超レア 前編(煉獄関その後)
「あ〜、別に何にもありませんでしたぜィ。」
「本当かよ?だってお宅の副長さんが『切腹しろ』とまで言ってたのに…。」
「一応、松平のとっつあんと近藤さんが呼び出されはしましたけどね。表向きは無許可の違法な賭博組織を壊滅させたってことになってますからねィ。あんまり無茶するなって釘刺されたくらいだったらしいですぜィ。」
「そうなんだあ。なら良かった。切腹なんて痛いからやだしねえ。」
「あんなの土方さんの口癖みたいなもんですよ。もしくは照れ隠し。」
「ふうん?」
無視しようと決め込んでいたのに子供達や銀時、それに沖田たちの気持ちに引き摺られて動いてしまった自分が照れくさかったのかもしれない。
二人は、よく会う団子屋の店先で話し込んでいた。
銀時がひいきにしている団子屋は沖田も気に入っているらしく、良くここでサボっているのに出くわす。
きっと今も、なのだろう。
その証拠に、少しはなれたところに居ても目立つ黒い服を着た男が足早に近寄ってきた。
「こら〜っ!総悟!こんなところでサボってんじゃねえ!」
「サボってなんか居ませんぜ。この、怪しい男に職質かけてたんで。」
「えええ、俺!?」
「微妙に叱りにくい言い訳をするな!」
「えええ、もしかして怪しい男って辺りは肯定されてんの?」
「良いから、見回りに行って来い。俺はヤボ用で出かけなけりゃならなくなった。」
「へいへい、帰ってきた時に副長の座は開いていないと思え、コノヤロー。」
「総悟!」
面倒くさそうに立ち上がった沖田は、そのままダラダラと歩いていった。
あの様子じゃ、どうせ場所を移してサボるのだろうと思われた。
その辺は土方も分かっているのか、『全く』と溜め息をついている。
「あ、あのさ。多串くん。」
煙草を取り出して、ふうと煙をはく。
「多串じゃねえ。…何だ?」
「この間は…その…。」
さすがに、素直にありがとうと言うのは気が引けた。
けど、彼が真選組を引き連れて乗り込んできてくれたからこそ自分達の怪我も最小で済んだし、気にいらねえ奴らも一網打尽に出来たのは事実だ。
そして、ナイショだけれども。
涼しげな顔をして現れた土方。
ちょっとヤバイ展開と思っていた時だったから余計に『助けに来てくれた』と言う気分になって…。正直言うとホレ直しちゃったりしているのだ。
「…お前の気持ちも分かるがな…。」
「え?」
「ああいう輩を許せねえと思うのは、俺も一緒だ。」
…ああ、そっちか。好きだって気持ちがばれたのかと思った…。
「けど、結局今回だって大元の一番の悪には逃げられちまった。…そして、多分。今後奴らが又何かやらかそうとする時は、もっとずっと巧妙に隠すだろう。今はどうしたって奴らのほうが、権力も金も持ってる。それを俺らが取り締まるには、さらに鉄壁の証拠が必要になってくる。」
「…う…ん。」
「このまま、野放しにするつもりはねえ。…けど、すぐにどうこうは出来ねえ。今後お前はうかつに手出しはするな。」
「そう言うけどね…」
「証拠なんて何にもしないで手に入るもんじゃねえんだ。ほんの小さなほころび1つを見つけるために、ウチの隊士たちがどんだけ命張って苦労してると思ってんだ。」
「………。」
「この間の件だってそうだ。ウチの監察が何度も大怪我して、消されかけてようやく背後に何が潜んでいるかが分かったところだったんだ。」
「………。」
「まあ、今回の事はウチの総悟がたきつけたみたいだから。お前らに文句を言ってもしかたねえ。むしろ、騒がせて悪かったな。」
「怒ってんのか、謝ってんのかハッキリしろよ。」
「両方だ。いや、むしろ忠告だな。」
「忠告?」
「お前が強いのは分かってる。けど、奴らが本気でお前を消そうと思ったら。とっても一個人で太刀打ちできるようなもんじゃねえ。お前一人なら。そりゃ、どう生きようと死のうと勝手だ。けど、今お前は一人じゃねえ。メガネとチャイナまで巻き込んじゃいけねえと思うなら、当分かかわらないことだ。」
「へえ。…『当分』…で良いんだ?」
土方の言葉尻を捕まえたと思った。
失言だったと苦い顔をすればいい、そう思ってニヤニヤ笑って言ってやったのに。
「『ずっと』何て、お前にゃ無理だろ。」
「へ?」
「ウチも『無茶するな』と釘を刺されちまって、暫くは派手な動きをするわけにはいかねえんだ。」
それってまさか、銀時が何か行動を起こす時は又フォローしてくれる気があるって事なのか?
「だから暫くは大人しくしておけ。」
「………。一応言っておくけど…、暴れようと思って暴れてる訳じゃないからね。」
「普段は知らねえが、今回だけは総悟が原因だからな。一応信用しておいてやる。」
「…あ、そ。…でも、アレだよね。あのサド王子、曲がりなりにも隊長さんなんだろ?なのに、知らないこともあるんだ?」
「監察は、俺の直属だ。他の隊士とは全く別行動だし、情報の共有もありえねえ。」
「………。じゃ、他にも多串くんが掴んでる情報を皆が知らない…ってこともある訳?」
「多串じゃねえ。…そういう事は言わぬが花って奴だろ。」
そう言って、ニヤリと笑った。
けれど、その顔は得意げと言うよりは『仕方が無い』と言うニュアンスの方が多いように思う。
「ふうん。」
銀時は最後の団子をほおばった後、さてと立ち上がった。
「そういや、ヤボ用とか言ってなかったっけ?」
「ああ、そろそろ…来たな。」
その視線を追うと、真選組のパトカーが近付いてきた。
運転手は…名前何だっけ?ジミーくん?
あの子も監察って言ってたよな…って事は、土方の直属の部下。他の隊には属さず情報の共有も無い部署。
なんだか、嫌な感じがした。
真選組の隊士にも、サド王子にも言えない用事なのか?
パトカーの助手席に乗り込む土方にジミーくんは不満そうに零した。
「副長。後ろに乗ってくださいっていつも言ってるじゃないですか。」
「うるせえ、ここでいい。」
「良くないッスよ。事故の時死亡率の一番高いのは助手席なんですからね。」
「テメーが事故らなきゃいい話だろうが。」
「俺が事故る気がなくたって、何に突っ込まれるか撃たれるか分からないんですよ。後ろに移って下さい。」
「いい。面倒臭え。」
「一応、体面とかもあるんですが。」
「どうせ、元はゴロツキだ。礼儀がなってなくてすいませんとでも言っておけばいいだろうが。早く出せ。遅れる。」
「…ったくもう。」
ブツブツと文句を言いながら、ジミーはこっちに小さく会釈をすると車をスタートさせていった。
そうか本来副長ってのは、車の後ろでふんぞり返ってるものなのか…。
でも、真選組は確か局長のゴリラだって自分で運転したりしてるし…。そういう意味では、組織としては垣根の無い方なのかもしれない。
ただ、さっきの話は気になった。
銀時だってそうそう真選組の動向を気にしているわけではない。
土方が直属の部下の運転で他人には知らせずにどこかへ出かけるのは、良くあることなのかも知れない。
ただ、直前に聞いた話が気になっただけだ。…そう、思おうとした。
『あ〜あ、何やってんのかね?俺は。』
スクーターで江戸の街中を走りながら、銀時は溜め息をついた。
結局、土方の行き先が気になって。慌てて愛車を引っ張り出してきたのだが…。
元よりどこへ行ったのかなど分かりはしない。
闇雲に街中を行きつ戻りつしていると、遠目に先程見たものを発見した。
「おお、銀さん天才!」
自画自賛しつつ、先程見送ったパトカーとその傍に立つ男に近付いていった。
「アレ、旦那。なんか、こっちの方へ用事ですか?」
「まあね、オタクらこそどうしたわけ?ここ、城じゃん。多串くんは中?」
「はは、そうです。」
「ふうん。こんな堅苦しそうなところにも来なくちゃいけないんだ…大変だね。」
「そんな、他人事みたいに!……っとと。」
慌てて口を塞ぐジミー。
「まさか。…この間の件で?サド王子は何にも無かったって言ってたのに…。」
「ああ、もう。俺がばらした事は秘密ですよ。表向きはね、激励と釘刺しで終りですよ。…けど、あの時局長は出張中だったんです。そんなの調べればすぐに分かります。つまりあの時期に実際に隊を動かせたのは副長しか居ないんです。」
「だから、呼び出し?」
「…です。どこまで掴んでるのか探られてんのかも知れないし。…変な要求されてないといいんですけど…。」
「変な要求って?」
「以前もあったんですよね。ペナルティとして、邪魔な幕臣の暗殺とかさせられて…。」
「何…?それ…。真選組の仕事じゃねえじゃん。」
「そうですよ。そんなのに隊士たちを動かせないって副長も言ってて。…結局副長と俺ら監察でやったんですけど…。」
「ゴリラは知ってんのか?」
「局長は知りませんよ。言ってませんし……って、ああ!ゴリラで会話しちゃったじゃないですか!」
頭を抱えるジミー。や、問題はそこではなく。
「何で、そんな自分一人で被るような事!」
「副長ですか?……でもねえ。あの時。隊を動かすって決めた時、副長はその後の火の粉は全部自分でかぶる覚悟でしたからね。」
「え?だって、俺に切腹しろって…。」
「そんなんで、真選組への風当たりがどうにかなる訳無いじゃないですか。」
「………。」
20070430UP
あくまで土方さんはかっこよく!を目指しました。
(07,05,10)