験報告では、やぐら状(高さ4.2m)のステージ(高さ1.4m)の上に新
 聞紙に火を点けて置くと、約3分で着火燃焼を開始し、約12分30秒
 でやぐら全体が「炎」に包まれている。
 やぐらから1mと2mの距離に疑似木材を棚状に設置したところ、1mの
 ものは14分30秒、2mでは16分20秒で、やぐらの火災の輻射熱で着火
 している。
疑木の燃焼状況


   3, 遊具の火災事例

  平成21年隅田区の公園で発生した火災では、公園の周囲の住宅等に延焼しており、6.6m離れた
  最も近い①建物は23㎡が焼損、②建物が外壁50㎡、③建物が外壁3㎡、④建物が外壁若干焼損し、
  他に周囲の建物8棟に窓ガラスの破損等計12棟の公園周囲建物の損害が出ている。
 
 
 火災の発生した公園の周囲の状況

 赤い色の部分が、回廊型遊具。

 南に近い住宅が6.6mの距離にある。

 出火箇所は、西側のやぐら(中央部)である。
 公園は西側を約50m、南側を約25m道路に接し、北側、東側と南の半分を住宅に接しているL字型の公園で、
 東南隅に東西約10m、南北約22m、高さが5.4mのやぐら2台を吊り橋でつなぎ、階段、滑り台、雲梯、ブランコ
 などが組み合わされた回廊型遊具が設置されていた。
 遊具に最も近い建物は、東側④建物で4.5m、南側①建物は6.3mであった。
 火災は、夜の11時過ぎに発生し、近隣者が公園で遊具が激しく燃えているとの119番通報であり、別の近隣者
 が自宅の消火器を搬送したが、火勢が強く近づくことができなかった。
 
     延焼中の遊具の状況   鎮火後の焼け崩れた状況
 
 公園内の回廊型遊具は、その性格からもほとんど骨格だの遊具である。それらが、燃えると、6m離れた建物など
 の外壁を経て、延焼していく輻射熱量がある様相を呈する。
 合成樹脂製擬木は、自然に近い見栄えがあり、耐久性に優れ強度もあることから、今後とも幅広く使用されるもの
 と思われる。 しかし、一旦、火が点くと建物火災以上に始末の悪いものとなる。また、奈良市消防の実大実験でも
 初期消火時の放水は、却って油火災と同様に炎を拡大させ、危険性が高まることが報告されている。
  火災防ぎょ時の放水には、特に高さの高いものほど、近づきすぎないことが必要で、周囲建物等の延焼防止を主
 眼として、包囲体系による放水が必要とされている。
 
 
 
参照した文献

 ① 東京消防「公園の複合遊具から出火し、建物12棟が焼損した火災」第58回全国消防技術者会議 2010年10月

 ② 同内容 「公園の遊具から出火し、建物12棟が焼損し火災」 「東京消防」2010年1月号(主任調査員からの報告)

 ③ 奈良市消防局「回廊型複合遊具の火災」 火災誌(256号)Vol.52 No.1, 2002.02  


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