西沢ヨシノリ
去年の春、後楽園遊園地で子供と妻の遊ぶ姿を眺めている男がいた。笑顔な訳ではなく、それでいて怒っているようにも見えない。
ただ家族の姿をじーっと眺めている。
同じ家族構成で遊びに来ていた私はその男を知っていた。
男は私を覚えていないだろう。
最初に会ったのは両国国技館、次は後楽園ホールだった。
同じ苗字で同じ長野県出身。
両国での対戦相手失踪による試合中止を私が残念がるとニコーッとヒゲが笑った。
「相手が逃げちゃったんだよ、まったく。」
名前や本籍の書いてある免許を見せたりして
しばらく話し込んだ末に長らく無冠だった男は
「次の試合、日本タイトル戦、絶対に見に来てね。ホント俺は勝つから！」
と黒の革ジャン、ミドル級独特の背丈から会ったばかりの私の肩を叩いた。
とても陽気な雰囲気だった。
次の月、男は約束どおり高橋選手との決定戦に勝ち、
念願の日本ミドル級王座についた。
すでにベテランと呼ばれ、誰もが最後の一花だと思っただろう。
…当時でさえ。
男はその後、37歳を超えても戦い続けた。
決してスマートな試合（展開・結果とも）ではない。
ウォーターフィールド、寺地らとのチャレンジマッチでは明確に負けた。
勝った試合でもあからさまにスタミナを失いフラフラになり
歯を食いしばりながらクリンチで逃げ切るシーンが目立った。
相手の質も決して高くないと思えた…
その頃、冒頭にあるように遊園地で彼は家族と過ごしていた。
苦戦を続けていた彼が世界挑戦するかも？という噂に対して
インターネットの掲示板には酷い内容の書き込みがまさに言葉の暴力として溢れていた。
何を話しかけていいのか、言葉に迷った。
短い挨拶と昔から応援している旨を伝えただけで私はその場を離れた。
前向きな話題がボクシング・ジャンキー＆ファンの私でさえ
なかなか見つからないような状況だった。
プロ野球の夢をあきらめ、新人時代大きな体で大橋秀行の練習を手伝っていた男は
先日オーストラリアに渡りムンディンという世界王者に挑んだ。
結果は5RTKOで敗れた。
が、2Rには右カウンター、ラグビーで鍛えた屈強な王者を倒したという。
私は一日中、仕事をしながら見ることのできなかったその試合を想像していた。
（西沢さん、頑張ったんだろうなぁ…）
（そっか…、一度は倒したのかぁ…）
（頑張ったんだろうなぁ…）
自分はそんな一日でした、今日はずっと…
名物となった試合前の睨み。
ウォーターフィールドにクロスを狙うが空発。惜しいシーンはあった。
投稿
西澤の試合がエキサイトマッチで放映されました。
ざわついていたオーストラリアの観客が「君が代」吹奏開始とともに
静まり返ったときの感動ったらなかったですよもう！！
初回、スピードで大きく水をあけられ
ムンディンのぶっといジャブが挑戦者を何度となく捕らえる。
西澤も肩をならしたり身体を小刻みに揺らしてフェイントでパフォーマンスしたりと
気力が五分以上なので互角の印象を与えて初回終了。
２ラウンド、残り１０秒余りでリラックスムード漂う王者を一気に本気にさせた一撃。
左フックを大振りし、ムンディンがスウェーしながら下がったところに
踏み込んで一気に右ストレート！
見事に尻餅つかせました。
西澤いわく、あれこそガッツ石松の「幻の右」再現だとか。
オリジナルを見た事がないのでへぇーとしか言いようがないのですが見事でした。
その後３ラウンド初っ端から怒り気味の王者が
ラグビー仕込みの体当たり混じりの荒っぽいアタックを繰り返し
西澤の体力を一気に奪いにかかる。
ブロックした西澤の肩ごと吹っ飛ばすような右クロスが浅くヒット。
メチャクチャなパワーファイト。右パンチを数発好打される。
４ラウンド、身体を揺らしながら体勢を立て直す西澤に対し
ムンディン右フックをテンプルにヒット、右アッパーで追い討ち、
更にもう一発右フックをクリーンヒットし滅多打ちにかかる。
連打の中の右アッパーで西澤ついに膝から崩れマットに後でんぐり返しの派手なダウン。
すぐ立つが効いていた。
ショートの滅多打ちを無理矢理クリンチでいなしながら残り３０秒ほどを生き延びる。
挑戦者左目の下が赤黒い。右目上も若干腫れたか…
５ラウンド、西澤から攻め込むなど気力旺盛。
が間合を取って仕切りなおした直後、
ムンディンが溜めの利いたワンツーを西澤の顎に突き刺し西澤キレイに仰向けになるダウン。
左目尻出血。立ち上がり８カウントに応じポーズをとるがレフェリーストップ。４３秒。
試合終了後、西澤が泣きじゃくる娘さんをリングに上げる。
「何で泣くの。パパ頑張ったろ。ちゃんと立ったろ。泣くことない！」
顔を傷だらけにした父の強い言葉に口をきつく結んで頷く娘さんが胸に迫りました。
漢（おとこ）・西澤。
しかとその闘魂見届けました。ありがとう。
（掲示板より転載・toshi氏）
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投稿
西澤ヨシノリ様へ
今日、2007年2月16日
NHKのテレビを見て、一言応援メセージ申し上げます。
貴方の、夢を追い続ける姿勢に感服致しました。
純粋に少年の時見たムハメド・アリの蝶のように舞った雄姿が、
心の焼きついたのだと思います。
あの時私は、ムハマド・アリは負けると思っていました。
それが華麗に勝ってしまいました。すごい！と思いました。
それからムハマド・アリさんに対する気持ちが変わりました。
自分の意思に正直な人だと思うようになりました。
そんな気持ちや夢が西澤ヨシノリさんにはあるのだとテレビの見て感じました。
ずーと夢を追い続けて下さい。
貴方はそんな純粋な夢を持った人だと思います。
きっと貴方の夢はかなうと思います。私はそう信じています。
私は西澤ヨシノリさんに感化されて、
明日から、自分の吹っ切れなかった事に挑戦します。
娘さんに言った『泣かなくていいんだよ！・・・』
はすばらしお父さんと思いましたし、
優しい御母さん、じっと支える奥様、
西澤ヨシノリさんは、すごい応援団に囲まれていると思います。
夢は実現するためにあるのだと思います。
貴方の勇気と、ひたむきさと、純粋な気持ちに今日は力を頂きました。
明日から私は頑張れます。
今年、トライアスロンに2時間台を十年目にして初めて挑戦して出します。
そして、次の段階に進みます。
応援メセージやら、感謝やら分からなくなりましたが、一言感謝申し上げます。
ありがとございます。
（メールにて投稿・中山氏）
投稿
NHKのドキュメント番組みて感動して泣きました。
ダウンして負けはしたが、
父親の闘う姿を娘さんに見せ、リングに上げ、
父親との会話に涙をこらえていた娘さん。
…悔しかったに違いない。
この子はこれからの世の中でなにがあっても
強く生きて行ける子だと思った。
こんな風に子供を育てた西沢さんは素晴しい。
自分の働く姿を見せる。
生きていくとはこういうことなんだと言わんばかりの姿に感動した。
この子は絶対にぐれたりしないだろう。
父親の姿をみているかぎりは…
こんな父親になりたいと思った。
（メールにて投稿・daiichikentiku氏）
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