SCO
高分子成形加工(Polymer Processing)、コーティング、繊維形成(溶融、乾式紡糸)関係のコンサルティング、ソフトウエア開発を専門とするコンサルタントです。
また、STEP(ISO 10303) AP227(3次元プラント設計情報規格)の国際共同開発経験もあり、この分野でもお役に立てます。

コラム技術ページ


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1. シミュレーションの効用
ここでは、高分子加工のシミュレーション解析がどのような場面で利用できるかについて述べてみたい。

プロセス解析、スケールアップ、設計への利用等が代表的なものであろうが、それぞれの利用目的によってシミュレーションの精度(いかに現実に近い答えを出せるか)に対する要求に差があるように思う。

もちろんいずれの場合でも、現実を精度よく表現できるにこしたことはないが、プロセス解析が目的で使う場合は、どのファクターの影響が大きいかの見当や条件を変えた時の結果の傾向の把握等、傾向把握ができるだけでも十分有意義であることが多い。

スケールアップ検討では、通常小スケールの実験装置が存在しているので、実際のプロセスや物性値のパラメータに一部不明の点があっても、実験値とシミュレーション結果が合うようにパラメータを調整してやることができる。シミュレーションのベースとなる理論が健全なものであれば、その様にして決めたパラメータ値を用いることでも、比較的信頼のおけるスケールアップが可能であることが多い。ただ注意すべき点は、通常スケールアップは外挿的なシミュレーションを行なうことであり、誤差の拡大の可能性が常にあるということであろう。

実験装置も何もない状況で、設計目的でシミュレーションを使うというのが、たぶん一番厳しい利用法であろう。しかし、高分子加工分野では、テスト装置で樹脂の加工性を確かめながら実機へのスケールアップを行なうのが普通で、実験データが皆無の状態で実機の設計をいきなり行なうことはまれであると思われ、何らかの実験データとシミュレーション結果を対比させながら設計が進められることになる。

以上のようなことから、結局シミュレーション自体の有効性の決め手になるのは、いかに理論的なベースが健全でしっかりしたものであるかということが、まず第一といえそうである。

繊維形成や高分子加工のシミュレーション分野で非常に著名な、さる大学教授と面談する機会を得た際に、「最後は調整操作で合わせることになる」と言われたのは印象的であった。
「シミュレーションはなぜ必要か」 (PDFファイル-26KB)

2. 高分子加工分野の本(1)

Books
私の本棚
高分子加工分野の工学書といえば、どうしても欧米中心で、中でも米国中心となる。もとより筆者は限られた範囲の本しか目にしていないので、主観的な内容にならざるを得ないが、この分野の工学書について振り返ってみたい。

今や歴史的な本というべきものに、次のようなものがある。
(1) 'Processing of Thermoplastic Materials', Reinhold Publishing('59)
(2) 'Polymer Processing', John Wiley & Sons('62)

むろんこれらはいずれも絶版になっているが、'Polymer Processing'は、今でも入門書(レベルは決して低くない)として好適なものといえよう。同書の日本語訳もかって出版された('高分子加工工学',丸善('64))が、これも絶版となっている。'Processing of Thermoplastic Materials'は、さすがに内容的には古いといわざるを得ないが、巻末に各種高分子の物性データがついている点が貴重であった。

1960年代から70年代にかけては、高分子加工分野の工学的な研究が最も盛んな時代であったが、本分野の工学書も数多く出版された。筆者にとって馴染み深い本は、この頃のものが多く、前記(1)、(2)では、ほとんど触れられていないコンピュータによる数値計算の利用を前提とした内容となっている。
(3) 'Computer Programs for Plastics Engineers', Reinhold Book('68)
(4) 'Engineering Principles of Plasticating Extrusion', Van Nostrand Reinhold('70)
(5) 'Principles of Polymer Processing', John Wiley & Sons('79)
(6) 'Principles of Polymer Processing', Macmillan Press('79)

残念ながらこれらの本もほとんど絶版になっているようで、筆者が調べた範囲では、(5)はいまだ健在であり、日本語訳('プラスチック成形加工原論',シグマ出版('91))もあるが、こちらは非常に高価である。なお、(6)は英国で出版された良い本である。

最近の本としては、例えば下記の本があるが、新しい本については稿をあらためて述べるようにしたい。
(7) 'Polymer Processing:Principles and Design', Wiley-Interscience('98)

本書はもともと大学のテキスト(修士コース用と思われる)として書かれたようであり、相当網羅的な内容となっている。さすがに米国の本らしく、実用性を重視した内容である。しかし、小さな字で詰めて書かれており、読み通すにはちょっとつらい気がする。

3. 高分子加工分野の本(2)
異論はあろうと思うが、大まかにいうと高分子加工の主要な分野の研究は、1990年頃にほぼ成熟期を迎え、専門的でより高度な深い内容に向かわざるを得ない状況になってきたと言えるのではないか。高度で専門的である分、学生や現業に携わる技術者にとっては、物性データひとつとっても入手するのが一層困難となり、難解な理論を理解することの困難性とあいまって、敷居の高いものとなってきている。

そのような状況下でも、新しい時代に即した入門的な本も必要であるし、大学院レベルの新しい本も必要であろう。限られた知見であるが、そうした本のいくつかを紹介したい。前のコラムで紹介した、
(7) 'Polymer Processing: Principles and Design', Wiley-Interscience('98)

これは、大学院レベルのものと思われるが、網羅的ではあってもこの本だけで、興味のある分野を掘り下げるという目的には十分とはいえず、参考文献をたどっていく必要があろうし、入手できるのならより分野をしぼった専門書も読む必要がある。学部レベルの本としては、大学の先生(T. A. Osswald)が書いた教科書向きの本がある。
(8) 'Polymer Processing Fundamentals', Hanser Publishers ('98)

この本はページ数も少なく平易に書かれており、学部レベルを超える内容については、陰つきの印刷として要点を述べるに留め、あとは参考文献を見てくれという割り切った記述になっていて、読みやすい。

次に2000年以降に出た、押出機(extruder)に関する本を3冊紹介したい。
(9) 'Extrusion of Polymers: Theory and Practice', Hanser Publishers ('00)
(10) 'Polymer Extrusion 4th ed.', Hanser Publishers ('01)
(11) 'Screw Extrusion', Hanser Publishers ('02)

これらはそれぞれ特徴があり、Rauwendaalによる(10)は、800ページ近い大著で、現時点では最も内容が豊富な押出機の本と言えるが、自身の発明であるdispersive mixingに関する記述がちょっと多いように思う。Chungの手になる(9)は、自身の生涯をかけた研究成果をまとめたというだけあって、力の入った著作である。Chungの押出モデルはユニークなアイディアに基づいており、一時学界で異端視されたこともあり、思いがこもった本と言えよう。(11)は共同執筆の本で、ドイツ系の執筆者も多く、溝付フィード(grooved feed)に関する部分が参考になる。

ところで、Rauwendaalの(10)の中に、Chungの(9)は主として1980年までの知見に基づいているので、価値が劣ると取れる記述があるが、筆者には不当な評価だと思える。

最後に、フィルムプロセスに関する貴重な本を取り上げたい。
(12) 'Film Processing', Hanser publishers('99)

これも共同執筆であるが、多くの日本人が執筆しており、しかも編者の一人がKanai(金井)氏である。日本人のこの分野での存在感を示す著作であって、内容的にも他に類を見ない優れた本だと思う。

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