ボクシングは相手を上手に殴った選手が勝利するゲームである。そして、殴るターゲットは二箇所、顔面とボディである。 顔面には視界を得るための目や指令系統を司る脳があるので、ダメージを与えることで相手の戦力を弱めることが期待できます。目が見えなくなればファイトを続行できないし、脳に振動が伝われば平衡感覚が一時的に失われたり、足がカックンカックンになったりします。 顔面を打たれても平気、根性でどうにかする、という選手もいますが、なんだかんだで顔面を打たれ続けると動きが鈍るなどの悪影響が見てとれるのが現実です。 対してボディを打たれた場合、そのダメージによる悪影響は人それぞれである。ボディだったらいくら打たれても平気、と答える選手もいるが、私の指導した練習生の中にはミット打ちの際に軽く叩いただけで、しゃがみこんでしまう者もいた。 ボディダメージを受けることによる悪影響は、本当に多様であり選手それぞれの体質に大きく左右されるようだ。 古い選手の中にはボディブローに関して半分オカルト的な意見を述べる者もあり、より世間を混乱させていたようにも感じます。心霊写真も多くの人がイタズラだと認識できている今、ボディブローに関しても再び正しく認識するべき、かな…と。 ボディブローに関して、信用の置ける意見を述べている過去の選手の意見をここに集約し、私の意見も踏まえて、ボディブローをより深く理解していただきたいと思います。 ボディブローのダメージにおいてよく言われるのは、「後からジワジワ効いてくる」という意見である。これは逆に言うと「即効性のあるダメージを受けない」という事である。 顔面は物理的に拳を食らうことで、視線を強制的に天井に向けられたり、目の前が真っ暗になったり、脳が振動するにより体の電源が切れてしまったようにストンッと倒れてしまったりする。 が、ボディは衝撃によって即座に影響を受けることが少なく、衝撃によって内臓の働きが悪くなることで酸素供給の能率が悪くなり、回復力が鈍ってしまうといった遠回りのダメージが多い。(人によっては、ボディに即効性のあるダメージを受けてしまう人もいるが) 一般的にボクシングの試合は、互いが実力者になればなるほど長丁場となる。長い歴史を持つボクシングというスポーツは、すでにほとんどのアタックに対する防御方法が確立されているからである。 では、どうやって相手の防御を崩していくか? それは簡単にいえば「疲労させる」である。疲れることによって、普段できている対処ができなくなってしまうのだ。 対戦相手を疲れさせる手段はふたつ考えられる。 ひとつは相手に動いてもらうことである。それも、有酸素運動ではなく、無酸素運動してもらいたい。マラソンのようなテンポのいい呼吸ではなく、歯を噛み締めてクッと動くようなシーンを何度も繰り返してもらう。スパーリング初心者の多くは、気が付いていないかもしれませんが、こちらが危険距離に接近するだけでグッと息を止めてしまいます。残念ながら、これだと1ラウンドもたないですね。 ふたつめが先ほど述べたようにボディブローで回復力自体に悪影響を与えることです。しかし、ボディブローは接近戦・密着戦でないと有効ではないし(いきなり遠距離から頭を下げてボディへ拳を伸ばすのはリスクが大きい)、疲れていない元気な実力者に早々当たるパンチではありません。 ですので、実力差がないと、序盤からボディダメージそのもので疲れさせる、というのは難しいのですが、実はそれでもボディを攻めることには意味があるのです。 ボディを打ち合うような展開(危険な相手がすぐ側に存在する!)では、その状況自体に緊張感が伴っており、人によっては無意識のうちに無呼吸運動に陥っています。 ボディブローを当てる当てないに関わらず、ボディを打ち合うようなシーンを作ることですでに相手を疲労させる効果があると考えることができるのです。 |