誕生日にもらったものは? 前編

 

 


「おはよ、多串くん。」

「多串じゃ、ねえって。…あ、馬鹿、どこ触ってんだ。」

「ん〜、もう1回しよ。」

「も、無理だって。もうすぐチャイナやメガネが来るんだろうが。」

「まだ時間あるよ。」

「馬鹿、その前に朝メシ食っちまおうって言ってんだ。」

「ん、俺ごはんより多串くんがいい。」

「あ、…ちょ……ダメ…だ…って。」

「いいじゃん、今日、俺の誕生日なんだから。」

「……クソ、…そう言やあ、何でも済むと思って…。」

「んん?ダメ?」

「………ち。」

「へへ、じゃ、いただきまーす。」

昨夜から泊まりにきてくれた土方は、今日になった瞬間。一番に『おめでとう』をくれた。

そして今日は一日休みを取ってくれて、明日の朝屯所へ戻ればいいという。

付き合い始めてから、こんなにゆっくりとした朝を迎えられるのって初めてじゃないだろうか?

たいていは、俺が眠っている間に屯所へ戻ってしまうから。

今日、もう少しすれば神楽と新八も帰ってくるけど(神楽は新八の家へ泊まりに行ってもらった)どうせあいつらすぐに外へ行っちまうだろうし、今日は一日家の中でイチャイチャするのもいい。

そんな風に思っていた。

 

 


「おはようございま〜す。」

「銀ちゃん、起きてるアルか〜?」

土方が作ってくれた朝食を食べていると、子供たちの声がした。

「おう。」

「よう、おかえり。」

「うわあ、フクチョーが作ったアルか?私も食べたいアル。」

「ちょ、神楽ちゃん。さっき僕の家で朝ごはん食べたばっかりじゃないか。」

「フクチョーのごはんは別腹アル。」

「ああ、少し残ってるから。今持ってきてやる。」

とたんに万事屋の中が賑やかになる。

「今日は天気が良いんで、僕布団干してきますね。」

「ああ、さっき多串くんが干してくれたぞ。」

「えええ?」

俺の布団や神楽の布団まで引っ張り出してきれいに干してくれている。

そして、今。洗濯機の中ではシーツや枕カバーが洗われている。

「その上朝ごはんまで作ってくれたんですね。もう、銀さんってば、土方さんに何から何までさせて!!」

「一応、掃除は俺がしたんだぜ。」

それくらいはしろ!と怒られて、土方が朝食を作ってくれている間に掃除機をかけさせられた。

「良かったじゃないですか。誕生日をさっぱりした部屋で迎えられて。」

「なんか、別にキノコ生えてたって俺は気にしねえけど…。むしろ収穫しちゃうからね。という訳で、お前らとっととどっか遊びに行け。」

俺がそう言うと、新八は珍しくしてやったりといった顔でニヤリと笑った。

「ところがそういう訳にはいかないんです。」

「はあ?」

訳が分からず首をかしげる俺の目の前では、二度目の朝食を終えた神楽の食器を片づける土方。

洗濯が終わったシーツなんかを干し終わった後。

「じゃあ。」

「出かけるアル。」

「はい。」

3人が立ち上がる。

「はああ?」

俺の予定としては、これから二人でまったりイチャイチャするはずだったのに…。

「手前もだ。」

「そうね、銀ちゃんは荷物持ちネ。」

「行きますよ、銀さん。」

家を出て行こうとする3人の後を慌てて追う。

「ち、ちょっと。どこ行くの?」

「買い物だ。」

「買い物ネ。」

「買い物です。」

「………はあ…。」

だからどこへ?

そう、思ったけど。

3人はどんどん先へ行ってしまう。

仕方なしにその後をついていった。

 

 


「………。」

や、いいんだけどさあ。

いや、良くないなあ。

俺とイチャイチャするはずだった土方は、俺の目の前で子供たちとイチャイチャしている。

や、イチャイチャとか言うと怒られるだろうけど、とにかく子供たちと楽しそうに買い物をしている。

神楽はまるで土方の本当の子供か妹のように、土方と手をつなぎ、頭をなぜてもらい。ぶら下がるように甘えている。

アレを見ると親がいなくて淋しいのかなあとも思うが。何も俺の誕生日に土方に纏わりつかなくてもいいんじゃないだろうか?とちょっとイライラする。

それでも初めは期待していたのだ。

俺の誕生日にみんなで買い物。……これって俺へのプレゼントを買いに行くんじゃね?なんて。

ところがなぜか、3人は布団屋へ入って行った。

…や、何だよ?布団屋って…。

アレがいいの、これがいいのと3人であれこれ言いながら、布団を一組買い。配達をしてくれるよう手配している。

何だよ?屯所の布団買い換えるのか?…けど、あの布団そんなに古くなってねえだろ?

そこでふと目に入ったのは『布団下取りセール』の文字。

古い布団を下取りに出すと、新しい布団が何パーセントか割引になるらしい。

んだよ、下取りに出すくらいなら、俺にくれればいいのに。そうしたら土方の匂いに包まれて…ってヤベ、興奮してきた。

神楽が赤い綿入れを買ってもらってはしゃぐのをぼんやり眺める。

そのあと。

なんだか、小さめのタンスだったり、鍋だったり。

妙に生活感あふれる買い物が続く。

ああ、やっぱり俺の誕生日のプレゼントじゃ、ねえんだな…。

行き先も分からないまま、人ごみをついていったのでやたらと疲れる。

3人が食器を選び始めた頃には、疲れと、半ばふてくされた気分とで店の脇に置かれたベンチに沈み込んだ。

「はい、これ持つネ。銀ちゃん。」

神楽から食器の入った袋を渡される。一応緩衝材にくるまれてはいるもののガチャガチャと音がする袋を彼女に持たせておくのは激しく危険そうだ。

やっぱり俺は荷物持ちなのかよ…。

溜息とひとしきりの文句とともに袋を受け取る。

「少し遅くなったが、昼メシにすっか。」

買物は一段落したのか、土方が懐から煙草を取り出しつつ言う。

「ファミレスネ!ファミレス行きたい!」

神楽がピョンピョンとはしゃぐ。

分かった分かった。と頷く土方。

なんかえらい機嫌が好さそうで。

買い物が楽しいのか?懐く神楽が可愛いのか?

少なくとも、俺といるから…じゃ、ねえよな…。と又溜息。

「疲れたか?」

そんな俺に気づいたのか、土方が心配そうにこっちを見る。

「あ、や、まあ、な。」

「そうか…。」

「結構、重いですもんね。荷物。」

新八もうなずく。

ものすごい食欲で店内の注目を浴びる神楽にもすっかり慣れた俺たち。会話は淡々と続いて行った。

「改めて揃えようと思うと結構な量になるな…。」

「ですね。」

…?揃える?何をだ?

聞こうと思ったとたん土方が俺を見た。

「お前、この荷物持って帰れ。」

「はあ?」

「俺たちこの後まだ買い物が残ってるんだ。」

「え、まだあるのか?」

「お前、疲れてるみてえだし、それ持って先に帰ってろよ。んで、干してある布団とか洗濯物を取り込んでおいてくれ。」

それって気遣ってくれてるのか、便利に使おうと思ってるのか…微妙…。

けど、さすがに荷物は結構重いし。

どうやらプレゼントでないらしい買い物にこれ以上付き合う気も失せたんで、俺だけ先に帰ることにした。

あ〜あ、俺、今日、誕生日だったはずだよな…。

1日、土方とイチャイチャするはずだったのにな…。

万事屋へ戻り、ちゃんと言われたとおり布団や洗濯物を取り込んだ後。俺はソファで不貞寝を決め込んだ。

 

 

 


 

 

 

20081023UP

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