切った、貼った、
前編
「銀さん!もう朝ですよ!起きてください!」
新八がいつもの通り勢いよく襖を開けた。
「いぃぃぃぃぃ!?」
途端に、部屋には新八の奇妙な声が響き渡った。
「「…んんん〜、んだよぱっつあん、朝っぱらからでかい声を出して。」」
バリバリと腹を掻きながらのそりと身体を起こした銀時。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!銀さん!?」
「「んあああ、だから何事だって………。」」
おや?何か今、変だった?
「ふふふふ、ふ、二人!?銀さんが二人いる!!!?」
「「二人って新八、そんな訳………。」」
すぐ隣から聞こえてきた声に。『なあ』と言えば『なあ』と声が帰ってくる。
………………………。
いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜!?
「「ちょ、誰だお前!!!!?」」
目の前には………自分がいた。
「で、どっちが本物の銀さんなんですか?」
「「俺に決まってんだろ!」」
「どっかでなんか変なもの食べたんじゃないアルカ?」
「「俺はそこらに落ちてるものを食ったりしねえよ!お前と違って!」」
「………見事なユニゾンですねえ………。」
呆れたように新八が溜め息をついた。
先ほどから神楽と新八にしつこいくらいに幾つも質問をされている。
それに対して、二人の銀時の返事はほとんど一緒だった。
ごく一部違ったのは選んだ言葉が違ったというだけのこと。
たとえば語尾が『〜だろうが』と『〜じゃねえの』であったりといった具合で、肝心の答えの内容は一緒なのだ。
「つまりこの二人の銀さんは、性格も記憶も一緒…ってことですか?」
「銀ちゃんが二人…って………。」
神楽が嫌そうに顔をしかめた。
新八も呆れたように言う。
「坂田銀時って人と同じ人格を持つ人間がそこいらにゴロゴロいるとは思えないし。誰かが真似ようとしたってそう簡単に真似られるものでもないでしょうし…。」
「ソウネ、こんな天パそうそういないアル。」
「「おい、神楽!天パを馬鹿にすんなよ!天パは世界を救うんだぞ!」」
「天パに救われるような世界なんてまっぴらごめんアル。」
「僕たちだけで話していても埒が明かないんで、とりあえずお登勢さんところへ行ってみませんか?僕たちでは気がつかない違いに気づいてくれるかも知れません。」
ということで階下へやってきたのだが。
「………分からないねえ。」
「お登勢さんでも……。」
二人の銀時はそろっていつもの銀時の格好をしていた。
「二人の銀時ねえ……ああ、そうだ。たま、お前分からないかい?」
「そうだ、たまさんならいろいろ分析とかもできるんですよね。中身とか違いはありますか?」
「身長体重等の外見的データ、及び身体を構成している物質のデータともに双方誤差がほとんどありません。どちらが本物の銀時様か?との質問にはお答えできかねます。」
「中身も同じ………。」
「そうなるともう、ニセモノとか言うレベルの話じゃないだろ。」
「ええ。誰かが銀さんになりすましているわけじゃない…ってことですよね。」
「ああ。多分天人の技術か薬か………。そうだ、源外のところへ行ってみたらどうだい?何か変な機械とかが出回ってるのかも知れないよ。」
「…そうですね。今のところ何も手がかりが無いんですし。」
「行ってみるアル!」
「………けったいなことになっとるな、銀の字。」
源外が呆れたように言った。
神楽と新八と、二人の銀時の4人は源外の家に来ていた。
「変な機械って、………『自分をもう一人作る機械』………ってことかあ?………そんなのが出回ってるなんて話きいたことねえなあ。」
「………そうですか…。」
「「自分をもう一人作る?」」
2人の銀時がそろって呟いた。
「銀さんたち、何か心当たりがあるんですか!?」
「「『たち』って一緒にすんじゃねえよ。」」
「だって両方銀さんなんだから仕方ないじゃないですか。」
「「心当たりってほどじゃねえが………。最近そんな言葉を聞いたような……。」」
「はじめての手がかりアル!!」
「そうですよ!早く思いだしてください!」
「「え、いや、おい、そう、せかすなよ………。」」
さんざん頭をひねって考えたが思い出せない。
「情けないアル!」
「「お前らがそばでごちゃごちゃ言うからだろ!」」
「しょうがねえな。」
源外がガシガシと頭をかいた。
「こうなったらもっと詳しい奴のところへ行くしかねえだろ。」
「もっと詳しい人がいるんですか!?」
「早く教えるヨロシ!」
「入国管理局か警察だな。」
「………。」
「どう考えても既存の地球の技術じゃ、これだけそっくりなニセモノを作るのは無理だ。となれば天人が絡んでるんだろ。少なくともここよりは管理局や警察の方が情報は持っとるだろう。」
「………。」
「本当なら入国管理局の方が本職なんだろうが。あそこは気軽に相手してくれるような連中じゃねえしな。まずは警察か。」
「警察だって、別に気軽じゃないんですけど…。」
「そうかも知れねえが…真選組ならお前らもちょっとは関わりがある見てえじゃねえか。」
「真選組…。」
「あそこは天人が地球に持ち込んだ薬の類の取り締まりもやってる。バイヤーの手がかりくらいは教えてくれるかもしれんぞ。」
「………教えて、くれますかね?」
「まあ、普段なら教えちゃくれねえだろうが、二人の銀時を見りゃ何らかの情報はくれるだろうよ。」
「どうします?銀さん。」
「銀ちゃん………。」
真選組で一番頼りになるのは副長の土方だろう。だが銀時と土方は犬猿の仲だ。
『手を貸してくれ』と銀時が素直に頭を下げるとは思えなかった。
「「とりあえず、行ってみるわ。」」
「そ、そうですよね。ほかに手がかりはないですし。」
「「俺だけで行ってくる。」」
「え?銀さん!?」
「銀ちゃん?」
「「お前らは家で待ってろ。」」
「けど!」
「………分かりました。僕らは家で待ってます。」
「新八!?」
「けど必ず何か分かったら……分からなくてもすぐに連絡をくださいね!」
「「おう、んじゃ、行ってくるわ。」」
2人の銀時はひらりと手を振って源外の工場を出て行った。
「何で一人で行かせたアル!」
神楽が新八にかみついた。
「だって、銀さんと土方さんは普段から喧嘩ばっかりしてるんだよ?けど、今回はそんな相手に頭下げなきゃいけないんだ。そんな姿を僕たちには見せたくないんじゃないかと思って……。」
「そ、そっか。」
「はっは、ガキのくせに苦労性だな。とにかく今は家に帰んな。お前らに今できるのはそれだけだ。」
「はい。家で連絡を待ちます。」
源外の工場を出た銀時二人は互いに無言で歩いていた。
あまりにもそっくりな二人の人間に、周囲を歩く町人も若干引き気味で誰も話しかけてこない。
こうなった原因に、今のところ心当たりはない。
ただ、自分の中には物心ついたころからの自分の記憶がしっかり残っている。
自分が『坂田銀時』である、という自信は少しも揺るがなかった。
問題はなぜもう一人自分がいるのか?ということである。
新八たちは機械だの薬だのと言っていたが、もしかしたらウイルスという可能性もある。
すぐに周りの人間に感染しないところを見ると空気感染するものではないのだろう。けれど、もしかしたら接触感染とかするものかも……?
そう思いついてからはとにかく周りの人間に触れないように気をつけたつもりだ。
真選組の屯所へ一人で向かうと言ったのには、子供たちを自分から離そうとした…ということもある。
それに………。
子供たちの質問は当然自分たちが出会ってからのものである。
それくらいは調べることは可能なのではないか?
幼少期から銀時という人間を形作ってきたたくさんの記憶。それらすべてを、この隣を歩く奴が持っているとは限らない。
銀時はまだ突然隣に現れた人間が、『もう一人の自分』ではなく『坂田銀時のニセモノ』である可能性もあると思っていた。
というのも、新八たちは『ユニゾン』と言っていたがほんの少しだけもう一人の銀時の方が遅れるのだ。
それは、耳で聞いて分かるというほどの差ではない。
コンマ何秒…いやそれ以下の気のせいといって言えなくもないほどのわずかな誤差。
けれど、必ずもう一人の銀時の方が遅れる。
あちらが先に口を開くということは一度もない。
考え方も性格も、そして記憶の大部分も一緒かも知れない。それでも、自分が本物の坂田銀時だ。
それを証明する切り札が、たぶん真選組にはある。
銀時は少し足を速めた。
同時にもう一人の銀時も足を速める。
けれど…。
『また遅れやがった。』
ほんの少し。他人では分からないだろう小さな誤差。けれど、銀時が何か行動を起こすときに必ず生まれる誤差。
一体何が原因でこんなことになったのか?
『絶対に暴いてやる。』
20101020UP
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