文章の要約

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要約(ようやく)とは

要約(ようやく)とは、文章(ぶんしょう)のポイントを(みじか)くまとめて(しめ)すことをいう。

また、(なが)文章(ぶんしょう)のポイントを(みじか)くまとめて(しめ)した文章(ぶんしょう)要約(ようやく)()ばれる。

要約(ようやく)は、以下(いか)のようなものでなければならない。

  1. もとの文章(ぶんしょう)のポイントを(ふく)んでいること
  2. (なが)さの(みじ)文章(ぶんしょう)であること
  3. 全体(ぜんたい)文章(ぶんしょう)としてまとまっていること

要約(ようやく)大切(たいせつ)なことは、『ポイント』が簡潔(かんけつ)(しめ)されているということである。そのためには、もともとの文章(ぶんしょう)順序(じゅんじょ)()えたり、表現(ひょうげん)()えたりしなければならないことがある。

要約(ようやく)方法(ほうほう)

もとの文章(ぶんしょう)から、すぐに要約(ようやく)(つく)るのは(むずか)しい。文章(ぶんしょう)要約(ようやく)する場合(ばあい)には、要約(ようやく)文章(ぶんしょう)()(まえ)に、いくつかの作業(さぎょう)必要(ひつよう)になる。

文章(ぶんしょう)要約(ようやく)するときには、(つぎ)のような手順(てじゅん)がよいだろう。

  1. 文章(ぶんしょう)段落(だんらく)()ける
  2. 段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)()つける
  3. 自分(じぶん)のことばでまとめる

文章(ぶんしょう)段落(だんらく)()ける

文章(ぶんしょう)要約(ようやく)するときには、まず文章(ぶんしょう)全体(ぜんたい)をよく()み、全体(ぜんたい)をいくつかの段落(だんらく)にわけてみるのが()いだろう。

文章(ぶんしょう)は、いくつかの形式段落(けいしきだんらく)()かれているのが普通(ふつう)なので、ほとんどの場合(ばあい)意味段落(いみだんらく)にわけることだけを(かんが)えればよい。

形式段落(けいしきだんらく)意味段落(いみだんらく)

改行(かいぎょう)と1()()げることとで表示(ひょうじ)されるまとまりを形式段落(けいしきだんらく)という形式段落(けいしきだんらく)は「小段落(しょうだんらく)」と()ばれることもある)

形式段落(小段落)は、改行と1文字分の字下げによって示される。

一方(いっぽう)文章(ぶんしょう)内容(ないよう)のまとまりによって()けたとき、ひとつひとつのまとまりを意味段落(いみだんらく)という意味段落(いみだんらく)は「大段落(だいだんらく)」と()ばれることもある)

文章はいくつかの大段落に分かれ、大段落はいくつかの小段落に分かれる。小段落はいくつかの文の集まりであり、文はいくつかの語の集まりである。

意味段落(いみだんらく)形式段落(けいしきだんらく)(おな)じものではない。意味段落(いみだんらく)形式段落(けいしきだんらく)より(おお)きいのが普通(ふつう)である。いくつかの形式段落(けいしきだんらく)のまとまりが意味段落(いみだんらく)なのである。そのため、意味段落(いみだんらく)大段落(だいだんらく)()ばれ、形式段落(けいしきだんらく)小段落(しょうだんらく)()ばれる。

形式段落(小段落)
改行(かいぎょう)と1文字(もじ)字下(じさ)げによって(しめ)される段落(だんらく)のこと
意味段落(大段落)
内容(ないよう)(うえ)のまとまりによって設定(せってい)される段落(だんらく)のこと

意味段落(いみだんらく)文章(ぶんしょう)構成(こうせい)

文章(ぶんしょう)意味段落(いみだんらく)にわけるときには、文章(ぶんしょう)構成(こうせい)(かんが)えるとよい。2(だん)構成(こうせい)なのか、3(だん)構成(こうせい)なのかなど、文章(ぶんしょう)がいくつの部分(ぶぶん)()かれているのかを(かんが)えながら()めば、意味段落(いみだんらく)()つけやすくなる。

なお、文章(ぶんしょう)構成(こうせい)については、【構成について】を参照(さんしょう)せよ。

段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)()つける

文章(ぶんしょう)要約(ようやく)するときには、それぞれの段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)()つけるようにするとよい。

中心文(ちゅうしんぶん)とは、段落(だんらく)のなかで、その段落(だんらく)内容(ないよう)をもっともよく(あら)わしている(ぶん)のことである。

《段落》 = 〈中心文〉 +( その他の文+その他の文+その他の文… )

中心文(ちゅうしんぶん)は、(おも)主張(しゅちょう)意見(いけん)(かんが)えをあらわす。一方(いっぽう)中心文(ちゅうしんぶん)ではない(ぶん)があらわすのは、具体例(ぐたいれい)やくわしい説明(せつめい)理由(りゆう)などである。

中心文(ちゅうしんぶん)は、段落(だんらく)(はじ)めにあることも、()わりにあることも、(なか)にあることもある。

例1:中心文(主張)→その他の文(理由)

人間はもっと笑った方がいい。そうすれば、みんなずっと楽しくなるはずだ。もしかすると、争いもなくなるかもしれない。』

中心文→「人間はもっと笑った方がいい。」

例2:その他の文(具体例)→中心文(考え)

『彼は、楽しければ笑います。気に入らなければ怒ります。悲しければ泣きます。しかし、それは彼だけではありません。人間は感情的な生き物なのです。

中心文→「人間は感情的な生き物なのです。」

例3:その他の文(話題の提示)→中心文(意見)→その他の文(補足)

『あなたは、金持ちと貧乏人のどちらを信用するだろうか。金持ちは信用しないが、貧乏人も信用できない。それが、私の考えである。もちろん、あなたの考えとは違うかもしれない。』

中心文→「金持ちは信用しないが、貧乏人も信用できない。」

自分(じぶん)のことばでまとめる

文章(ぶんしょう)要約(ようやく)するときには、自分(じぶん)のことばでまとめなければならない。もとの文章(ぶんしょう)のなかにある(ぶん)語句(ごく)をつなぎあわせただけでは、要約(ようやく)とはいえない。

自分(じぶん)のことばでまとめるときには、(つぎ)(てん)注意(ちゅうい)するとよい。

  1. (かんが)えや意見(いけん)(のこ)して、事実(じじつ)出来事(できごと)削除(さくじょ)
  2. (なが)さが(なが)(ぶん)は、修飾語句(しゅうしょくごく)削除(さくじょ)してみる
  3. 複雑(ふくざつ)(ぶん)は、(ふた)つの(ぶん)()けてから(かんが)える
  4. 内容(ないよう)のくり(かえ)しは、ひとつの(ぶん)にまとめる
  5. まとめや結論(けつろん)がはっきり()かるように()

例文(れいぶん)要約(ようやく)(1)

(つぎ)例文(れいぶん)をどのように要約(ようやく)するか(かんが)えてみよう。

例文1:

UFOの目撃談(もくげきだん)は、すでに伝説(でんせつ)(つく)りあげている。何千(なんぜん)という新聞報道(しんぶんほうどう)(ほか)に、これに(かん)するシリーズ(ぼん)などが出版(しゅっぱん)され、UFOを肯定(こうてい)するものもあれば、否定(ひてい)するものもあり、まじめなものもあればインチキもあるというありさまである。

UFO現象(げんしょう)そのものは、最近(さいきん)目撃(もくげき)報告(ほうこく)(つづ)いているように、それによって影響(えいきょう)()けた様子(ようす)はない。それは、依然(いぜん)として(つづ)いているのである。その正体(しょうたい)(なん)であるにせよ、ひとつ(たし)かなことは、それが「神話(しんわ)」になったということである。

わたしたちは、ここに伝説(でんせつ)というものがどのように()まれるのかを()ることができる。(くら)困難(こんなん)時代(じだい)に、(ほか)天体(てんたい)から「天上(てんじょう)の」勢力(せいりょく)地球侵略(ちきゅうしんりゃく)(こころ)みる、あるいは(すく)なくとも地球(ちきゅう)接近(せっきん)してくるという驚異(きょうい)物語(ものがたり)()まれる様子(ようす)()られるのである。人間(にんげん)想像力(そうぞうりょく)宇宙飛行(うちゅうひこう)(ほか)天体(てんたい)探検(たんけん)侵略(しんりゃく)可能性(かのうせい)(かんが)えることができるようになった時代(じだい)だからこそだろう。

わたしたち人類(じんるい)は、(つき)火星(かせい)目指(めざ)し、太陽系(たいようけい)(ほか)惑星(わくせい)やさらには恒星(こうせい)住人(じゅうにん)(ぎゃく)地球(ちきゅう)目指(めざ)していることになる。わたしたちの宇宙(うちゅう)への野心(やしん)は、(わたし)たちの(だれ)でも()っているところだが、(ほか)天体(てんたい)同様(どうよう)思惑(おもわく)があるとするのは神話的推測(しんわてきすいそく)、すなわち「投影(とうえい)」にほかならない。

C.G.ユンク「噂としてのUFO」の表現を一部修正
読解(どっかい)のヒント1:(だい)段落(だんらく)形式段落(けいしきだんらく))の「それ」は(なに)()している?
指示詞の指す内容
読解(どっかい)のヒント2:「神話的推測(しんわてきすいそく)」や「投影(とうえい)」とはどのようなものをいう?
「神話的推測」と「投影」の図解
読解(どっかい)のヒント3:「神話(しんわ)」にはどのような特徴(とくちょう)がある?
神話(しんわ)は、間違(まちが)った論理(ろんり)によって出来(でき)ている【→ヒント2参照】。神話(しんわ)は、人々(ひとびと)がそれを(しん)じることによってのみ()()つものである。

文章(ぶんしょう)段落(だんらく)()けてみる

(うえ)文章(ぶんしょう)は、すでに4つの形式段落(けいしきだんらく)()かれている。したがって、全体(ぜんたい)がどのような意味段落(いみだんらく)()けられるのかだけを(かんが)えればいい。

まず、(うえ)文章(ぶんしょう)では、1番目(ばんめ)と2番目(ばんめ)形式段落(けいしきだんらく)が、ともに『UFOの目撃談(もくげきだん)』について()べていることがわかる(つまり、UFO現象(げんしょう)という《具体例(ぐたいれい)》について()べている)。1番目(ばんめ)と2番目(ばんめ)形式段落(けいしきだんらく)は、ひとつの意味段落(いみだんらく)にまとめることができるだろう。

次に、3番目(ばんめ)と4番目(ばんめ)形式段落(けいしきだんらく)()むと、1番目(ばんめ)と2番目(ばんめ)形式段落(けいしきだんらく)(=1番目(ばんめ)意味段落(いみだんらく)()べられた《具体例(ぐたいれい)》に(たい)する《意見(いけん)》が()べられていることがわかるだろう。したがって、3番目(ばんめ)と4番目(ばんめ)形式段落(けいしきだんらく)も、ひとつの意味段落(いみだんらく)にまとめることができることになる(=2番目(ばんめ)意味段落(いみだんらく)

つまり、(うえ)文章(ぶんしょう)は、

具体例(ぐたいれい)意見(いけん)

という二段構成(にだんこうせい)()かれているのである(「二段構成(にだんこうせい)」については、「作文のポイント」の【→二段構成】を参照(さんしょう)せよ)。

段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)()つけよう

形式段落(けいしきだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)

文章(ぶんしょう)段落(だんらく)()けることができたら、(つぎ)に、段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)()つける。

まず、4つの形式段落(けいしきだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)(かんが)え、(つぎ)に、2つの意味段落(いみだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)(かんが)えよう。

ここでは、それぞれの形式段落(けいしきだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)(つぎ)のように(かんが)えられる。

第1段落の中心文
UFOの目撃談(もくげきだん)は、すでに伝説(でんせつ)(つく)りあげている。
第2段落の中心文
その正体(しょうたい)(なん)であるにせよ、ひとつ(たし)かなことは、それが「神話(しんわ)」になったということである。
第3段落の中心文
わたしたちは、ここに伝説(でんせつ)というものがどのように()まれるのかを()ることができる。
第4段落の中心文
わたしたちの宇宙(うちゅう)への野心(やしん)は、(わたし)たちの(だれ)でも()っているところだが、(ほか)天体(てんたい)同様(どうよう)思惑(おもわく)があるとするのは神話的推測(しんわてきすいそく)、すなわち「投影(とうえい)」にほかならない。
(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)

(だい)段落(だんらく)には、2つの(ぶん)があるが、2つ()(ぶん)は1つ()(ぶん)のくわしい説明(せつめい)になっている。そのため、1つ()(ぶん)中心文(ちゅうしんぶん)になる。

(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)

(だい)段落(だんらく)には、3つの(ぶん)があるが、1つ()と2つ()(ぶん)から、3つ()(ぶん)指摘(してき)できるという構成(こうせい)になっている。つまり、3つ()(ぶん)は、1つ()と2つ()(ぶん)(のべ)べられた事実(じじつ)(ふく)まれる重要(じゅうよう)なポイントを指摘(してき)しているのである。したがって、(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)は3つ()(ぶん)である。

(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)

(だい)段落(だんらく)には、3つの(ぶん)があるが、2つ()と3つ()(ぶん)は、1つ()(ぶん)のくわしい説明(せつめい)になっている。そのため、1つ()(ぶん)中心文(ちゅうしんぶん)になる。

(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)

(だい)段落(だんらく)には、2つの(ぶん)があるが、2つ()(ぶん)が、全体(ぜんたい)のまとめの内容(ないよう)になっていることがわかる。したがって、(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)は2つ()(ぶん)である。

意味段落(いみだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)

(つぎ)に、2つの意味段落(いみだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)(かんが)えよう。

まず、1つ()意味段落(いみだんらく)にまとめられる形式段落(けいしきだんらく)(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)内容(ないよう)は、ほぼ(おな)じであることがわかる。したがって、どちらを中心文(ちゅうしんぶん)(かんが)えても(おな)じことになる。ここでは、より表現(ひょうげん)簡潔(かんけつ)形式段落(けいしきだんらく)(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)採用(さいよう)することにする。

1つ()意味段落(いみだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)
UFOの目撃談(もくげきだん)は、すでに伝説(でんせつ)(つく)りあげている。

(つぎ)に、2つ()意味段落(いみだんらく)()ると、形式段落(けいしきだんらく)(だい)段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)筆者(ひっしゃ)(かんが)えがまとめられていることがわかる。それがつ()意味段落(いみだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)になる。

2つ()意味段落(いみだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)
わたしたちの宇宙(うちゅう)への野心(やしん)は、(わたし)たちの(だれ)でも()っているところだが、(ほか)天体(てんたい)同様(どうよう)思惑(おもわく)があるとするのは神話的推測(しんわてきすいそく)、すなわち「投影(とうえい)」にほかならない。

自分(じぶん)のことばでまとめてみる

段落(だんらく)中心文(ちゅうしんぶん)参考(さんこう)にしながら、自分(じぶん)のことばで要約(ようやく)をまとめてみよう。

(つぎ)のことがポイントになる。

  1. 2つ()意味段落(いみだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)が、この文章(ぶんしょう)結論(けつろん)である
  2. しかし、2つ()意味段落(いみだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)複雑(ふくざつ)で、わかりにくいので、()()える必要(ひつよう)がある。(とく)に、「神話的推測(しんわてきすいそく)」という()意味(いみ)(あき)らかにしなければならない(※神話(しんわ)間違(まちが)った論理(ろんり)であり、人々(ひとびと)がそれを(しん)じることによってのみ()()つものである)
  3. 結論(けつろん)にあうように、1つ()意味段落(いみだんらく)中心文(ちゅうしんぶん)表現(ひょうげん)()える((たと)えば、「伝説(でんせつ)」を「神話(しんわ)」にする)

以下(いか)に、要約(ようやく)(れい)(しめ)しておく。

要約:

UFO現象(げんしょう)は、現代(げんだい)神話(しんわ)である。人間(にんげん)宇宙(うちゅう)への野心(やしん)投影(とうえい)して、ただそう(しん)じているだけなのである。

例文(れいぶん)要約(ようやく)(2)

例文(れいぶん)2を要約(ようやく)してみよう。

(つぎ)のことがポイントになる。

  1. 起承転結(きしょうてんけつ)四段構成(よだんこうせい)になっている。文章(ぶんしょう)結論(けつろん)(だい)段落(だんらく)()かれている。
  2. 芸術(げいじゅつ)人生(じんせい)比較(ひかく)している(2つのものに共通点(きょうつうてん)があると(かんが)えている)
  3. 芸術(げいじゅつ)人生(じんせい)共通点(きょうつうてん)(なん)だろうか。

練習:例文(れいぶん)2を要約(ようやく)しなさい。

例文2:

小林秀雄(こばやしひでお)は、(のう)について「(うつく)しい(はな)がある。(はな)(うつく)しさというものはない。」と()いた。ある(ひと)は、これを(つぎ)のように注釈(ちゅうしゃく)する。芸術(げいじゅつ)は、抽象的(ちゅうしょうてき)観念(かんねん)(もと)づくものではなく、現実(げんじつ)感覚(かんかく)()ざすものなのだと。または、芸術(げいじゅつ)()つものは主観的(しゅかんてき)絶対的(ぜったいてき)価値(かち)(つまり『()』)であり、客観的(きゃっかんてき)相対的(そうていてき)価値観(かちかん)によってはかられるべきものではないのだと。

たしかに、現実(げんじつ)(なか)に「(うつく)しい(はな)」がなければ、「(はな)(うつく)しさ」というものは存在(そんざい)しようがない。その意味(いみ)で、(だれ)かが現実(げんじつ)の「(はな)」を「(うつく)しい」と(かん)じたときに、それが『()』のすべてなのだということはできるかもしれない。(すく)なくとも、「(うつく)しさ」の客観的(きゃっかんてき)尺度(しゃくど)がどこかに存在(そんざい)していて、わたしたちがそれに(したが)って「(はな)(うつく)しさ」を理解(りかい)しているというわけではないだろう。

(わたし)にとって、(のう)というのは教育(きょういく)テレビのなかでもとりわけ退屈(たいくつ)きわまる番組(ばんぐみ)で、およそ芸術(げいじゅつ)などというものにも(えん)はない。しかし、うまい(さけ)()んだとき、また、うまい(さけ)()みながらおいしい刺身(さしみ)()べたとき、小林(こばやし)のことばをぼんやりと(おも)()すことがある。そして、そのときの(わたし)には、うまい(さけ)があるというのが唯一(ゆいいつ)現実(げんじつ)であって、(さけ)のうまさというようなものは(じつ)はどうでもいいのである。だいたい、うまい(さけ)というのは(だま)って()むもので、うまさについてあれこれ(かた)(やから)などおおよそ信用(しんよう)できたものではない。

多分(たぶん)、「(うつく)しい(はな)」を()(ひと)は、それを(こころ)(なか)にとどめ、時折(ときおり)(おも)(かえ)せば()いのだろう。その「(はな)(うつく)しさ」について、あれこれ()いたり(かた)ったりすることはない。ひょっとすると、人間(にんげん)にとって経験(けいけん)することや(かん)じることは、理解(りかい)することや(かんが)えることよりも大切(たいせつ)なのかもしれない。わたしたちの人生(じんせい)をつくっているのも、その(たの)しさや(つら)さといったものではないのだ。

読解(どっかい)のヒント:筆者(ひっしゃ)否定的(ひていてき)()べているものと筆者(ひっしゃ)肯定的(こうていてき)()べているものとはどのように整理(せいり)できる?
筆者の評価を整理した表
要約の例:以下の部分にマウスポインタをのせるか、選択してください

芸術は、体験するべきものであり、理解すべきものではない。人生も同じである。具体的な経験や体験の積み重ねこそが人生なのである。

〔→練習問題
参考文献:
  • アカデミック・ジャパニーズ研究会[編](2001)『大学・大学院留学生の日本語2 作文編』アルク.
  • 大内善一(1990)「文章を縮めるコツ—凝縮と要約—」,『國文學 解釈と教材の研究』35(15), pp.78-83, 學燈社.
  • 堀内武雄(1986)「主題・要旨・要約はどうまとめるか」,『國文學 解釈と教材の研究』31(14), pp.168-173, 學燈社.
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