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アポダイジングスクリーン(またはアポダイジングマスク:Apodizing mask)は、平たく言って、穴のあいた網戸の網を2〜3枚重ねただけのフィルタです。 ※四角く出ているテープのようなものは、「取手」です。穴に指を突っ込んで付け外しするとレンズに触ってしまうので。 2006/06/29
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穴の大きさが違う数枚の穴あき網を、モアレが出ないように重ねるだけです。 写真は、金網を使用した例です。(網戸の網で構いません。金網が優れている点は、何もありません。たまたま余っていたから使っただけです。) 穴の直径は、それぞれ口径の30〜40%、50〜70%、80〜90%程度(直線比率)です。穴の直径については諸説ありますが、穴の直径も、穴あけ精度も精密さを要求しません。少々狂っても、多少偏芯しても結果はほとんど変わりません。「周囲に行くほど、だんだん減光する」ようになっていればOKです。作例は2枚重ね版です。 2006/06/29
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アポダイジングスクリーンは、どんな望遠鏡でも劇的な効果があるわけではありません。適性があります。 原理の詳しい話はあとでしますが、アポダイジングスクリーンは中央部と周辺部の光量バランスをとるためのものなので、中央部の光量が大変重要な役目をします。 したがって、中央遮蔽のない屈折式が最適です。反射式でも、中央遮蔽の遮蔽率はおおむね25%以下を推奨します。30%以上では、あまり効果は期待できません。 もっとも、日本国内で売られている反射系は、35%〜40%もあるので、期待薄です。 『実験してみたが、効果は感じられなかった』という場合の多くは、(中央遮蔽の大きい)シュミットカセグレンなどによるもののようです。 そうですねぇ…。 まずは、斜鏡を小さいやつに交換してください。とりあえず、そこからです。 あと、光学系の波面誤差が大きくてもダメです。 普段から口径に見合っただけの分解能のある望遠鏡でないと、効果は期待できません。 鏡の周囲がダレていたりしていて波面誤差が大きくなっている場合は、口径を数cm絞ってください。周辺部の波面誤差を隠す効果があるものと誤解している人もいるようですが、あくまでも周辺部からの光量のバランスを調整するフィルタですので、波面誤差があってはいけません。 2006/06/29
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ニュートン反射望遠鏡の斜鏡支持脚ですら邪魔なのに、網なんかかぶせたらコントラストが下がった上に像がメチャクチャになりそうな気がします。 ――事実、網戸越しに外の景色を見たら、コントラストは悪いですからね。 では、体験していただきましょう。 市販の網戸の網を使ってのアポダイジングスクリーン(50%開口+75%開口の2枚重ね)をかぶせた状態で火星をWebカメラで直焦点撮影したものです。 100〜150倍でのイメージと思ってください。 きれいな虹が見えますね。網戸の網が回折格子になって色が分離するからです。 これでプレアデス星団なんかをこれで見ると、ロマンチックですよ〜。 …って、これは虹を見るフィルタではありません! 注目したいのは、中央の惑星像です。 上の画像では露出オーバーのため白く抜けて何も写っていませんが、そこをよく見ると、惑星の模様が非常に濃く、明瞭に見えるはずです!! ひいき目に見ても、解像度レベルで口径が1.3倍ぐらいにアップしたように見えるので、倍率をかなりかけることができます。分解能は決して上がっていないのですが、不思議と細かい部分まで見ることができます。 人によっては「これっぽっちか…」と思うかもしれませんが、実際に惑星の表面をじっくり見たことのある人ならば、かなり違って見えるはずです。 「あともう少しの解像度」が口径の壁で越えられないのですから、その辺の意義は大きいと思います。 おまけと言っては何ですが、シンチレーションに対しても、非常に強くなります。(=つまり、中央遮蔽が大きいほど、シーイングが悪化するということです。) とりあえず、作って試してみてください。網戸の網(350円ぐらい)と厚紙やダンボール(どうにか手配すればタダ)だけです。いずれも1,000円で充分お釣りが来るフィルタです。 2006/06/29
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元々S&T誌に紹介されたのがきっかけで日本の天文アマチュアに広まったわけですが、apodization がどう発音されるかもよくわからなかったためか、仕方なくそのままローマ字読みしたという事情で、現在のところ日本の天文アマチュアでは「アポダイジングスクリーン」あるいは「アポダイジングマスク」と呼ばれています。 apodizationという言葉を調べたところ、正式にはアポディゼイションといった発音になるらしく、古典的な超解像技術の一つだそうです。顕微鏡の分野では、比較的メジャー(…とも言えないか。)な機構で、"アポディゼイション位相差顕微鏡"といったものが開発されています。 光学顕微鏡もまた、光が波の性質を持つ影響を受けるため、原理的に2000倍以上の倍率をかけられません。(簡単に言うと、光の波長、d線の0.5μmを2000倍に拡大すると、1mm相当になってしまいますね。)そんな中でも、さらなる解像度をたたきだすためにアポディゼイションという機構が採用されているようです。 なお、apodizationは、『ギリシア語の「足(pod)」を「取り除く(a-)」に由来する造語で,回折限界の像に現れるエアリーの円盤の周辺環を取り除くために光学系の開口部に施した瞳関数のこと』だそうです。 http://www.nikon-instruments.jp/jpn/products/solution/index3.aspx 瞳関数とは、開口部の透過率の変化のことで、望遠鏡では周辺部に行くほど減光するようなフィルタを意味します。 海外サイトを漁るときは、apodization mask とか apodizing screenなどで探すと類似した記事がひっかかります。英語が読める方はそれで探してみてください。 理屈の詳細は、こちら 2014/11/02
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