音響素材

「これを張ればぴたりと止まる」ガマの油売りよろしく、極小の音響素材が高価に売られている。いろんな実験ができるので面白いが,決定的なものはなく適材適所と思われる。

各種大工センターやハンズ店で安く入手できるおすすめ品は以下のとおり:

日本特殊塗料のオトナシート:1.5mm厚の黒い練り物みたいな粘着シート。主な成分はたぶん瀝青、比重は約1.9。

ターンテーブル全面に張るとターンテーブルとビニールレコード両方の制振ができる。カートリッジとシェルの間のスペーサーにすると針音が変わる(DL‐102などは密着度も上がるので音が潤う)。アームの高さ調整にも適当。スピーカーのバッフルに張る。ホーン外壁に張る。ほかにも弁当箱式へなへなケース・シャーシに張れば制振になる。 

住友3Mの制振材料VEMシート:0.4mm厚アルミ板が保持材となっているビスコース粘着シート。原理は振動を熱に変える高分子化合物ViscoElasticMaterial。建築構造物用には1mmから16mm厚のダンパーも生産されているらしい。

1cm角に切ったものをカートリッジシェルの根元に張れば針音が小さくなる。 ほかにもアームの錘やシェルのスペーサーに使える。アンプ内に張ればシールドとしても使える優れもの(必ずアースすること)。 抵抗やコンデンサーに張る人もいる。

身の回りの品でまだまだ使える物が見つかるはず。 アルミナの多い磁器、Pタイル、ガラス,鉛板,アクリル板,段ボール等々。私の場合にはサンプル品を含め妙なものがあります:信越の型外し用シリコン/NECの防振ゴム試作品(ゴム+酸化鉄)/スチール机の防振に使われた鉛シート10Kg/エンジンオイルに添加するマイクロフロン-II(テフロンの破砕粉)/丸和セラミックのアルミナ板など。酸化鉄の応用品にはラスクという製品もあります。酸化鉄の制振効果についてNECのUS特許を探していましたら、4690960(1987)Vibration damping material(ゴムではなくレジンに酸化鉄を混合している)を見つけました。その文献で参照されている特許にムラタの4595515(1986)がありそれは圧電性の粉体にカーボンとポリエステルを組み合わせています。

オーディオ用ボードとしてはDupontの商品名コーリアンが有名で小さなブロックが結構な値段で売られていますが、システムキッチンのシンクやビルトイン・コンロのくり抜き部分が廃材となり比較的安価で入手できました。ただ鉄鋸等を使わないと切れません。建材によく使われる石膏ボードは普通の鋸で切れタッピングねじも使え加工性がよく有力です。私は石膏ボードをスピーカー箱のバッフルに使用し(白いのが目につき嫌なので)その上にオトナシートを貼っています。石膏ボードの上にフルーオートプレイヤーを置き(プレーヤー本体のインシューレーターが貧弱なので)下にマイクロのインシューレーターを設置しています。石膏ボードは小口から粉が出るので水性塗料で目止めをすると具合いが良い。クッションを多段使用する場合は間にしっかりしたボードを挟むことが重要です。クッションだけで多段にすると横ずれが生じます。

制振の原理:1.振動させないのが一番? 2.振動が発生したら次のステージへ伝えないーこのために  振動部から離す・振動部との接触面を少なくする・周辺の重さを増やす・ 変形する弾性体を使う等の対策をするわけだが、振動数(周波数)にも関係があるようだ。 上記VEMは軽めの高い振動に効果があり、オトナシートは重めの低い振動に効果があるようだ。 マス効果か?

制振と防振の違い:<“制振”とは固体表面の振動の振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、固体表面の振動を小さくする技術である。これに対して“防振”は振動源と被振動源の間の振動伝達率を小さくすることで振動の遮断に相当する技術である>とのことです(某ホームページより)。まだ違いが分かりにくいのですが、共振周波数のQをダンプする(固有音を少なくする)のが制振で、連続する強制振動にたいして補強により剛性を変えたりゴムで浮かしたりするのが防振のようです。

これに関連した式を紹介します。固有振動数(共振周波数) fr=(1/2p)*(SQRT (K/Mp)) 、Mpはmass of player等、ばね定数K=stiffness of isolating materials (rubber/spring etc) 。 StiffnessはComplianceの逆数ですから、アームのmassとカートリッジのcomplianceの共振式と内容は同じです。相対的に自重を重くすれば低くなり、硬いバネを使うと高くなる訳ですが過重バランスの違う3〜4点支持では理論どおりの動作をしない(横方向のズレが生じる)と思います。主に工学で使う重力単位系と物理で使われるSI単位では換算が必要ですが、KとMpを同じ単位系で扱えば同じ結果になるハズです。私はよく重量グラム(gf=力)と慣性質量(mass)を実際の適用(重力加速度で割ったり掛けたりする)で混同してしまうことがあります。

基本はフックの法則 f(N)=ky、 kはバネ定数(N/m)、yは偏移量(m)。これをニュートン式運動方程式にすると復元力ma=-ky、 mは質量(kg)aは加速度でa=d2y/dt2と表わされるから m・d2y/dt2+ky=0という微分方程式になる。 それを解いて横軸を時間、縦軸を偏移量とするグラフを作ると 偏移量の1周期2p(radian)=360度から周期T(秒)=2p√m/kが得られる。 kの逆数がコンプライアンスcだからT=2p√mc そして振動周波数は周期の逆数だから振動数cycle/s=1/(2p√mc)になるわけ。おしまい。

市販の音響素材について試した感想は以下の通り:

  1. 精神(制振)安定剤とかプラシーボといわれるResonance Chipは柴崎功氏が力説するようにシェルの根元やスピーカーの止めネジに張るだけでS/Nがあがったように聞こえる。 市販品そのままの使用は悔しいし、見た目にはばかばかしい製品だが唖然とするほどの効き目。こんな小さなものでも微細振動に与える影響は計り知れないのだからオーディオの世界は不可思議。ただし、効果が無い場合もある(FR6-SEカート+FR-2シェル+MICRO505アームの場合シェルへの貼り付けはまったく効果が無い)。その理由は完成度に依存するのか?コードや電源も含め追加変更アイテム=アクセサリーで音質がころころ変わるオーディオ機器は、やはり問題があるということなのか?
  2. トライ アソシエイツのSQUALANはDDターンテーブルの軸受油として使えるほか、接点の洗浄に使える。 何よりも安定性があり石油製品のような害を為さないので安心して使える。肌の乾燥を防ぐスクアランは生協CO・OPで売られているものがお得で工業製品としての中身は変わらない。因みにスクアランに金・銀・カーボン粉体を混ぜ接点回復を謡った高価な製品(3tに満たない小瓶3本7千円とか)もあった。洒落じゃないが高価だとその分効果がある、と信じやすい。接点回復材としてはペンシル型の英国製ELECTROLUBE DISPENSERが便利でオシロスコープの回転スイッチ等、接点のメンテナンスに使用しています(余分な油は綿棒で取る)。長く使用していない接点部は酸化して黒くなってしまうので、たまには回転しておくことも接触不良の予防になります。
  3. 同じくトライ アソシエイツのTRIGUARDは本来はケーブルから電磁波を防御するものだが導電性不織布なので、昔Supexなどの製品にあったように三角に切りシェルコネクターに挟むとレコードが帯電するのを多少とも防げる。 不織布はシェルとカートリッジのスペーサーとしても適当だ。 鹿皮もスペーサーとしてよかった。最近内外でアナログレコードを同時体験しなかったと思われる世代からの発明が多く申請される傾向にあります(例えばGB2376339はシェルとカートリッジの間に発泡ゴム=スポンジを挟むというものですし、過去に在ったものやデジタル機器との連携・変換など陳腐なものが多くなったと感じます)。知らなければなんでも新しく、それは未来だけでなく過去にも存在しうる。
  4. セイシンのBlack Metal 制振合金M2052。原子%でマンガン73+銅20+ニッケル5+鉄2とのことだが現物の比重は約7.3で原料の組成等価比重7.8より軽くなっている理由はわからない(冶金学をよく知らないが、合金は各金属が拡散しているだけなので地球上で混ぜた場合には原料の比重の違いに影響されるそうです)。 1mm厚はシェルとカートリッジに挟むなど実験中だが、結果は良し悪し。 オーディオボードの四隅に挟むなど圧力の高い所に少しだけ使うのがコツのようだ(ベタッと全面に張っては良くない)。もっといろんな整形品が安く出回れば面白そうだ。 ターンテーブルシート、0.5mm厚直径12mm程度のアーム用パイプ、シェルのスペーサー、アームのロックネジ、トランスケース、ヴォリュームケース、ヴォリュームやスイッチのつまみ、RCAプラグのカバー、シャーシパネル、加工性に優れた極薄0.05mm厚粘着シート等々。セイシンからSMEアームのナイフエッジ部品やシェルが製品化されたが、シェルの方の効能は疑問。
    2004年現在:ターンテーブルシート、スタビライザー、ヴォリュームやスイッチのつまみ、シェルのスペーサー整形品(DL-103用など)、0.05mm厚シート及び副産物として粉体がラインアップに加わっている。あと期待するのはアームのパイプとロッド(タップで切れば好きな長さのボルトが出来る)の発売とさらに普及して普通の素材の値段になること位か? 50μのシートはプラスチックとしか思えないほど柔らかく普通のはさみで裁断できるので、その小片を止めネジの先に付けてから固定するなど試している。アームの高さ調整のパイプに挟めるほど薄いので具合が良い。
  5. 貼物(patch)や敷物(insulator)とは別に塗り物(paint)もいろいろ登場しています。塗料系のダンプ剤は前から出ていましたからこれの方がむしろ先輩格ですがきれいに剥がすのが困難なので実行しにくい。アームに黒漆を塗るような人はあまり見ませんーいまだ蛮勇が足りない! 最近話題になっているfoQは圧電性を持った粉体+ポリマーでUS特許6,002,196(1999):Piezoelectric dispersion type organic damping compositeが基になっているようです。富士フィルムもUS特許7,029,598(2006):Composite material for piezoelectric transductionにおいて同様の素材(4種類)を発表し、在来のシート状の素材との比較をしています(特徴的なのは:従来のものが周波数1Hz-2500HzまでLoss Factorが0.5で一定しているのに対して、発明の新素材のLoss Factorはどれも0.5以上で周波数が高くなるに従って大きくなっていることです)−この新素材もいずれ商品化され市販されることでしょう。foQはアクリル系水性塗料なので二度塗りも可能でスピーカのセンターキャップには薄く塗りターンテーブルのプラッターには厚く塗ると金属共振音がおとなしく成ります(スピーカの場合は微妙でしたがDP-7Fの薄いプラッターには効果がありました)。但し何をやっても物性は変わるので普通の塗料でも同様の結果が出るかもしれません。
  6. 自着性のブチルゴムと似たものではBostik Findley (manufacturer group of sealants and adhesives)の商品名"Blu-Tack" (Re-usable AdhesiveとかFlexible Sealantとも呼ばれている)が海外では有名です。ホームセンターで見かけたので購入しました。粘土やガムに近い性質を持っていますが、100%合成ポリマーなので転移や分泌物がないとのことでポスター張りなどに応用されているようです。シェルとカートリッジの間に挟む緩衝材として使うのも面白いかもしれません。日東電工の自己融着テープはケーブルを自作する時などに絶縁用途で使っています。Bostik Limitedはもともとは英国の会社で自動車の鋼板の防音などについて<IMPROVEMENTS IN OR RELATING TO SOUND-DEADENING MATERIAL>の題名で1970年前後いくつもの英国特許申請をしておりその主剤は瀝青(bitumen)と繊維の混合物だったようですが、Blu-Tackに直接関連する特許は見つけられませんでした。
  7. 古いものを整理していたら、トルマリンJSPシート<非売品><アンケートは貴重なデーターとさせていただきます>と謳った感想記収集先のスタンプが無いアンケート用紙とともに不織布としか思われないものが出てきた(1980年代オーディオ業界で素材の乱痴気騒ぎが起こったころのもの)。このトルマリンJSP(Jewel Space Power)シートは従前の「トルマリン繊維にペグマタイト(天然石)を融合させ永久的にエネルギーの消えないトルマリン繊維の開発に成功した、まさに夢の新素材『トルマリン融合繊維』の実現です」とあります。メーカー名も記されていないのですが、化繊の不織布にトルマリンを含むペグマタイト粉末(花崗岩の一種で時にトルマリンを含むことがあるらしい)を吹き付けたもののようです。<いわしの頭も信心から><溺れる者は藁をも掴む>にならってオートプレーヤの設置を変えたついでにプレーヤーの足の下に使ってみました。厚手のフェルト(本来は羊毛などの獣毛繊維を圧縮したもの)が手元に無いので使ってみただけですが結果は満足でした。他の同程度の密度の不織布と比較しないと決定的な違いがあるかは分かりません。3mm厚程度の低密度のフェルトも良い場合があるとの認識を新たにしました(密度や厚さは上に乗る重量に見合うものが良い)。

自戒の言葉:自作や特殊素材の使用で一時的に温泉気分に浸れることもありますが、その効果が永続きすることはなかなか少ない(湯冷/酔醒)。ワウ(音揺れ)や変な響きが加わって一聴よく聞こえたり(背景音が際立って生々しく聞こえたり)することもよくあります。第一、日々体調も再生音量も曲も変わりその印象も変わるものですから、他人のレビューはもちろん自分の印象(記憶)だって当てにはできません。音楽も食事もすべてバランスが大事だと思う今日この頃です(妙な薬を飲むよりも体調を整えたほうがいい)。<ある現象を消滅する>ためにいろいろ試して分かるのは現象の形態<在りよう>であって手段の効能ではありません(適材適所の処方はあるが万能薬や魔法の薬elixirは存在しない)。現象の原因を突き止めることは難しいと実感します。たとえ物理的原因が分かっても<何故良い音だと感じるか>は別問題で、最後は<好き好き>の問題になってしまいます。

1996年6月発行のMJ別冊【音質アップグレード100】というtweakやtipsを集めた本を持っています。「色々やってみました」という程度のもので、どう音が良くなったかの実証は示されていません。<音が良い>ことの定義だってありません。聴感の問題よりも心理的な問題の方が多いと感じます。


There are various kinds of audience imaginable about the actual effects of tweak or adjustment: 

    1. One cannot perceive the effect and express it frankly.

    2. One cannot perceive the effect but keep silence or pretend to hear the effect as in the case of "The Emperor's New Clothes" (audiophiles or readers have often fixed idea or taboo influenced by books and other sources).

    3. One can perceive the change of sound, but cannot attribute it to a specific reason since actual sound results from the compound of various distortions or complex reasons.

    4. One can perceive the change of sound and attribute it to a predetermined reason.

In vinyl reproduction I feel group 3 is most common. I find there is no difference between group 1 & 4 actually when the change of sound is small. Every analog system sounds different each other. There is no objective index in personal appreciation.


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