超レア (後編)
「そんなんで、真選組への風当たりがどうにかなる訳無いじゃないですか。」
「………。」
確かに。立場上銀時はただの一般市民でしかない。そんな自分が腹を切ったところで、真選組を処分しようと決めたお偉いさんが心動かされる訳も無い。
「…そんなこと…一言も…。」
「損な性分ですからね、あの人も。自分が辛いのは平気なんです。自分が大切にしている人たちが辛い目にあう方がよっぽど堪えるんですよ。」
仕方の無い人だと溜め息をつくジミーは、けどきっとそういう土方に仕えていることに満足しているのだろう。
「なあ、ジミーくん。」
「ジミーじゃありません。山崎です。」
「俺が待ってっからさ、君帰んなよ。」
「え?」
「ちゃんと屯所まで送り届けるし…。」
「………。あの、責任とかなら感じる必要ないですよ。あなた達や沖田隊長を見捨てられなかった副長が悪いんですから。」
「…結構言うね、君も。」
「客観的に見ればそうでしょう。それが出来ない副長だから良いんですけどね。…分かりました。先に戻ってます。副長をよろしくお願いします。」
「おう。俺が無理矢理替わってもらったって言うから。」
「でも、叱られる時は叱られるんですよねえ。」
溜め息をついて、ジミーはパトカーに乗って戻っていった。
それから暫く待った。
待っているときは時間が長く感じられるというのは本当だ。
ジリジリと待ち続けると、ようやく建物の入口に目当ての姿が現れた。
「………お前…。山崎はどうした。」
「替わってもらった。」
「………。替わるって…、コレかよ。」
銀時のスクーターを不満そうに見つめる。
「ちゃんとメットも持ってきたって。」
「そういう問題じゃねえ。…ってか、二ケツは不味いだろ。」
「その辺は、その制服にモノを言わせて貰って…。」
土方は真面目だが、融通がきかない訳じゃない。『仕方ねえな』と呟いた後煙草を取り出す。
「少し歩くぞ。さすがに、ここの正面から二ケツは不味い。少し離れる。」
「お、分かった。」
銀時から受け取ったメットを持って歩く土方。
その表情からは、一体どんな話をされたのかは窺い知れなかった。
「なあ。…大丈夫だったのか?」
「ああ?何が?」
「…この間の件だろう?」
「山崎か…あいつシメとかねえと。」
「俺が無理矢理聞きだしたんだ。」
「まあ、しょうがねエのかな。お前相手じゃ。」
「?どういうこと?」
「あん時、突入するタイミングを見計らうために少し前から潜入はしていたんだ。だから参加した隊士たちはお前の戦いぶりを見てる。」
「へえ?」
「ウチの奴らは頭はカラだが、場数だけは踏んでるからな。見れば分かるんだろう。お前を真選組にスカウトしろとか言い出す奴も出てきた。」
「はあ?なんだよ、それ。」
「だから、お前の腕に心酔してる奴もいるって事だ。」
「へえ…。」
「全く、少し前まで『局長の敵だ』とか言ってたのにな。単純な奴らだぜ。」
「敵?…ああ。…って多串くんだって、それで俺んところへきたんだろ。」
「多串じゃねえ。まあな。そうでもしなきゃ収まら無そうだったし。」
「だから?」
「気に入らなかったのも、勿論あったが…。…まあ許婚じゃしょうがねえよな。」
「はあ!?」
「スゲエ女みてエだが、お前なら打たれ強そうだし。」
「ち、違うから!!!あの女がゴリラから逃げる口実に言っただけだから!!!」
「……そうなのか?…俺はてっきり…。…だったら、なんかお前も貧乏くじ引いてんな…。」
いつも会えば喧嘩ばかりなのに、何故だか今日は穏やかに話が出来ている。
「………。そうだ、だから…何か言われなかったのか?」
「………。まあ、チクリチクリと言われたが…別に今回が初めてじゃねえし。」
「………。」
こいつは。どれだけ一人でドロを被れば気が済むんだろう?
例えば、銀時が。ありえ無いけど真選組に入ったとしたら…、土方の負担が少しは減ったりするんだろうか…?……いや、面倒ごとが増えて余計に負担になるような気もする…。
「処分…とかは?」
「始末書出せと。」
「そんだけ?」
「裏については『気付きませんでした』で通したからな。局長が不在の時に隊を独断で動かしたって件の始末書で済んだ。しかも、それも書いてきた。」
「はあ?」
「あんなの書くのに時間なんかかけていられるかよ。ついでに郵送もしてきたし。」
「郵送?どっか、他んとこへ提出すんの?」
「や、あそこ。郵送にすりゃ2・3日掛かるだろ。それから手続き踏んで提出されるにはもう1日2日掛かるだろうから、丁度良い頃合だ。郵便料金の掛からない封筒もあるから、経済的だし。一石二鳥。処分完了。」
「はあ…。」
したたかだ。だから余計に叩かれるのかも知れないが…。
「何だ?心配したのか?」
「ち、違げーよ。後で俺のせいだとか切腹だとか言われたら迷惑だから!」
「今さらどうこう言わねえよ。…仕方ねえ、俺も報酬貰っちまったし。」
「報酬?」
「ほら。」
土方が制服のポケットから、緑がかった丸いガラス玉を出してきた。
「ビー玉?」
それにしちゃ模様が入ってない。
「多分、ラムネのビンの玉だぜ。」
ああ、そういや。あの時ガキ共が持ってきたガラクタの中にこんなもんがあったような…。
「スゲエ、超レアじゃん。」
「だろう?」
ニヤリと笑う土方。
「さて、この辺でいいかな。」
土方はそう言うと、咥えていた煙草をポイと捨てて踏み潰した。
「そうか。じゃ、乗れ。」
「馬鹿、俺が運転する。」
「はあ?コレは銀さんの愛車だぜ。」
「俺が運転してた方がいい。見た人間は勝手になんか事情があるんだと思ってくれるからな。」
「………。そんなもんかねえ?」
土方の後ろに乗るって言うのも、何となく惹かれるものがあって銀時は素直に後ろにまたがった。
「ちゃんと掴まってろよ。」
「わあってるって。」
ちょっと緊張しつつ、腕を回すとぐいんと体が引っ張られた。
「振り落とすぞ。掴まってろ。」
「…どんな運転する気だよ。」
「………。安全運転に決まってるだろ。」
「その気になる『間』は何ですか、コノヤロー」
どんだけヘタクソなんだか…と内心ビビって居たのだが、スムーズにスタートしたので逆に驚く。
安全運転とか言うより、基本的に上手いんだと思う。
車の間をすり抜けながら、危なげなく走っていく。
自分が走ると、かなりの確率で事故るのに。
何かがぶつかってきたり…何故か空飛んだり…、止まらなくなったり…。
いつの間に江戸はこんなに穏やかになったのだろう?
いや、穏やかに見えているだけなんだろう。
珍しく運転する側ではなく後ろで安心して掴まっていれば良いからだろうか?
それとも……土方と一緒に居るから?
大して時間もかけずにかぶき町まで戻って、…きてしまった。
屯所も万事屋も、もうすぐそこだ。
もう、終り?もう少し一緒に居たいのに…。
名残惜しく感じていると、信号待ちで止まった時に土方が振り返った。
「お前、喉渇いてねえか?」
「え?」
「何か飲んでいくか?」
土方の視線の先にはファミレスがあった。
「俺、パフェがいい!」
「…自分の分は自分で払えよ。」
「え〜〜〜!」
「『えー』じゃねえよ。当たり前だろう、大人として。」
「銀さんはいつも少年の心を持ち続けてるから!」
「この場合それ、関係ねエだろう。むしろ財布の中身が少年なんだろうが!」
「だってだって、あのファミレス『ジョッキパフェ』があんだぜ!」
「はあ?」
「ビールのジョッキサイズのパフェだよ!」
「げ。想像しただけで気持ち悪くなった。」
「しかも今なら、サービス価格で150円引きなんだぞ〜。」
「なら、払えんだろうが。」
「すみません。奢ってください。」
「………。ちっ。」
「わあい!多串くん、大好き!」
「お前が好きなのは俺じゃなくて俺の財布だろうーがコノヤロー。ってか、多串じゃねえ!」
冗談に紛れさせた告白もあっさりスルー。
けど、いいや。
なんだか今日は、土方のかっこいい所とか優しい所とかたくさん知ることが出来たし。
スクーターに一緒に乗って、こ〜んな密着しちゃってるし。
「いい天気だね。」
「…ああ。」
天気は良くて、気分は上々。
その上、このあとは一緒にお茶するのだ(って自分はパフェだけど)。しかも奢り!
まるでデートだよ。
今日は、凄い。めったに無い。 超、超レアな日。
20070505UP
END
この銀さんは絶対に目がハートになってると思う。
(07,05、10)