Joe氏の物語



ボクシング・・・

この世界に「優しさ」と言う言葉は存在しない。
そう・・・優しさなど意味がない。

ボクシングとは常に食うか食われるかという弱肉強食の世界であり、
相手に対して少しでも情けをかければそこに付け込まれる。

無意味な優しさは敗北へとつながる。

敗北とはすなわちボクサー生命の終わりへとつながる。
気の緩みは許されない。

憎くもない相手を殴って、自分も殴られて、
傷つけあい、傷を負う。

それがボクシングである。

時には命さえも落とす選手もいる。
怖い。とてつもなく怖い。

しかし、やめられない。
いや、やめたくてもやめられない、
といったほうが正しいかもしれない。

曲がりなりにもこの世界で人を傷つけ、
血を流してきたからにはやめるわけにはいかない。

ここでやめたら今まで傷つけた人たちに合わせる顔がない。

まるで麻薬のようだ。1度やったら、一度やってみたらもうやめられない。
僕はボクシングという麻薬に魂を奪われ取り付かれた「中毒者」である。

ボクサーという職業には常に危険が付きまとう。
100人に聞いたらほとんどが怖い、と答えるだろう。僕も怖い。

初めて試合をしたときテンプルに右フックをこうむった。
その右フックが当たった瞬間、僕の体は一瞬動かなくなった。

俗に言う「失神」である。それも立ったまま。

意識を取り戻したときはロープに追い詰められ
まるで人形のように滅多打ちにされていた。

・・・もう手をつこうと思った。
キャンバスに手をつけばもう打たれなくてすむ。

しかし、本能がそれを拒み体がかってに
思いっきり右ショートアッパーを放っていた。

相手は足を揺らしながら後退、
鼻からはものすごい量の鼻血が噴出していた。
彼は鼻骨骨折をしていたのだ。

・・・たった一発のアッパーで。

このとき初めてボクシングを怖いと感じた。
なぜ?なぜだ!?なぜこんな怖い世界に留まりたいのか? 

よく聞かれる。「何でボクシングなんかやってるの?」

このときは必ずこう答えることにしてる。
「大切な人を守るために。」

大切な人とはだれか?家族?恋人?それはわからない。
ボクシングをやっていればそれが誰かわかるような気がする。

僕はそのためにボクシングをやっているのだろう。 


ボクシングのゲームの区切り画像

あるボクサーの物語へ。

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