記憶の姫 2



 

次第に酒宴となった宴会は、それなりに満腹になった子供にとってはつまらないもので。

銀時たちは、そっと道場を抜け出した。

暫く近所を散策したり、3人で下らないおしゃべりをしたりしていたが。

「俺、便所。」

「ああ、そっちの建物の裏手だそうだ。」

桂に教えられたとおりに駆け込み、すっきりとして出てきたところで。

「あ。」

「あ、銀髪。」

さっきの女の子だ。

手伝いがあると言っていた通り、料理や酒を運んだりと忙しそうに働いていたが、今はその手に何も持っていなかった。

「手伝い終わったのか?」

「ううん。何か必要なものがないか聞きに行くところ。」

「ふうん?」

手が開いたのなら、一緒に遊ぼうかと思っていたのに。

…あれ?君、目が赤いね。」

「!」

「凄い。宝石みたい、綺麗〜。」

「え?」

間近で見つめられて、ドキリとする。そういう自分こそ、黒く煌く目がとっても綺麗なのに…。

「あのさあ、さっきから気になってたんだけど…。」

「何?」

「その髪の毛。触ってみてもいい?」

…髪?」

「だ、駄目かな…。そうだよね、今日会ったばっかりだもんね。」

少し怯んだ銀時の様子に、がっかりしたように言う。

「あ…え…と、や。い、いいよ。」

「本当?」

途端に嬉しそうに笑う。

ああ、ヤバイ。本当、マジ可愛い。

背の低い彼女のために、少し腰をかがめてやると、そっと手を伸ばしてきた。

両手でポンポンと軽く叩くと、そっと髪の間に指をくぐらせたりしてその感触を楽しんでいるようだ。

「楽しい?」

「うん。柔らかくって、気持ちいい。」

いつだって、奇異の目で見られる瞳と髪。ずっと嫌いだったけど、なんだか今日からは少しだけ好きになれそうな気がする。

…なあ、お前は剣道とかするの?」

満足したのか、ひとしきり銀時の髪の毛をかき混ぜていた手を引いた彼女に聞いてみる。

「ん…。本当はしたいんだけど…、姉さまたちが危険な事はしちゃ駄目って言って道場に通わせてくれないんだ。でも、先生やかっちゃんが時々わざと道場の戸をあけて稽古してくれるから。そこから見て覚えてるんだ。」

「そう、なんだ。」

「君、強いんでしょ?凄いなあ。ああ、早く姉さまたちが許してくれて道場へ通えるようになんないかなあ。そうしたらすっごく頑張っていっぱいいっぱい稽古するのに!」

キラキラした目でいわれて、ドキドキする。

「うん。稽古したらお前だってすぐに強くなれるよ。」

「本当?ありがとう。」

ぴょんぴょんと飛び跳ねる様子が可愛い。

「頑張って強くなったらさあ、君。相手してくれる?」

「へ?俺?」

「うん。だって、凄く強いんでしょ?」

でも、お前と会えるのは今日だけなのかも知れないのに…。

「あー、うーん。…そうだ。こうしよう。」

「何?何?」

「大人になったらさ、又会おう。」

「大人になったら?」

「ああ、今は俺もお前も子供だから。今日、俺達は帰らなくちゃなんないし…。次、いつ会えるか分からないだろ?」

………そ……か。」

「だから、大人になったら又会おう。その時までに、お前は道場に通えるように姉ちゃん達を説得して、たくさん稽古して強くなること。」

「うん。」

「俺は、強くなったお前に負けないようにもっと稽古してもっと強くなる。」

「うん。」

「そんでもって、大人になって。ちょっと位遠くても自由に行き来できるようになったら。又、会おう。」

「うん、うん。」

 

 

 

「でさ、でさ。大人になって出合ったときにはさ。 『     』しよう。」

……っ、うん!」

 



 

嬉しそうに、大きく頷く笑顔が忘れられなかった。

 



  

今でも時々思い出す。

思えばアレが自分の初恋だったなあ。

誰にも、桂にも高杉にも言ったことの無い二人だけの約束。

あの後、あの子のお姉さんがやってきて(すっげえ美人だった)。

『仲良くしてくれてありがとう』とか言って、飴をくれたんだった。

その飴がやたら美味しく感じられて、自分の甘味好きはあれからのような気がする。

あの子は、元気だろうか?

今頃壮絶な美人になってるだろうな。

攘夷戦争とかに巻き込まれてないといいんだが…。

子供の頃の曖昧な記憶だから定かではないが、あの子が居た村の方は戦火を逃れていたような気がするのだけれど…。

 

 



 

 

真選組の隊士たちが、なにやらバタバタとダウンしているらしい。

仕事探しと称して、霊能者っぽい姿をしていたら声をかけられて屯所へと連れて来られた。

何で真選組を助けなきゃいけないのか…?

そうも思うが、このところまともな仕事がないせいで食事も間々ならなくなってきている。背に腹はかえられなかった。

捕まえてみれば、蚊に似た生態を持つ天人で…。

幽霊なんかそうそういるもんじゃねえんだな、と安心したり。

自分や土方が幽霊が怖いのは、少なくとも自身が殺した人間には恨まれているだろうなあと言う自覚があるからだ。

自分がもし殺されたなら。化けて出られるもんなら出てやって、自分を殺した奴を呪い殺してやるに違いない…と思っているからだ。

(ちなみに近藤が幽霊が怖いのは、ただのマダオだろう)

「坂田。どうせなら、朝メシ食っていけ。」

朝になって、近藤が声を掛けてくれた。

「近藤さん!こんなやつらにメシなんて食わせなくったってかまわねーよ。」

途端に土方が抗議する。ああ、可愛くねえ。

「まあ、いいじゃねえか。隊士たちが軒並み倒れちまった状態で、彼らの存在は心強かったし。」

「そりゃ、あんたは便所にまで付いて行ってもらったんだから、心強かったろうけどよ。」

溜め息を付きつつ、土方が言う。

もう、コレで朝食の許可は下りたようなもんだった。

食堂は、まだ元気な隊士たちでごった返していたので、銀時たちの分は近藤の部屋へ運んでもらって食べることになった。

「こいつ、食うぜ。」

銀時が神楽を指して言うと、食事を運んでくれた隊士たちが『分かっています』と言って、炊飯器を3つ運び込んでくれた。

「倒れてる隊士たちの分だ、遠慮せずに食ってくれ。」

近藤が豪快に笑って、朝食となった。

土方がマヨネーズを大量に使うので、銀時も負けずにあんこを持ってきてもらって…。

沖田がそんな二人を無表情にまぜっかえす。

その横では、近藤から数種のふりかけを貰った神楽が炊飯器から直接ご飯を食べていた。

我関せずと黙々と食事を進めていた新八は、『お前は突っ込み要員なんだから、ちゃんと突っ込め!』と銀時に小突かれたり。

 

万事屋で3人で食べる食事も悪くはないけれど、こうしてにぎやかに食べるのは久しぶりで…結構楽しいもんだと改めて思った。

 

 



 
この話の土方はたくさんお姉さんがいる末っ子設定。年上の子に甘えるのが上手かったりすると良い。
(07、07、10)

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