『素人懐疑主義者の疑問2』で透視能力を解析したが「その能力が本物なら犯罪の証拠物件探しや災害現場での
生存者探知等に使え」と結論付けた。実際に犯罪関係からみでは使われている場合があるのだが、占いや予言同様
実用とは程遠い。むしろ実際的な捜査などの結果、ハズレが判明してしまうので、当たってないのに当たった事に
できる予言や占いなどより分が悪い。
最近はこの手のTV番組は見られなくなったが、一時ブームだった頃は、世間を騒がせた事件が盛んに取り上げ
られた。しかしながらそれらの透視で実際に「見つかった!」という事は、少なくとも自分は聞いたことがない。
よくあるのは、行方不明者、特に犯罪に巻き込まれたと推察される場合である。殺害された可能性の高い行方
不明者の遺体を超能力で探すというタイプだ。この手の透視は自称・霊能者等が、亡き被害者の声を聴いてとか、
持ち物や現場の遺留品から念を感じて推理し、犯行の状況や見つからない被害者の遺体の場所を語るパターンが
多い。またダウジングのように地図上に振り子のようなものをかざして指し示した場所にあるというのもある。
某TV番組で「いろいろな事件を解決した」という触れ込みの『高名な超能力捜査官』(本当に公的な捜査官
なのか?)が透視した事柄をもとにして行方不明者(または遺体)を探すというものがあった。『超能力捜査官』は
建物や橋梁等の目印となるパーツを透視して、それらが揃ってある場所が「現場」または「現場」の近くであると
言い、TVクルーがその場所を探すというパターンだ。例えば橋のたもとに古い倉庫があり、橋の向こう側の農地に
巨木があり云々といったパターンである。しかしそんな場所は日本全国いくらでもあるだろう。こんな曖昧な情報
だけでは実際に場所は特定できない。子供の落書きのような大雑把な図ではなく、倉庫であればその形状、そして
周りに他の建物がないか、あるならそれはどんなものか、橋梁ならばどんな色でどんな河川にかかっているのか、
巨木はどんな種類の樹木か、道は舗装道路か、未舗装なのか等々、本当に見えているのなら、もっと詳細な情報を
述べれば場所の特定は可能だろうに。むしろ現場の所番地の表示を「透視」した方がはるかに手っ取り早い筈だ。
米国での殺人事件について(本物の)捜査関係者が語った話だが、自称・超能力者が「実際に見透した」と未解決
事件の詳細を語ったことがあった。後に被害者の遺体が見つかり、詳細な犯行の状況が明らかになった時、その
「透視内容」が間違っていた事が判明したのだ。実はその内容は当時の関係者が「…の可能性」と思っていた事が
報道され、そのあやふやな根拠をもとに推理した事をあたかもそれをさも自分が透視したと言いふらしたらしい。
より具体的な例を挙げてみよう。これは日本で起きた強盗放火殺人事件である。某事業所に押し入った犯人が
ガソリンを撒いて火をつけ従業員が死亡した。営業中だったので複数の生存者が犯人の顔を覚えていて、似顔絵が
公開された。被害が大きかった事もあり、かなりマスメディアでも騒がれ某TV番組が外国で活躍している高名な
「超能力者」を招聘し、事件を「透視」させた。その後に「超能力者」が描いた「犯人の顔」の方が、目撃者の
記憶をもとに描かれた「似顔絵」よりも実際に逮捕された犯人に似ていた!と話題になった。と、いうと本当に
犯行の瞬間を透視したのだと思ってしまいそうだが、それはかなり疑問だ。そもそも複数の目撃者の供述をもとに
作成されている犯人の似顔絵が既に公開されているのに新たに「自分が透視した犯人の顔」を公開する必要がある
のか? ここに自称「超能力者」が使ったトリックがある。
警察が公開した「似顔絵」の犯人は大きな目が特徴だった。そして「超能力者」が描いたのは「目」が小さめに
なっていた。警察が公開した「似顔絵」は「犯行の瞬間に複数の被害者が目撃した」のを聞いて描かれたもので、
この状況では被害者の恐怖心から「目を実際より大きく認識しがち」という傾向がある。更に犯行の瞬間である
から犯人も激高して常体より目を大きく見開いている可能性がある。「犯行時の犯人」の顔が判っているのだから
上記の可能性を鑑みて目を小さく、更にこんな事件を起こすような状況にある人間なら才気煥発な人物とは思え
ないから、しょぼくれた印象を足した。というわけであえておそらく犯人の常態である可能性の高い「別な印象の
似顔絵」を公開したのである。そしてその狙いは当たり「本当に透視した」事に出来ただけなのだ。
更に「実際は透視してない」と推測出来る根拠がもう一つある。上記のような理由はあれど実際に「公開された
似顔絵」より更に犯人に似た絵を描いたのは事実である。だがこの「超能力者」は大きなミスをした。犯行時に
ガソリンを入れた容器が現場で発見されなかったのは「現場で燃えてしまった」と言ってしまったのだ。しかし
容器は犯人が逮捕された後、その自供によって犯人自ら捨てた場所で発見されたのである。「目撃情報」よりも
正確な「似顔絵」が描けるにもかかわらず「容器は現場で燃え尽きた」とありもしない事実を『透視』したのだ。
上記のTV番組の放映の後、犯人の逮捕、証拠品の発見まではいささか時間の経過があった。この悲惨な事件の
事も、超能力者の「透視」も覚えている人は少ないかもしれない。この自称・超能力者は「犯人の顔」を透視した
という結果だけを喧伝し、ビリーバーな人々の心を掴んでいるのだと思う。だが少なくともこの件では「誤透視」
が明らかになったからまだ良い。あいまいな「透視」に騙された人々が、思い込みで行動して捜査を妨害し事実の
解明が遅れる、最悪迷宮入りになる事もあり得るのだ。
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