記憶の中のLovesong 2

 

 

 

いろいろと聞かれたが、とにかく何も答えられなかった。

自分のことも、昨夜あったらしいことも、知り合いらしい目の前の男のことも…。

「とにかく、万事屋。」

「…俺のことね。」

「そうだ。とにかく、しばらくはここに居ろ。」

「うんまあ。ほかに行くところも思いつかないし…。」

「餓鬼共には、うまく言っておく。」

「餓鬼共…、え、俺子持ち?」

「隠し子がいるかどうかは知らねえが…。俺が言ってるのは手前の家に同居してる女の子と万事屋の従業員の少年だ。」

「ふうん…。」

そうは言われても、覚えてないのだからどうしようもない。

「きっと心配してるわね。」

そう女に………桔梗に言われて、初めてちょっと子供らのことを思う。

心配…してるのかな…。

「お前を追っていた奴らの身元を調べてみる。」

「うん。…よろしくね。…えっと、土方くん。」

そう呼んだ途端に嫌そうに眉を顰める。

「………虫唾が走る。」

「ちょ、ひど!!」

「銀さん。声が大きいわ。あなたがここにいることは一応内緒何ですからね。」

「あ、ああ。」

坂田銀時。

それが自分の名前らしいが、確かにそうだといえる確信も、そんな名前じゃないと否定する材料もない。

桔梗の話によると。

早朝に、たまたま建物の裏に用事のあったこの店の従業員がそこに流れ着いた銀時を見つけたのだという。

本来なら、店のオーナーに告げるべきなのだろうが、その子が桔梗の下についている子だったので桔梗に知らせが入った。

土方から銀時の風貌を聞いていた桔梗はもしやと思って、他の人間には告げず本当に信頼のおける者だけの手でこの部屋へ銀時を運び入れたのだという。

そして、土方を呼びだしたのだ。

仕事中だったらしい土方は、すぐにここへ駆けつけた。

早朝という、本来なら入店できるはずもない時間にすんなり入れたのは、日頃の金払いの良さから来るらしい。

この、桔梗を贔屓にしているという。

………なんだかなあ。

不快とまではいかないが、何でだか胸の奥がざわつく。

「じゃあ、な。 あとは頼んだ。」

前半は銀時に、後半は桔梗に言って土方は立ち上がった。

「銀さん、ちょっと待っててね。」

見送るのだろう、桔梗も一緒に立つ。

本当、美人だよなあ。

こういう店で遊女にしておくのは、もったいないくらいだ。

スレた感じがなくて、品があり、清潔感もある。

だからしばらくして戻ってきた桔梗に聞いてみた。

「土方くんが、身請けしたり…って話は出てないの?」

「はあ?」

あんぐりと口を開けた後、プと吹き出した。そして身を震わせてツクツクと笑っている。

「あの、俺、真剣に聞いてるんだけど。」

「〜〜〜〜、ダメ、苦しいわ…。」

それでもしばらく笑った後、眼尻にたまった涙を拭きつつ銀時を見た。

「あたしと十四郎さんはそういう関係じゃないのよ。」

「でも、遊女と客だろう?」

「そうだけど…、十四郎さんはあたしを抱いたことは一度もないもの。」

「…へえ?」

 

 

「今日は、幕府の人間が来るから、よろしく頼むよ。」

そう店主に言われる。つまり粗相のないように…ということだ。

自分は遊女、誰が来ようが拒む権利など無い。

言われるがままに『はい』と頷いた。

そしてやってきたのが、土方だった。

その、整った顔にときめかなかったといえば嘘になる。

この人ならいいか…そうも思った。

けれど、しばらく酒をちびちびとやって、ポツリポツリと言葉少なに話して。その日はそれで帰ってしまった。

「………不能…なのかしら…。」

今思えば相当失礼なことを思ったのだが。

それから時々土方は通ってくるようになった。

けれど、いつも同じように過ごしていく。

そのうち、桔梗はあることに気がついた。

それは土方が通ってくる日は、この店にほかの幕府の官僚や、天人のお偉いさん。時には大物攘夷浪士なんて人が来ているということだ。

カマをかけるというほどの気持ちではなく、何となく気になったので聞いてみた。

「………ねえ、この飲み代…って経費で出るの?」

「…出る訳ねえだろ。」

今までになく砕けた口調で答えが帰ってきた。

それがとても嬉しかった。

そして、更に何度か土方が通ううちに、互いに仕事愚痴や世間話をするようになっていた。

客から得た情報を土方に提供するようになったのもこの頃。

本来なら許されないことだが、金を受け取って情報を流すというのは表に出ないだけでよく行われている。

土方が桔梗を贔屓にしていることは広く知られている。

それを分かって同じ店を同じ女を選ぶのだから、桔梗にしてみたら危機管理がなってないんじゃないの…。と思う。

けれど、それは土方を男として好きだからやっているわけではない。

尽くせばこちらを振り返ってくれるかも知れないから…そんな打算があるわけでもない。

 

 

「え、好きなわけじゃないの?」

「好きは好きでも、恋愛感情ではないのよ。

…こういう仕事してるとね、どうしても男の人は私を見るときに値踏みをするのよ。」

「…値踏み?」

「そう、払った値段に見合う女だろうか?とか、どうやって自分に夢中にさせようか?とか。もっと即物的に、抱いたらどうだろうか?…とかね。」

「ああ。」

「けど、十四郎さんは一度も私をそんな風に見なかったのよ。全くその眼に色が出なかったの。」

「それ…って、ちょっと侮辱してる…とも言わない?」

「そうね。そう思うこともあるわ。あたしは遊女だから、お客を虜にしてナンボだもの。ちょっと自信喪失した時期もあったわね。

それに、女だもの。あれだけいい男が目の前にいたら、好きになってもらいたいと思うのは自然でしょ。」

「うん、だよね。」

「けど、あたし自身にとってそれはそんなに魅力的なものじゃないのよ。だって、あたしはほかの人が手に入れられないものを貰っているから。」

「何?」

「信頼とか、信用とか…そういうもの。」

「信頼、ねえ。」

「あの人の女友達なんてあたしだけよ?これって凄いことだわ。」

「ふうん。そんなもんかねえ?」

「あなたの目にも色がないのよねえ。ムカつくわ。」

「え、あ、あれ、そう?」

「そうよ。まあ、あなたには恋人がいる訳だから、そう簡単にぐらつかれたら困るんだけど。」

「え、俺恋人がいるの!?」

「ええ、きっと今頃心配してるわね。平気な顔してたって心の中ではね。」

「え、誰!?」

「教えてあげない。あたしが教えてあげたって意味ないでしょ?自分で思い出さなきゃね。」

そう言って桔梗は楽しそうに笑った。

 


 

その夜。

土方が桔梗の元へやってきた。

桔梗の部屋には人払いがされる。

「お前が追われた夜、俺は仕事だったんだ。」

「ああ、そう言ってたね。」

「宇宙海賊春雨…ってのがいるんだが…。」

「ふうん?」

「覚えてねえか…。」

「え、何?俺もその宇宙海賊とかだったの?」

「馬鹿。」

「…あ、酷え。」

「とにかくその宇宙海賊の内部がちょっとゴタゴタしてるらしいんだ。…で、一部の勢力が力を持ち始めてる。」

「へえ。」

「高杉晋助が引きいる鬼兵隊…って言うんだが…。」

「ふうん。」

「………。まあ、いいか。

とにかくそいつらは地球人で、ちょっとこの江戸に因縁がある。高杉についた神威って夜兎族の男も、江戸の吉原に因縁を持ってる。」

「ふうん?」

「………で、内部がごたついてる間に、新興勢力である高杉たちに取り入ろうと点数稼ぎをもくろんだ一派があってな。」

「それが…?」

「ああ、お前を追いかけたやつらだ。」

「…なんで、俺?」

「江戸に因縁って言うのはオブラートに包んだ言い方で、ぶっちゃけて言うとお前と因縁があるんだ。」

「はあ?」

「詳しい説明は面倒だから省くが…。」

「や、ちょっと、その詳しい説明こそが大切なんでしょうが!何でそこを端折るの!」

「面倒くせえんだよ。」

「〜〜〜いや、あの、ねえ。土方くん。」

「キモ。」

「ちょ、ひど!」

「銀さん、うるさいわ。」

「因縁の理由なんかどうでもいいんだよ。要は、今現在お前が命を狙われてる…ってことなんだ。」

 

 

 

 

 

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