サカキさまの絵本1
★2008〜2009年*年末年始限定TOP★
ツーの夢・ニャースの夢
文・真田美之 さま 絵・にゃんた


お誕生日を祝おう、ニャーとぼくで


かすかな天井からの音に巨大な培養槽(人間たちはその使用目的から人工子宮と
称しているらしい)の中でまどろんでいた幼体のポケモンがうっすらと目を開けた。
“だいじょうぶだよ。”
 テレパシーでまだ姿の見えない誰かに声をかける。
「…くたびれたニャ。まったく運搬は骨がおれるニャ。」
 人間のいないこの部屋に声がする。だが培養槽を見ているモニターの向こうには
やってきたものの姿も声も聞こえていない。
“なにを持ってきたの?”
 じゃじゃーん、など擬音を使って人間のことばを話していたニャースが持ってきた
箱から食べ物を出してきた。
「前にケーキ食べてみたいって言ってたから、持ってきたニャ。メリークリスマスニャ。」
“すごいねーそれ。おいしい?”
「これを一緒に食べられニャいって残念だニャ。そしたらツー、シンクロするニャ。」
 ツー、と呼ばれた培養槽の中の幼体はこの世に生を受けてから何度かそこから出て、
人間たちにいろんなテストをさせられる日々を送っていたが、高い能力に反比例した
脆い体であったから、ニャースが顔を出すころはたいがい今のようにその中の羊水の
中で浮かんでいる。
“入るよ。”
 ケーキを前に人間の子供が座るように後ろ足を投げ出して座ったニャースの尻尾と
ひげが一瞬硬直したが、そう大きくはなくても角度から言えばホールを三等分したらしい
ケーキを前にもみ手(!)をした。
そのニャースの片方の目の色は、本来の色とは別の、培養槽で閉じている彼の目の色。
「ニャーはいちごは最後に食べるのが好きだけど、ムサシは先に食べるのニャ。
 信じられないニャ。」
“サカキさまはどっちだと思う?”
 ケーキの上の真っ赤な苺についたクリームを舐めながら。
「…そうだニャー…半分くらい食べたところ食べるかも知れないニャ。コジロウは
 おぼっちゃんだからそうしてるし。…いいクリームニャ。」
“おいしいね。”
 培養槽の中でもしきりに口を動かしている。勿論実際に食べているのはニャースだが。
「昨日の夜は人間の世界の神様のお誕生日だから、みんなでお祝いするものらしいニャ。
 だからこれはお誕生日のケーキニャ。…でもサカキ様のお誕生日はきっともっと
 いいものでお祝いすると思うニャ。」
“そうなの?これよりももっと?”
「きっとそうニャ。…あのテーブルくらいきっとあるニャ。勿論中はくだものぎっしり、
 クリームたっぷりに違いないニャ。このスポンジだってきっと違うニャ。もっと
 ふかふかに違いないし、そうニャ…上にはサカキさまのお顔が色のついたクリームで
 描いてあるのニャ。」
“えー、あのマークの方がいいなあ…ほら、この前食べたゼリーかなんかで。”
 ニャースが顔を上げて、彼らが敬い慕う人間の団体(勿論彼らも所属している)の
エンブレムを見た。もっともその後彼が首をさすっているところを見ると、ツーに
無理やり見上げさせられたらしいが。ついでにニャースの脳にケーキのイメージを
直接伝えてきた。
「センスいいニャ。…それにロウソク立てて、サカキさまに吹いてもらうのニャ。」
 ケーキを食べる手をとめて、ニャースは想像した。勿論ツーも。
シンプルながらもロケット団のエンブレムのついたケーキを前に、彼らが慕うボスが
ロウソクの炎を吹き消す。ニャースとツーの手ではうまく拍手にはならないだろうけど、
嬉しそうにニャースとツーの頭をなでて、ボス自らがケーキを切り分けてくれる。
「サカキさまは紅茶だろうか、きっとコーヒー…いや、エスプレッソかも知れないニャ…
 ニャーたちはお相伴するとしても冷たいミルクを差してもらおうニャ。」
“ぼくミルクだけがいい。”
「ツーはおこちゃまニャ。」
“だってだれかに言われたんだもん。”
「きっとサカキさまのことだから、よしよしってそうしてくれるニャ。」
 場所はどこがいいだろう。ここではあまりにも殺風景色がなくて殺伐としているから。
“サカキさまのお部屋がいいよ。”
 一瞬ニャースの頭の中に自分の進化した姿のあいつが浮かんだが。
「…きっとあいつは大喰らいだから、ケーキぺろんごっくんだろうからいらニャい。
 それより出てくるニャ。」
“あのおおきいひとはいちゃだめ。あのひと、サカキさまになでてもらう時、じゃま
 するから。”
「そんニャの、うらやましすぎるニャ!ニャーも抱っこしてもらいたいニャ!」
“…ねえねえ、そこのスポンジ?のあいだたべたいよ。”
「なでてもらった時の感覚思い出すニャー!そしたら食べてもいいニャ。」
 ニャースの小判のあたりを、あの大きな手がなでていく感覚がする。
「おミャーが大きくなってもっと強くなったらあいつなんてポイにゃ。」
“うん。がんばる。だからねえ、はやくー。”
「もっと味わって食べるニャ!」

 そして苺がひとつ残った。
「これ食べたら今日はおしまいニャ。」
“また来てくれるよね?”
「勿論ニャ。だからもっとサカキさまの近くにいられるようになるニャ。」
“サンタさんってひとがいるの?そのひとにおねがいしたよ。ここのひとがおしえて
 くれた。”
「…それはいいニャ。…もしも夢でもニャーは嬉しいけどニャ。」
“ふたりでやろうよ、パーティ。サカキさまの。”
「そうニャ。」
酸味勝ちの苺をゆっくり味わって、ニャースが一心地ついたところで、それまで目を
閉じていたツーが目を開けた。同時にニャースの目の色も元に戻る。
「それじゃニャ。」
持ってきたものをまとめて身につけ、培養槽にむかってばいばいと手を振ると、
猫ポケモンならではの動きで姿を消した。

 ツーはしばらくニャースの消えた先を眺めていたが、ため息をつきながら
培養槽の中で丸くなった。
“サンタさんおねがいです。ぼくにつよいからだをください。それとニャースが
サカキさまのおそばにいられるようにしてください。だれでもいいです。
おねがいです。ふたりがサカキさまといっしょにいられますように。”

 ニャースは建物の外の冷気に身を震わせてから、天上からの白いものが
おりてくるものを見た。もしこれが積もったら、その光景を覚えておこうと思う。
「もしサンタさんがいるニャら、ツーが戦うためだけに作られたポケモンじゃ
なくしてほしいニャ。ニャーはツーとサカキ様のおそばにいられればいいのニャ。
それまでニャーは夢にサカキさまが毎日でてきてくれればいいニャ。それなら
今からでも間に合うかニャ?」
つぶやいてからニャースは今の相棒たちのもとへ戻った。
雪化粧の始まった道の上に、ニャースの後ろ足だけを跡にして。



追記

真田美之様のサイトでリクエスト券をGETして「ツーの夢・ニャースの夢」というお題で

書いていただきました。挿絵が出来たらこちらのサイトにも掲載させて戴くという事

でしたが…遅くなりましてごめんなさい m(_ _)m 






GALLERY総目次に戻る
MENUに戻る TOPに戻る