『八つ墓村祭り! 暗黒芸者の話』

昔々、八つ墓村に惣三郎という名の男がおったそうな。
村一番の分限者として知られる惣三郎は、村外れに住み着いた一人の女に入れあげておった。
なんでも、吉原から流れてきた芸者くずれだそうで、岡場所で心中騒ぎを起こした挙げ句、此処まで逃げてきたという噂であった。

 ヂル奴でありんす

人目を憚ることもなく足繁く通う快楽の館。夜毎のごとく繰り広げられる、情痴の宴。
だが、愛は熱しやすく冷めやすいもの。
ほどなく他に女を作った惣三郎の足は、自然と芸者の家から遠のいていったのだった。
 あちきと結縁せん!
最初に送られてきたのは小指だった。
その次に送られてきたのは耳たぶだった。
いままで散々汚されて、いまさらささげようのない女の操。
替わりに、あちきの舌をあげる。
替わりに、あちきの乳房をあげる。
細切れにした愛の欠片

配達された人体器官に囲まれて
腕や舌や眼球が届き、それらに惣三郎の家で次第に溜まっていく。

切り刻まれた肉と肉を針金で繋ぎ合わせて、少しずつ少しずつ組上がっていく芸者の肉体。
まるで出来の悪い人形のように、少しばかりずれた女の躰が不器用なしなを作る。
肉と肉の合わせ目からしみでる黒い血が、硬直した女体の潤滑油となって永遠の愛を保証するのだ。

惣三郎は、彼女の全身が完成する日を、いまかいまかと心待ちにしている・・・・。


暗黒芸者豆知識!
・・・惚れた男に無理矢理、自らの指や耳などを送りつける。ベッコウ飴を見せると逃げていくという噂もある。1960年代の黒線廃止令により街頭から姿を消した。ちなみに彼女たちは、その行為とは裏腹に、肉体に依存した生の低俗さを知っているのだ。現在でも赤羽界隈では希に暗黒芸者が見られるという。惚れられたら地獄である。

このページの写真は全て萩谷茂氏 撮影

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