…そして、僕らは自分の身体を取り戻した。

  但し、僕は10歳当時の身体。兄さんは足は戻ったけど、腕はそのままで…。

 

 

 

Angel’s Wing  ~プロローグ~

 

 

 

 リゼンブールのウィンリィの家に住み込んでいる僕に。ある日、電話が掛かってきた。

「エドよ。」

 ウィンリィが受話器を渡してくれる。

「兄さん?」

 珍しいな。声が思わず弾む。

 セントラルに残り、軍人になることを選んだ兄。

 士官学校に入り、スキップであっという間に卒業。20歳で入隊し(国家錬金術師の資格はそのままだったので)即少佐。今は中佐で、来年当たりにはもう1つ昇進するだろうといわれている。

 最年少記録を持つマスタング中将の上を行くと言われているけど、本人たちは余り気にしていないらしく、今も漫才のような喧嘩を毎日繰り広げているらしい。

「もしもし、兄さん?久しぶりだね。元気だった?」

『おー、アル。お前こそ元気かー?』

 受話器から聞こえてくるのは、相変わらず元気で屈託の無い兄の声。

 暫く近況を報告しあったり、世間話をしたりして…。

「…で?何か用があったんじゃないの?」

 話を振ると、『あー』とか『うー』とか暫くうなってて。

『お前、少しセントラルへ出て来れないか?』

「セントラルに?どれ位?」

『んー。最短で2日。せっかくだから1週間くらい?』

「それは、つまり。メインの用事は2日で終わるけど、せっかく出てくるんだから1週間くらい居たら?ってことだね。」

『そう。』

「いいけど…いつ?」

『んー。来月末の土日前後。』

「来月末?」

 カレンダーを見ながら少し考える。

「特に用事は無かったと思うから、行けるよ。」

『ウィンリィも?』

「ウィンリィ?彼女も?」

『暇なら。お前一人でもつまんないかな…って思って。ばっちゃんは誘っても来ねーだろうし。』

「ち、ちょっと待って?ばっちゃんも誘うつもりだったの?」

『師匠夫婦にも声かけてんだけど。』

「せ、師匠にも?」

『後、ハボック少佐にブレダ少佐。それとヒューズ准将の奥さんとエリシアちゃんと…。』

「ちょ、ちょっと兄さん。ハボック少佐って、あの人って今南方司令部じゃなかったっけ?で、ブレダ少佐が東方司令部だよね。…二人とも又昇進したんだ?…じゃなくて…。

それにグレイシアさんってご実家に帰られたんじゃなかったっけ?」

『うん。皆呼ぶから、お前とウィンリィもどうかと思って。』

 僕の慌てた声に、一旦電話を離れたウィンリィも別の部屋に居たピナコばっちゃんも何事かと寄って来た。

「呼ぶって、そうだよ。肝心なこと聞いてない。その日一体何する気さ!」

『んー。俺の結婚式?』

「けっ、結婚式?兄さんの?」

「「えっっ!」」

 ウィンリィとピナコばっちゃんも驚きの声を上げる。

『エ、俺も、25歳だぜ。結婚してもおかしくねーかなと思って…。』

「お…おお……おかしくは無いけどっ…。…相手は?」

『…一人しか、居ねーだろ。』

「……あの人?」

『ああ。』

 …そっか、…そうか、あの人か。

 『あの人って誰よ?』小声でウィンリィがつついてくるが、すぐには言葉が出ない。

 小柄だった兄の隣に並ぶと、背は高かったのに華奢に見えた。線の細いきれいな人。

 あの人と一緒にいるときの兄は『男』だったなあと思い出す。

『おーい。アルー?聞いてるかー?』

「聞いてるよ。兄さん。おめでとう。」

『あ…ありがとな。』

「嬉しいな。僕にもあんなにきれいな姉さんが出来るんだね。」

『あいつはとっくの昔からお前の姉のつもりだけどな。』

「ハハ。」

『それより、お前の方はどうなんだ?ウィンリィと。』

「えええ!?な……何言ってんのさ、兄さん!」

『あはは。近くなったら又、詳しいことを連絡するよ。』

「うん。分かった。あ…えっと、幸せになってね。兄さん。」

『ああ、お前もな。』

「うん。それでもって、あの人を幸せにしてあげてね。」

『ああ。分かってるよ。…じゃ、な。』

「うん、じゃ。」

 静かに受話器を置いた。

 凄い、凄い。兄さんとあの人が結婚なんて。

「アル、アール。」

「えっ、ああ。ウィンリィ、聞いてよ、凄いよ!兄さん、結婚するんだって!」

「それは、聞こえたわ。…で、誰と?」

「あのねっ……と。…言ってもいいのかな?」

「は?」

 だって、どこも発表してない。

「えーっと。……あの、…そう。あの、マスタング中将の…妹さん…なんだけど…。」

 ピクンとウィンリィの眉が上がった。

 マスタング中将自身に悪い印象は無いものの、兄さんが軍人になったあとはとにかく『これ以上軍と係わって欲しくない』と思っているらしい。

軍人の家族と結婚するとなると素直に喜べないようだ。

…ああ、この説明もまずかったんだ。けど、もうひとつの方の説明もちょっと…。

「ほう。あの若造の妹か。」

 ええ、ええ。あなたから見れば、この世のほとんどの人間は若造でしょうとも。

「ウィンリィ。一緒に行って来たら良い。」

「え?」

「あの男が作ろうとしている国を見ておいで。ここは変わらなすぎるからね。」

「でもっ。」

「あたしだってエドが軍人になったことを快く思ってる訳じゃない。

 これ以上軍に深入りして欲しくないって思いはお前と同じさ。

けど、軍人の妹だろうとエドが好きになった子だ。どんな子か気になるだろう?」

「そりゃあ、まあ。」

「凄くきれいな人だよ。」

 うかつに口を挟んだ僕。プイと顔を背けられる。

「兄さんより、1歳年上だから…ああ、ウィンリィと同じ年だね。」

「年上。」

「1歳だよ。ウィンリィと一緒。」

 それで、もう文句をつけられなくなったらしくて口をつぐむ。

 ウィンリィは兄さんに好意を抱いていて…。ただ、それは恋というほどのものではなかった…と、思えた。

 けど、やはりその相手が結婚するとなれば内心は複雑なようだ。

 あーあ。ちょっとはこっちも見てくれればいいのに…。

とは思うけど、元々2歳年下だったのに、生身の身体は今19歳といったところで26歳のウィンリィとは見た目完璧『姉弟』なんだよなあ。内心溜め息をつく。

 

 作業に戻ったウィンリィはラジオをかけた。

 流れてくる曲は今人気絶頂の女性アイドル歌手の最新曲。

「あ…この曲。私、結構好きなんだよね。」

 可愛くって…と気分を変えるように明るく言ったウィンリィ。

 

 

 

 ……いや……その人………なんですけど……兄さんの、婚約者……。

 …とは、……やっぱ、まだ…言えないよねえ………。

 

 

 

 

 

20050927UP
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お待たせしました。のエド小説です。
基本的に原作無視!の方向でひとつよろしくお願いします。
何故か私は、ウィンリィはエドより1歳年上だと思っていました。
しかも、アニメから入ったせいか(と人のせいにする)彼女のことをどうしても好きになれず…。
扱いは酷くなるものと…。いやな方はご覧にならないほうが…。
まあ、当分出てきませんが。
今気が付いたけど…エドは声しか出てないし、ヒロイン全く出てない…。
(05、11、05)

 

 

 

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