記憶の姫 1
過去捏造。近藤と土方の過去は史実寄り。
でもやっぱりがっつり捏造。
ずっと忘れられない約束があった。
幼い頃にたった一度出逢った女の子。
赤い着物がとっても似合っていて、笑った顔がもっそい可愛かった女の子。
銀時の赤い目を綺麗だと言ってくれた子。
誰もが奇異の目で見る髪を何のためらいもなく触ってくれた子。
「でさ、でさ。大人になって出合ったときにはさ。 『 』しよう。」
「……っ、うん!」
その子と交わした、大切な約束。
叶えられるかどうかなんて分からない。
幼かったけれど、それだけに純粋だったあの約束。
君は今頃、どうしてる?
師が知人の道場を訪問するというので、銀時と桂と高杉の3人はそのお供で付いていった。
行った先は田舎の道場で。
跡継ぎにするために門下生を養子に迎え、そのお披露目ということだった。
「お久しぶりです。」
「遠路はるばる…。」
大人の社交辞令は子供にとってはつまらない。
着いた早々銀時は姿をくらましていたし、桂と高杉もうんざりしつつ後ろに控えていた。
そんな時、庭の方から声がした。
「もう、やめてよね!こんな着物、本当は…。」
「「?」」
桂と高杉が顔を見合わすと、赤い着物を着た可愛い女の子がかけてきた。
「こら、トシ!お客様の前で。」
「あ。す、すみません。」
「いえ、構いませんよ。こちらも門下生ですか?」
「いえ、近所の子で…。トシ、ご挨拶を。」
「し、失礼しました。いらっしゃいませ。」
ペコリと頭を下げた女の子。自分達より2〜3歳年下だろうか?
可愛い子だな。と桂は思ったし。何ていう名前なんだろう?と高杉は首を傾げた。
「あの、先生。かっちゃんは…。」
「もう、中で準備をしているよ。トシこそ。その着物はどうしたんだい?」
「姉さまたちに…無理矢理…。」
「そうか…仕方ないね…。」
苦笑する道場主。
「ねえ、君。トシ…ちゃん?」
「は、はい?」
いきなり客人に声を掛けられてびっくりしたのだろう。ピッと直立不動の姿勢になる。
「実はね、もう一人子供を連れてきているんだ。この子らと同じくらいの年頃の子供をね。多分そこいらで遊んでると思うから呼んできてもらえるかい?」
女の子は、『え、いないの?』という表情になる。
「珍しい銀髪の子なんだ。君ならこの辺に詳しいだろうし…。お願いしていいかな?」
「ああ、そうだね。トシ、呼んできてくれるかい?」
「はい。」
トシと呼ばれた女の子は元気に駆け出した。
「ったく、たりいんだよ。」
遠出をするというので、珍しさで付いてきたけれど。
来てみればとんでもない田舎で。
コレじゃあ、いつもと変わりがないじゃないかと溜め息をついた。
それでも、近所を流れる小川の水はとっても綺麗で手ですくって水を飲んでみた。
「うわ〜、つめて〜。………お、」
川の中には小魚もいて、捕まえてみようか…と身構えた時。
パタパタと駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「?」
振り返れば、赤い服を着た子供が駆けてくる。
自分より2〜3歳年下だろうか?
長い髪を後ろで一つに結わいた可愛い女の子だ。
「あ。」
駆け寄って来た女の子はじ〜〜〜〜と銀時を見つめた。
「今日、道場に来たお客さん?」
首を傾げるしぐさは、どこか小動物のようで愛らしい。
「え…ああ、そう…かも。」
そして、銀時の頭を指さした。
「それって、白髪?銀髪?」
「銀髪だ!」
「ああ、じゃあ、やっぱりそうだ。」
にこっと笑った顔が壮絶に可愛かった。
「お。お前は?」
「君のところの先生に頼まれたんだよ?呼んできてくれって。」
「そ、そうか。」
「うん。行こう?」
「面倒癖えよ。」
「………。かっちゃんのお披露目なのに…。」
「『かっちゃん』?」
「養子になったの、幼馴染みなんだ。」
「そうなんだ?」
「うん。ね。だから、行こう?」
「………。」
行きたくねえ〜〜〜。
急にそう思った。
それまでだって、面倒くさいとは思っていたが。激しく嫌な気分になる。
この子の幼馴染み?仲、良いのか?良いんだろうなあ。うわ〜〜〜、すんげえムカつく。
「もう少し遊んでいたい。お前も、遊ぼう?」
「駄目だよ。だって、手伝いとかしなくちゃなんないし。」
「お前も手伝うんだ?」
「うん。…まあ、給仕とか位だけど。」
「給仕?……って事は、ご馳走も出んのか?」
「あの、道場貧乏だから…、そんな『ご馳走』って程じゃないと…思うけど…。」
幾分恥ずかしそうにいう様子に、不味かったかなあと反省する。
「や、気にすることねえよ。ウチだって同じようなもんだ。」
「そ、そうなんだ?」
「うん。」
目を見合わせてクスリと笑う。
手をつないで、道場へと連れ立って戻りながら。
「君達は強いの?」
「『達』?」
「うん、さっき君と同じくらいの年の子を二人見たよ。」
「あ、ああ。あいつらな。…そうだな。まあまあ、かな。俺が一番強いけど。」
「へえ?凄いんだ。」
銀時の虚勢を聞いて素直に感心する。
『俺、これから真面目に稽古しよう。ぜってえ一番強くなる。』
このとき、内心そう誓ったのがその後の彼の強さの理由となる。
道場へ戻って暫くすると、お披露目が始まった。
養子になったのは自分達と変わらない年の男の子で。
晴れやかに笑うその顔からは、この傾きかけた貧乏道場の将来をどう思っているのかはうかがい知れなかった。
けどまあ、所詮は他人事だ。
ただ、一度だけ。
赤い着物を着た女の子がその傍に寄って、笑顔で話しかけているのを見て。何とはなしにムカっとした3人だった。
「………。幼馴染みだってさ。」
「……、アレが『かっちゃん』か。」
「生意気だな。」
「…ゴリラの癖にな…。」
気まぐれに桂や高杉を出してみたけど、特に生かせなかった…。残念。
(07、07、08)