火災調査探偵団        Fire Investigation Reserch Team for Fire Fighters
     Title:「焼損程度の区分」-14      転載を禁ず
B1-11   11’11/12   17’02/05   .  
火災程度の区分 < 用語の解説  <火災損害調査 <ホーム:「火災調査探偵団」   . 
1,焼損程度    
 建物の焼損程度は、全焼、半焼、部分焼、ぼやに区分されています。
   「全焼」から「ぼや」まで4段階の区分は、次のように定めています。
   ・全焼…建物の焼き損害額が火災前の建物の評価額の70%以上のもの、またはこれ未満であっても残存部分に補修を加えて再使用できない
         ものをいいます。
   ・半焼…建物の焼き損害額が火災前の建物の評価額の20%以上のもので、全焼に該当しないものをいいます。
   ・部分焼け…建物の焼き損害額が火災前の建物の評価額の20%未満のもので、ぼやに該当しないものをいいます。
   ・ぼや…建物の焼き損害額が火災前の建物の評価額の10%未満であり焼損床面積が1㎡未満のもの、建物の焼き損害額が火災前の建物の
         評価額の10%未満であり焼損表面積が1㎡未満のもの、または収容物のみ焼損したものをいいます。
   全体の区分割合
  焼損程度の考え
  「建物に限って用いる区分」です。このため、収容物(動産類)は評価の対象としていません。
  「焼き損害額」に対する評価区分であり、「消火損害」など火災損害全体を対象としていません。
  このため、例えば、掛け軸として高額な書画があり、これが建物より「評価額」が高いケースであっても、焼損程度は「建物」に対してのみ考える
  ので「動産」は関係ありません。また、建物の1階、2階が水濡れとなって、内装・天井・電気設備等損害を生じても、燃えた箇所が2階の1室であ
  れば、燃えた箇所だけの「焼き損害額」を対象とします。
    では、火災損害全体を含める時はどうするか。⇒ 世帯のり災区分を用います。全損、半損、小損の3区分から判定します。

2, 「ぼや」の区分

 「ぼや」の言葉
   「ぼや」は、大きくならずに消し止めた火災。小火(ぼや)。と説明していますが、平成7年の火災報告取扱要領の改正前は、質疑応答で「ぼやは、
  曖昧な表現であり火災の焼損程度の区分としてはふさわしくない」とあり、長い間、「全焼・半焼・部分焼」の3区分だけが用いられ、「ぼや」の区分
  は東京消防、札幌消防など全国で数える程度の消防本部が使用していた。
    当時の東京消防の「ぼや」の区分は、焼損床面積3.3㎡未満(1坪以下)の火災を「ぼや」としており、さらに古くは「火災に至らず」と言う非火災区
  分が設けられ、これと混在する時期もあり、正直、曖昧な感じもありました。   
    「ぼや」を創設した時期を見ると、消防白書の平成5年から8年の統計数字でわかるように、平成7年から「ぼや」が区分とされたことがわかる。当時、
  区分の切り替え時の説明不足もあり、統計のバラツキが発生し、平成7年の焼損棟数は、実態とはあっていないと推定されている。 
 
 年  次   焼 損 程 度
 計 全焼 半焼 部分焼 ぼや
平成5年
46,124 11,269 3,934 30,921
平成6年 47,980 12,185 4,111 31,684
平成7年 57,957 18,820 4,263 16,915 17,959
平成8年 51,046 11,861 4,027 16,772 18,386
    
 
「ぼや」の区分
  「ぼや」の創設は、製造物責任法(PL法)の制定の中で、建物内の収容物だけの火災が発生すると「建物火災として扱われない」ことが一部消防本部
  に見られることから、あえて「ぼや」の区分を取りいれました。
   これは、「建物の焼損程度」は、本来的に「収容物」の焼き損害を含まないものであり、あくまで建物の本体における「焼き損害」に対する区分である
  ことから、”収容物だけが焼損”すると「建物の焼き損害額は」となり、「部分焼」などの区分が適用できない、と言った「ドツボにはまった統計」となり
  「建物火災に非ず」と言う判断が支配したことによるものです。(このような場合、「電気等事故」の区分を取り入れた消防本部もありました)。
   このため、あえて「収容物のみが焼損した火災」を建物火災の区分に取り込んだもので、その時に、「部分焼」にも至らない、初期消火で消し止めら
  れたような火災としての「ぼや」区分を設けています。
   なお、その時、壁や床等の表面だけの焼損した部分を取り入れることとし「焼損表面積」も平成7年から同時に入れた経緯がある(消防白書の統計
  を参照)。その時に、ぼやを「焼損表面積1㎡未満」とし、1㎡が最小単位としてわかりやすいことから定めている。
   もっとも、昭和40年頃は建物火災の面積は「坪」単位で焼損面積を表現しており、火災調査書類は「〇〇坪(○○㎡)」と併記していた(当時は焼損
  床面積とは言っておらず焼損面積だけの用語であった)。
   このように、坪が基準であったことから、改正前の「部分焼」の定義は、「焼損面積が、3.3㎡(坪)に満たない火災」として、”坪の単位”を用いていました。

 「ぼや」は今後どのようになっていくか
   
東京消防での建物火災に占める「ぼや」の区分の割合をグラフにすると
  グラフに示すように1995年から2015年のわずか20年間で61%から76%
 へと増加しています。
  しかも、東京消防の約4割が「事後聞知火災」ですから、必然的に「自らが
 消し止めた火災」の増加は、事後聞知・ぼや火災の区分を増加する傾向は
 となっています。
  これは全国的に同じ傾向となっています。
     
3, 焼損程度の区分を考える
  焼損程度の区分
   昭和50年の改正で、焼損程度の区分を、建物のり災前の評価額に対する焼き損害額の割合とした。それ以前は、焼損床面積で扱うとしていましたが、
  焼損床面積に対して焼損表面積が大きく計上されてしまう火災が出てきたことから、建物の焼き損害額と言う厳格な指標により求めるものとしました。
    しかし、この方法は、り災した損害額の決定の算出方法からわかるように、結果的にはり災時の[単価]に対して、面積が乗ずる形となります。
   結果的には、「木造系建物火災」では、建物の床面積に対する焼損床面積の割合に近似されてしまい、焼損表面の損害額の割合はあまり影響され
  ないことです。
   さらに、「耐火系建物」では、建物の評価額は、躯体構造が5割以上を占めることから、建物の内部の全てが焼損しても評価額比率では「半焼で
  しかない」こととなってしまい、理解しづらい区分となっています。
   また、焼き損害額とすると火災後の広報で「焼損した建物は全焼2棟、半焼1棟」等の広報ができなくなり、火災時の「広報の速報性」に疑念が生じます。
    つまり、既に建物火災の過半が「耐火系建物火災」となっている現状では、この火災報告取扱要領に定める「焼損程度の区分」は、社会の実態を
  反映しきれない「ドツボにはまった」状態となっています。
    現在、全ての消防本部は、建前はともかく実際は「建物の建物床面積に対するり災による焼損床面積の割合」を焼損程度の区分として報告要領に
  入力しており、評価額を厳密に扱っている所はないようです。

 
焼損程度の区分の「課題となる事例」
  「焼き損害額」で評価することが「正確性」であるかのように思っている人もいるが、次のような事例がある。
  平成25年10月に発生した「有床診療火災」において、消防庁の「有床診療所・病院火災対策報告書(平成26年7月)を見ると、この建物の焼損は、
  「建物構造-耐火系建物で、延べ682㎡。全焼、焼損床面積282㎡」となっている。この火災は、消防庁長官による火災調査がなされていること
  から、その報告書は、「正しいかな? 」と思われるが。建物延べ面積の1/3程度の焼損面面積で、かつ、耐火系建物の内装だけの焼損で「全焼」
  と記載している。
   この火災で、速報として「火災概要」が出されており(平成25年10月11日398号)ここでは、延べ666㎡、「焼損面積415㎡」とある。
  415㎡の焼損床面積であれば、ほぼ7割で「全焼」の判断かと思うが、最終報告書では焼損床面積からは「半焼」の区分となってしまう。
  
  この場合、建物内の全てが「焼き損害が著しく「・・残存部分に補修を加えても再使用できない。」」と判断されれれば「全焼」となるが、耐火系建物
  において、「り災状況」から、再使用の可否を判断するのは、かなり難しいと言える。
  
  ホテルニュージャパンは、延べ約4万㎡で、焼損面積が4千㎡であったことから「部分焼」火災と区分した。実質的には、全焼に近いと判断されるが
  出火階より下階は水損であることから焼き損害としなかった。
  この有床診療所では、出火階が1階であるとこから、たぶん3階からは天井付近の「高熱による焼損」それ以外は「煙による」損害と思われるが
  「全焼」とされている状況は、「焼損程度の区分」からすれば、「焼き損害額」を基準としているとは言えないと思われる。このように、実態としては、
 
 「焼損程度の区分」は、消防行政的な判断が加わることからも、単に「焼き損害額」として、考えると、耐火系建物火災では実情とそぐわなくなる
  おそれがある。そのことをいみじくも消防庁自身の報告書で説明していることとなる。

4, 焼損程度の雑談
 大火の火災
   大火の解説は東京消防庁「消防雑学辞典」に掲載されていますが、火災年報・消防白書の末尾の「大火の年表」は、1万坪(33,000㎡)以上の火災
   を対象としています。昔は、1町歩の広さとして3000坪が分かりやすい土地の広さの単位でしたので、戦前の火災統計はこれを対象としていたこと
   もあったようですが、統計を拾いあげる人により異なっているようです。 

 「ぼや火災を大切に」
  
  建物の壁体だけ焼損した「ぼや」火災
  テレビや冷蔵庫などの製品だけしか焼損しなかった 火災も「ぼや」火災てある。
  しかし、「ぼや」だからと言って加減と扱うと 製造物欠陥などの要因が内包されて
  いたり意外と損害額が大きかったりすることがあり、「ぼや火災」を疎かにしてはい
  けない。
  これが、火災調査の鉄則です。
  全焼火災などでは、大勢の職員を現場に投入しますが、「ぼや火災」となるとわず
 か2人から3人しか職員を現場に向かわせない幹部がいます。
 これは「絶対ダメ」。
 ぼや火災であっても、全力投球のつもりで5人程度の職員は現場に投入すること
 ことが大切です。普段から、「現場第一」で考えるクセが「全焼火災などでも」
 生きてきます。
ぼや火災を消防機関として粗末に扱っていると結局は、「全焼火災
 や死者の発生した火災」で、その現場を捜査機関に「お願い」する姿勢となってしまい
 ます。

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