「え、出張?」

「ああ。京都にな。」

「何日位?」

「一応、予定は4日だな。3泊4日。」

「なんかのツアーみたいだね。…お土産ね。京都なら、八つ橋?」

「お前はアレだろ、生の方だろ。」

「分かってんじゃん。」

「時間があったらな。」

ふっと煙草の煙を吐きながら、土方は小さく笑った。

 

 


 

シリウス

 

 


 

「ねえね、明日の祭り、一緒に行けないの?」

「警備があるからな。」

「え〜〜。」

「『え〜〜』じゃねえよ。仕方ねえだろうが、上様が祭りを見たいっていうんだから。」

「ああ、残念だなあ。祭り独特の雰囲気にのまれてさ、いつもより大胆になった多串くんがあ〜んなことやこ〜んなことを……、ブベッ。」

「誰がだ!!この、クソ天パ。」

「仕方ないなあ。じゃ、怪我のないようにね。」

「ん、ああ。」

そういって別れたのが祭りの前の日だった。

カラクリ技師源外のじいさんの作ったカラクリたちの暴走により大混乱を極めた祭りの騒ぎも何とか収まった、翌日。

多分混乱の後始末をしていたのだろう。少し煤けた隊服に寝不足の顔の土方と行きあう。

「あ、多串くん。」

「多串じゃねえよ。」

「ちょ!!怪我!!」

「ああ?…ああ、何か飛んできた破片で切れたんだろ。大したことない。」

土方の頬には何かで切れた傷。

滲みだした血も止まっているようだったが…。

「何言ってんだよ?きれいな顔に、傷なんかつけて!俺言ったよね!怪我すんなって!!」

「うるせえな、痛くもかゆくもねえよ、こんな傷。」

「ああ、こすらない!」

土方の腕を掴んで路地裏に引っ張り込む。

「ちゃんと治療したの?消毒した?薬は?」

「大したことねえって、大げさだな。こんなん、舐めときゃ治る。」

「そう?」

ペロリと頬の傷口を舐めると、うわ汚ねえ。とかかわいくないことを言う。

「っ、お前こそ。何だ、この手!」

それまで着物の袂に入れていた手についた傷をみつけられる。

夕べ高杉の刀をつかんだ時の傷だ。

深くはなかったが、出血が結構あったので包帯を巻いてあった。

「夕べね。大したことないよ。」

「………。」

察しの良い土方のことだ。

昨夜の祭りの混乱の原因や、手のひらなんてところにある傷で何か気付いたのかもしれない。

けれど何も言わなかった。

ただ、そっと傷に添えられた手が暖かくて。

言いたいことがたくさんあるのに、言えないでこちらを見る目とか。

それらに土方の心配がたくさん詰まっていて。

「これからは、なるべく怪我しないで済むようにする。」

「………バカヤロウ。」

「うん、ごめん。」

そっと抱き寄せて、唇を合わせた。

 

 


「何だあれは…。」

目の前で起きたことが信じられず、思わず声が出ていたのにも気づかなかった。

からくりの職人のジジイをけしかけて、祭りを混乱させ将軍をなきものにしようと江戸へきた。

大混乱を引き起こすことはできたが、将軍の首をはねるという当初の目的を達成することはできなかった。

ただ、自分が起こした出来事がどれだけの成果を上げたのか。

どんな効果を引き出したのかを確認したくて、翌日、江戸の町をそぞろ歩いた。

そこで銀時を見つけたのだ。

その目の前には真選組副長。

万事屋なる商売がどんなもんかは知らないが、警察と懇意にしておくのは損ではないだろう。

寄りにも寄ってなぜそれが『真選組』なのかは分からない。面白くない気分はあるが、市井で暮らしていくには必要なのだろうと思う。

だが、そいつの頬に出来た、たった2センチにも満たないような小さな切り傷に大慌てしているのは何でだ?

路地裏に駆け込んだ二人の様子をそっと伺えば…。

同じようなガタイの男二人でキスをしていた。

何を考えているんだ?銀時。

そいつは幕府側の人間なんだぞ。

あの戦争でどれだけの仲間が死んでいったと思っているんだ。

お前自身、どれだけ己の無力をくやんだか忘れたのか!

先日の祭りでは。

怒りに剣を抜こうとすれば、思いもかけない力で止められて。

その眼は相変わらず濁っていたけれど。

彼らしく、その奥が笑っていた。怒っていた。

だから、大丈夫だと思ったのだ。

まだ、その牙は折れていない…と。

なのに。

 

 


焦がれても焦がれても、手に入れることができなかった剣の腕。

天性の才能。

馬鹿なくせに、戦況を読み取る目だけは良くて。

何度あいつの言うところの『カン』に助けられただろう。

お前はこちら側の人間のはずだろう?

お前の才が存分に発揮できるのは戦場で、だろう?

市井に紛れている府抜けた姿。

木刀なんて子供の玩具をぶら下げて。過去を忘れ、目をそむけ、逃げる。

その上男のケツを追いかけるのか!!

 


何をしているんだ?お前は。

 

 


 

それとも。

それとも、そいつ…なのか…。

そいつのせいで、お前はそんな府抜けになったのか?

『対テロリスト用特別武装警察 真選組 副長 土方十四郎』

どう見たってお前より剣の腕も、経験もない。そんな男のどこがいいんだ。

そいつがいなくなったら…。

 


お前は、元の『白夜叉』に戻るのか?

 

 


俺の中に渦巻く黒いものが、濃くなった、気がした。

 

 


 

ああ、今日は土方が返ってくる日だ。

カレンダーに大きく書いた赤い丸。

何時頃に帰ってくるのかな?

多分屯所へ行って、ゴリラに報告して。

うん、まじめな土方だからね。そこんとこはちゃんとやってから家へ来るよね、きっと。

もしかしたら、報告書とか書いてから来るのかな?

そうしたら …ここへ来るのは夜になるかなあ。

まさか、明日?

けど、生八つ橋をお土産に頼んだからね…。アレ、生だから。

きっと早く持っていかなきゃ…とか思って今日中には来てくれるよね。

そういうところは律儀な子だもんね。

泊まっていけるかな?

疲れたって言ったらお風呂を沸かしてあげよう。

そして、京都の話を聞きながら、俺は八つ橋を食べて、土方には…そうだ、なんか夕食作ってあげよう。

うん、そうしよう。ああ、スーパーへ買い出しに行かなきゃな…。

そんなことを、ぼおっと考えていたら…。

ダダダダダッ。

ものすごい足音を立てて万事屋の階段を上がってくる奴がいる。

誰だよ?ってか、何なんだよ?

ガラリ!

戸が外れんばかりの勢いであげられて、そこには息を切らせたゴリラの姿。

心の中にいやな予感が広がっていく。

何でゴリラがここへ来る?

何で真っ蒼な顔で今にも泣き出しそうなんだ?

何で、何度も声を出そうとして叶わず。

ヒューヒューとこぼれる息の合間に、あの子の名前を呼んでるの?

 


「ト、トシが、トシが…。」

 


「坂、田…。」

 


「トシが、行方不明だ。」

 


「攘夷浪士に 襲われて。」

 


「ついてた隊士が、2人切られて。」

 


「襲ったのは、たぶん。」

 


 

 

 

「高杉晋助。」

 

 


 

 

 

20081027UP

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この期に及んで短期集中連載とさせていただきます。すみません。
難しかった高杉。
どうにも分からなかったので、なんか勝手にねつ造。
別に高杉は銀時にLOVEなのではなく、『白夜叉』だったころの銀時を本当にすげえと思っていて。
出来ることならその頃の銀時に戻ってほしくて。
で、たぶん桂とかも含めて仲間とワイワイやってた時が楽しくて仕方なかったのではないかと…。
もちろん戦争中だったので、苦しんだりもしたのでしょうが。
生と死の挟間の緊張感とか、そういうのを仲間との掛け合いでほぐしたりとか…。
そんな行ってみれば『青春時代』(←改めて書くと恥ずかしいなあ)から抜け出せないでいる…みたいな、そんな感じで書いてみようと思います。
リクエストをくださった『玉井』様。
どうぞお持ち帰りください…というにはもう少しお待たせしてしまいます。すみません。

(20081029UP 月子)