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高分子成形加工(Polymer Processing)、コーティング、繊維形成(溶融、乾式紡糸)関係のコンサルティング、ソフトウエア開発を専門とするコンサルタントです。
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7. シミュレーションの数学
コンピュータの普及以降、シミュレーションは多くの工学分野で利用されており、必須の手段となっている。シミュレーションでは、複雑な現象を単純化、数式モデル化して、小区間に区切って単純化したモデルに基づいて計算を進め、複雑な現象の近似解を求める手法を取るのが通常のやり方である。この場合の数式モデルは、微分方程式の形をとる場合が多い。

この微分方程式を解くのに、解析解を求めることができる場合はそれを用いれば良いが、少し複雑な現象や、単純な現象であっても境界条件が込み入った場合などでは、数値計算(数値シミュレーション)と言われる手法を用いる必要が出てくる。

東大の塚越教授は、学生への荒っぽい説明とことわった上で、「数値シミュレーションでは、何でも数学にモデル化して行列方程式にして解くのだ」と述べている。また、東工大のウェブページでは、「現在のコンピュータを用いて偏微分方程式の数学的な厳密解を求めるのは不可能である。しかし、ある程度の精度で満足するならば近似的な解を求めることは可能であり、それは工学的に非常に役立つ」と述べられている。

上記の、微分方程式の近時解を求める具体的な方法が、「何でも行列方程式にして解く」ということである。これを別の表現でいうと、連続体の支配方程式としての微分方程式を離散化して、四則演算と論理判断しかできないコンピュータで扱えるようにする(数値計算ができるようにする)ということになろう。 この離散化というのは、数値計算に関連してよく出てくる用語で、連続的な現象を表す数式(上記の微分方程式)を、多くの小区間に区切ることによって、各々の区間毎にとびとびの独立した近似式に展開するということを意味している。

多くの工学分野でシミュレーションが不可欠な技術となった現状を踏まえ、前記の塚越教授は興味ある話を紹介している。それは、岩手大学の千葉先生の言として「もう大学で連続体の支配方程式として微分方程式を教えなくてよいのではないか」と話しており、物理関係の教育でも微分方程式で教えずに、最初から離散的な式で教えることとする。こうした教育を受けたら、世界観が違ってくることになろう、というのが要旨である。

上記は、先生同士の話の中で出たことを紹介したものであって、近い将来そうあるべきだとの主張をしているわけではなく、私も直ちに賛同できるというものではないが、工学における数学に対する一つの方向性を示唆しているとは言えよう。

そうは言っても、現在のアカデミックな研究対象となっているテーマでも、その元は50年、60年前に遡るものは少なくなく、そこでは当然数式は微分方程式の形を取っており、これからの学生や技術者も、過去の文献を遡る必要があることは明らかであり、割り切った結論を出すことは簡単にはできそうにない。

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