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火災調査と全国消防の動向 

                                           2007’09/09

  第1期     全国消防長会 「火災調査研究会」 の開設
 
 昭和57年(1982年)。
 国民生活の都市化・電化による変化から、火災の原因も変化してきており、火災調査に関わる
 困難性が増してきていること、また、戦後の自治体消防黎明期に「火災調査」の新天地を切り開
 いてきた職員が退職していく時期にきており、弱体化が懸念されること、裁判等で消防の作成す
 る火災調査書類が証拠採用される機会が増えてきていることなどから、今後の火災調査に関わ
 る質的な強化を求める声が各消防本部からあがってきた。
 そこで、全国消防長会の中に、昭和57年1月1日「火災調査研究会」が設けられた。
 3月末までの短期間であったが、審議検討の基に、3月31日「答申書」が研究会から、全国消防
 長会長に報告された。
 
  答申書(抜粋)
 「1 概 説
   火災の調査は、火災の出火原因等を救命するとともに、その結果を消防行政に反映させる
  ための重要な業務で、市町村消防の固有の事務であり、消防はその責任を果たさなければ
  ならない。
   近年、火災の様相は年ごとに複雑多様化し、火災の原因及び火災性状はますます特異性
  を増している。したがって、火災原因等を救命して適切に行政に反映させるためには、高度の
  専門的知識が要求されるようになってきているところである。
  ・・・
  ・・・
  2 火災調査執行体制の強化方策
  (1) 火災調査研修の充実
    (概要) 都道府県の消防学校での「火災調査」研修が専科教育として十分に実施されてい
   ない面がある。
    消防大学校に独立の課程はなく、本科・予防科・警防科でそれぞれ一定の時間設けて教育
   しているが、必ずしも、十分な教育・研修体制とはなっていない。
    これらのことから、火災調査研修の充実策として、それぞれの立場で、強化していく事が望ま
  れる。
  ア 全国消防長会支部又は都府県消防長会における強化策
   ・ 県消防学校等で地域内の火災調査員の養成のための特別な講座を実施しているもの。 
   ・ 県内の火災調査事務処理要領を 統一化して、技能向上をはかることとしているもの。
   ・ 原因判定が困難な場合、県内又は支部内で、技術援助養成又は照会等を行い、技術
     向上しているもの。
   ・ 実技研修のため、火災の多い消防本部へ調査員を派遣し、研修させているもの。
   ・ 特異な火災について、隣接消防本部が相互に協力して調査にあたり、技能向上している
   もの。
   ・ 地域内の本部の調査員が定期的に集合して調査研究を行い、意見交換による技術向上
   しているもの。
   ・ 消防本部を置かない市町村の火災原因調査を知事から、中核的な都市が委任を受けて
   行なっているもの。
  イ 消防学校における火災調査研修の充実
   火災調査教官を派遣し、協力し、合わせて、消防学校に火災調査研修の充実を要望する。
  ウ 消防大学校における火災調査研修の充実
    より高度な火災調査技術を教育・研修し、合わせて、消防学校の教育レベルの向上を図る
   ように要望する。
 (2) 火災調査に関わる相互応援体制の確立
   (1)のアを参考に、地域の実情に則した、相互支援体制を確立する必要がある。
   ・消防長会の申し合わせ ・消防組織法に基づく消防相互応援協定
   ・地方自治法に基づく職員の派遣
    などの方法による。
 (3)  都道府県知事及び消防庁長官に対する要望
   (1)に掲げる火災調査研修の充実、(2)相互支援体制の確立に関しての指導助言を
   要望する。 」 以上。

 この報告書に基づき、各県消防学校長への要望と消防庁長官への要望がなされた。
 
さらに、報告書の具現化等を含めて、次の3項目が引き続き検討されることとなった。
 昭和57年4月から、昭和59年3月までの2年間、検討するこことなった。
   @ 火災調査事務処理基準の統一化について
   A 特異災害事例の分析、検討システム化とデータの蓄積について
   B 調査情報の交換システム化について
   
 これらは、@については、その後、検討会にオブゾーバとして消防庁防災課員が参加
 していたことから、検討事項に基づき 「火災報告取扱要領」の一部改正となった。
   Aは、Bで交換された情報を蓄積していくことで、Bは全国消防長会報を利用して
 情報交換がなされていたが、次第に情報が減って、中止された。
 火災報告取扱要領では、「火災種別」の取りかたを弾力的なものとするなどの改正となった。

 要望書により、
 消防大学校では翌昭和58年3月から「火災調査講習会」として、予算外の講座を開設し、
 全国の火災調査員の養成の本格的に着手した。
 都府県消防学校においても、県内中核消防本部からの応援も得られやすくなったことから、
 「火災調査」専科課程を開設する学校が増加した。
 東京消防庁の「火災調査技術教本」、名古屋消防「火災調査」、京都消防では当時の調査
 係長木野村氏の「火災調査員へのアドバイス」など、多くの火災調査テキストを刊行する動きと
 なった。
 消防大学校の「火災調査講習会」も当初は、講習会として3日間であったが、毎年拡充され、
 14年後には9日間の授業を確保するまでになり、その実績から、現在の「火災調査科」の創
 設に続いた。
 また、火災調査書類の中で、従来までの「出火原因判定書」を中心とした書類構成だけでは
 なく、消防の予防行政などに積極的に利用できるような書類記載方式として「防火対象物調書」
 「火災による死者の発生調書」などの項目列挙式の調書作成ができることとなった。          

  第2期    製造物責任法と情報公開の動向に伴う対応

 平成5年から平成7年
 
 消防庁
 製造物責任が議論され始めて、製品における「欠陥」の定義や被災者救済の方法論など
 多くの課題が提起される中で、国会で同法律が審議・可決された。その際の法律の付帯決議
 に、製品の欠陥の立証面において、「消防の火災調査活動」が取り上げられ、法の趣旨に則っ
 て協力することが明記された。
 これらの議論と平行して、消防においても、「火災の原因調査の判定時の精度向上」に向けた
 さまざまな対応がとられることとなった。
 消防庁において、平成5年から7年まで「火災原因調査体制充実方策検討委員会」が
 平野東大教授を委員長として検討された。
   まず、各本部の調査体制・原因不明の火災内容・鑑識技術・研修制度など実情の調査が
 なされ、その後、様々な角度から検討された。
 そして、平成8年3月に「火災原因調査体制充実方策検討報告書」としてまとめられた。
  
 報告書
 (抜粋)
 「 @火災調査担当者の資質向上
   消防大学校・消防学校の中間的な位置づけで「火災原因調査等推進組織」を整備して、研修
   の機会をふやすこととなった。また、消防大学校等で研修を受けた者を消防本部として
   「主任調査員」と言う名称で優遇する。
  A 火災調査書類のあり方
   火災調査書類の記載に関わるひな型を作成し、提示された。
  B 調査業務の内容
   近隣消防本部間での火災調査の相互支援制度を確立させて、調査技術の向上に努める。
  C火災関連情報データベース
   火災資料をデータベースにより、相互に情報交換ができるようにし、製造物からの火災に
   適格に対処する。
  D 火災原因調査の情報公開
   行政上に支障がない範囲で開示する。

 @は消防科学総合センター内に「火災原因調査室」が設けられ、「研修講座」が発足した。
  現在は、消防大学校の火災調査講座が発展的に「火災調査科」となったことから、大部分は
  吸収され、講習的な内容は「消防科学センター」内「火災原因調査室」が行なっている。 
 Aは、報告書の中で示され、通知文となったことから、以後この様式に基づく書類作成と
 なっている。現在、消防大学校・消防学校などのテキストは、この通知文の内容に沿っている。
 しかし、未だに、これらの全国規模での検討内容を知らないで、個別に消防本部として、考え方
 の異なる書類作成を定めている所も見られるが、徐々に全国的に同じ考えで「火災調査書類」
 が作成されるようになってきている。 
 Bは、一部の消防本部間で、応援制度を作成し、運用されているが、2007年現在では、
 当時ほど、活発ではなくなっている。それぞれの本部の火災調査技術力が平準化しているため
 と思われる。
 Cは、@と同様、消防科学総合センター内に「火災原因調査室」で収集しCDとして、各消防
  本部に提供するとともに頒布している。また、各種の「火災調査の項目別のテキスト」が発刊
  され、全部でシリーズとして、10冊以上頒布している。(「火災調査リンク」のコーナ参照)
 Dは通知文となった。 
 関連する通知文。
   平成7年6月5日 「火災原因調査体制の整備・充実について」
   平成7年6月27日「火災原因等調査書類の開示に際しての取扱について」 
   平成7年8月17日「火災原因調査等支援組織の設置について」
 火災報告取扱要領も一部改正した。 

 全国消防長会
  製造物責任法が平成7年から施行されることから、従来にも増して、製品から出火した際の
  火災原因調査結果の類似火災予防への活用を図る必要が生じた。
  このことから、火災の再発防止のための措置のあり方を検討することとなった。
  平成7年9月 全国消防長会に関係事業推進委員会で構成する
  「出火機器等の改善指導マニュアル策定委員会」が設置され、検討された。
  平成8年3月に「出火機器等の改善指導マニュアル」がまとめられ、報告された。
  この中で、従来の「火災調査の進め方」に付加されて、製品から出火したと推定される時は、
  「立証のための調査」を行なう手順が定められた。
  また、 この際には消防法第34条の「資料提出命令権」を行使することや、改善指導時の
  文書のひな型が示された。
   
   

  第3期     情報公開の流れに備える対応
 
 平成10年から平成13年
 製造物責任法が平成7年7月1日から施行されるとともに、各地で、火災時に「製品」が関与している
 場合の火災調査の難しさが取り出されるようになってきた。
  さらに、各市町村の情報公開条例に基づく、個人情報の開示により、製品が関与したとされる
 火災に対しては、その火災調査書類の「開示請求」が、一段と進むこととなった。
 平成10年10月1日「火災調査体制の整備充実について」が消防庁から通知された。
 平成11年7月に全国消防長会から消防庁に「火災調査科」の新設等の要望がなされ、
 平成13年度から消防大学校に「火災調査科」が開設することとなった。
 「火災調査科」は、USAの資格認定としている「火災調査官」と同等の内容となるように
 従来の火災原因調査技術を中心としたカリキュラムから、「火災燃焼学」などの純粋理化学
 の分野、「模擬法廷」などの課目も設けられて運営されている。原因分野でも、「模擬家屋の
 焼損状況から、出火原因調査活動を行なう実技研修」を取り入れ、諸外国でも珍しい研修内容
 とした。
  火災に関しての個人情報の開示は、条例解釈上も当然に実施されることとなっている。
  しかし、一般の情報公開においては、火災の出火原因を含めた火災調査内容は「個人情報
 として保護される」性格のものであると判例で示されている(平成11年11月17日東京高裁)。

  第4期      消費者生活用品安全法との関連

 平成19年から
 消費者生活安全法の改正により、製品の事故情報が10日以内に「報告」し、内容によって
 「公表」されることとなった。このことから、製品が、火災に関連したか、あるいは、していないか、
 の判断が、消防の火災調査に即決的に求められることとなった。
  9月8日経済産業省は、火災など重大事故については、当該製品の事故原因が特定できない
 従来の「グレーゾーン」についても、ホームページで公表した。火災調査実施後の「最終結果」に
 さらに、関心が寄せられる事になる。


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