2001年全米オープン男子準々決勝/ピート・サンプラス - アンドレ・アガシ
2006. 9. 2

6−7
ピート・サンプラス 7−6 アンドレ・アガシ
7−6
7−6

「テニス - 懐かしの名試合」、第4回目は今年(2006)の全米オープンを最後に引退を決意した偉大なプレーヤー アンドレ・アガシ、
そして彼のかけがえの無いライバルであったピート・サンプラスの試合です。

まず、この試合はテニスの試合として非常に珍しいと思います。上記のスコア表の通り、4セットいずれもタイブレーク。 こういう試合自体は過去に何回かある筈です。確か5セット全てがタイブレークという試合もあった筈。 珍しいのは、この試合においてお互いにサービスブレイクが無かった事。 つまり、アガシは自分のサービスゲームを1度も落とさずに負けたという事です。私の記憶に間違いが無ければ、似たような試合が 1991年のウインブルドンでありました。この年はドイツのミカエル・シュティヒが決勝で同国のボリス・ベッカーを破って初優勝したのですが、その時の準決勝の相手、ステファン・エドベリとの試合はシュティヒが第1セットを 4 - 6 で落としたものの、続く2、3、4セットをいずれもタイブレークの末取りました。つまりステファン・エドベリが1度もサービスを落とさずに負けた試合として記憶に残っています。今回は第1セットもタイブレークだったのでその試合をさらに上回ることになりました。しかもサービスキープが当たり前のウインブルドンの芝のコートと全米オープンのハードコートでは、サービスキープ率がまるで違います。第4セットのタイブレークでの観客のスタンディングオベーション。 決勝戦ではなく準々決勝でスタンディングオベーションが起きるという事実が、何よりもこの試合の素晴らしさを物語っています。

今でこそアガシのライバル=サンプラスとなっていますが、実は 1990年代前半はアガシのライバルと言えばニック・ボロテリーテニスアカデミースクールの同級生、ジム・クーリエでした。
1991年の全仏オープンでクーリエが全仏オープン、そしてグランドスラムタイトルを初優勝した時の対戦相手がアガシです。しかしクーリエは 1992年の全仏オープン2連覇以降、徐々に失速。 グランドスラムタイトルのベスト8の常連ではありましたが、それより上になかなか進めないまま引退しました。逆に 1990年の全米オープン、彗星のように現れて史上最年少で全米オープンを初優勝したサンプラス。 その時の相手もアガシ。 しかしその後、1993年にグランドスラムタイトルの4つのうち3つを優勝して王座につくまでの3年間はエドベリの後を追う立場でした。アガシもまた同じ。 正確な年代はわかりませんが、1990年代半ばは「サーキット」にまで出場しなければならないほどにランキングが低下。 サーキットと言うのは野球で言えばいわば「二軍」。 それまでグランドスラムタイトル1(ウインブルドン)、準優勝を3回(全仏2、全米1)成し遂げたプレイヤーがランキングポイントを稼ぐためにサーキットに出場するという屈辱。 アガシもサンプラスもお互いにそういう時期を乗り越えて再びトップに戻ってきたという経験があるからこそ、お互いを尊敬し、称えることができるのだと思います。この試合も、アガシにとっては自分のサービスゲームを一度も落とさずに試合に負けたので非常に悔しい筈です。 しかしゲームが終わって握手をする時のサンプラスを見る表情(それが上の画像です)は、試合を見ている私達に勝ち負けを超越したお互いに対する畏敬を感じさせてくれるのです。翌年、2002年の全米オープンは二人が決勝で対戦。 またしてもサンプラスに軍配が上がりましたが、サンプラスにとってそれが現役最後の試合、そしてグランドスラム最後のタイトル。 翌年、2003年の全米オープンにおいて試合には出ずに引退しました。一方、アガシは 2003年の全豪オープンで優勝(対クレメンス)。 クーリエ、サンプラスが引退し、同世代どころか年下のプレーヤーが引退する中、2006年の全米オープンまで現役生活を続けたのは本当に素晴らしいの一言に尽きます。


「記録では無く記憶に残る選手」というのは良く使われる表現ですが、アガシが凄いのは記録にも記憶にも残る選手であるという事。 詳細は「第2回目」に書きましたが、アガシはサンプラスでさえ成しえなかった「生涯グランドスラム」という輝かしい記録をテニス史に残しました。 また、2005年には史上最年長でグランドスラムの決勝に進出しています(全米オープン、決勝はロジャー・フェデラーに敗退)。 負けた選手が素直に相手を称える事のできる数少ない選手。 偉大なるカリスマ。 そのアガシが引退する事で、私の中の「テニス」も現役を終えることになります。もちろん、これからもテニスの試合は見ると思うのですが、心の底から熱くなる試合というのは二度と無いでしょう。 アガシに対して「お疲れ様」と言うのはあまりに似つかわしくないのですが、今はその言葉しか出てきません。 彼の第二の人生が素晴らしい船出であることを願って。 そして、彼と同じ時代を生きることが出来たことに感謝です。


「テニス - 懐かしの名試合」へ戻る

トップページへ戻る