「続く先に、 」
(原作から2年後くらいな感じで…)
「いやあ、本当、奇麗な人ですよね〜。」
「うるせえよ。」
「副長と並ぶと美男美女で、すっげえ迫力ですよね〜。」
「うるせえつってんだろうが!」
書類整理をする土方の隣で、山崎は所謂見合い写真と呼ばれるものを広げて一人悦に入っている。
「手前、邪魔しに来てんのか!」
「ち、違いますよ〜。今日の報告です。」
このところではずいぶんと仕事も安心して任せられるようになった。
いちいち細かい指示を出さなくても、ちゃんとこちらが調べてほしいことを調べてくるようにもなった。
最近人数が増えた監察の筆頭として随分と落ち着いてきたように思っていたが、こうして土方に対する時は、以前と変わらずどこか頼りない面を見せる。
一通り報告を聞き終えて、新たに指示を出す。
そのうちのいくつかはすでに調べ始めたとの言葉に、ふとまじまじと山崎を見た。
「ななななな何ですか?」
「いや、お前入隊して何年だったかな…と思って…。」
「何言ってんですか急に。6年ですが。」
「…ってことは真選組が本格的に組織として動き始めてから…7年と少し…ってとこか…。」
「副長も年をとりましたよね〜。…イテ。」
とりあえず拳骨を1発。
このところは以前のようにタコ殴りにすることも減ってきたなあ。とふと気付く。
どこか放課後のクラブ活動のような幼さのあった真選組だったが、このところは随分と落ち着いてきたと思う。
他の警察組織や官僚たちに比べれば、今だやんちゃな部分はあるが、きちんとした組織としての形態が整い、土方が隅々まで目を配らなくても良くなって来ていた。
ま、近藤さんは相変わらずだけどな。と思って煙草の煙を吐く。
相変わらず、意中の女性を追い続ける近藤。
アレではお妙も辛かろうに…とその心中を察して苦笑が漏れる。
近藤は相変わらず押して押して押しまくるものだから、最初に思いっきり拒否してしまったお妙は受け入れようにも受け入れられなくなってしまっている。
時には引けばいいのに…と土方は思うが、そう出来ないのが近藤なので仕方がないといえば仕方がないのかも知れない。
ただ、お妙もそろそろ適齢期といえる年齢になってきた。近藤と上手く収まってくれればいいのに…と思う。
「ふああああ。」
開け放した障子の向こうの廊下を総悟が欠伸をしながら通りかかった。
「総悟、今、上がりか?報告は?」
「うるせえ、死ね土方。」
「無いんならいい。」
「沖田隊長!土方副長にそんなこと言っちゃだめですよう。」
無視して歩いていく総悟の後を、待ってください〜と付いていく総悟の小姓、沢木だ。
どうしても真選組に入りたいのだと入隊志願してきた時、沢木は16歳でさすがに駄目だと断ったがとにかくしつこく屯所に通ってくる。
沖田隊長も子供だったじゃないですか!と反論され、あれは規格外だと言い含めても聞きやしない。
ならば、総悟の無茶を目の当たりに見れば腰も引けるだろうと傍につけたら、一発で総悟に憧れたらしい。
世も末だ…と当初は頭を抱えたのだが。
逃げられても、じゃけんにされても、いじめられても、とにかく『沖田隊長』『沖田隊長』と付いて歩く小動物のような沢木にそのうち総悟が諦めた。
単独行動が多い総悟を見つけるのがものすごく早い沢木に、土方も助かっていたし、いざ作戦が始まれば目の前で迂闊な行動をとる沢木を総悟がフォローしながら動くようになり、ぐっと隊長らしさが増してきた。
沢木の存在は総悟の成長を急速に促した。
嬉しい誤算だったな…。
「今日町で新八クンに会いましたよ。」
同じように、苦笑しつつ二人を見送った山崎が、そう言えば、と口を開いた。
「…メガネに…?」
「ええ、寺子屋の話が本格的に始まるらしいですよ。」
「へえ。」
元々剣術道場の再建を目指していたのだが、世は泰平。
剣術はますます必要とされなくなってきていた。
そこで、道場と離れの建物を使って寺子屋を始めることにしたのだと、二月ばかり前に町で会った時に言っていた。
その中で剣術も『たしなみの一つ』として教えていくのだという。
大勢生徒が集まれば、中には卓越した才を持つものも出てくるだろう。そういう子供にはまた別に手解きをしていくと言っていた。
時代に合わせて形を変えていくしたたかなところは雇い主譲りかね?
「そう言えば、チャイナはどうすんだ?万事屋を続けるか親父と一緒に宇宙に行くか迷ってる…とかって聞いたが…。」
「ええ、決めかねてはいるようですが…宇宙へ行く確率の方が高そうですね。」
「そうか…。」
彼女が自分の将来を見据えて身の振り方を考え始めたのも、総悟には良い影響になったろう。
そして、総悟が『真選組の弟分』ではなく、隊長として部下を持ち変わっていく姿は神楽にも何らかの影響を与えているのだろう。
未だ町で会えば大乱闘を始める二人だが、だからこそ互いに影響を与えあって成長していく。
「けど、…チャイナさんが出て行ってしまったら万事屋の旦那も寂しくなりますね…。」
「………。」
意外と子煩悩で寂しがりのダメ大人は、どうせ口では『うるさいのがいなくなって清々する』くらいの軽口を叩いているのだろうが、心中では相当寂しく思っているだろう。
「そういえば、副長はこの頃万事屋の旦那と喧嘩しなくなりましたね。」
「っ。」
「以前は寄ると触ると喧嘩ばっかりしてたのに…。」
喧嘩なんか仲が良いからできたんだ。
…なんてことを山崎に言うつもりはないが。
お互いを意識し、好きだったから突っかかっただけ。喧嘩という形でも言葉を交わしたかった。
意地張ってぶつかって、自分という存在を相手にアピールしたかった。
ただ、それだけだった。
幼い表現方法だったと、今では思う。
けれど当時の自分たちには、あれが精一杯だった。
「まあ、あれですね。みんな大人になったってことですね。」
「何自分も成長したみたいに言ってんだ、山崎のくせに。」
「ええええ?」
「仕事の邪魔なんだよ。」
「今まで一緒におしゃべりしてたくせに…。」
「んだとう!」
「ああ、いや、何でもありません!……ったく、奥さんになる人にもそんな風にしてたら、すぐに嫌われちゃいますよ。」
「なんか言ったか!」
「い、い、言ってません。」
「いいからもう、手前は上がれ。報告は終わったんだろ。」
「はい。じゃ、お休みなさい。」
「ああ。」
山崎は手に持っていた白い大きな封筒を、丁寧に土方の机の上に載せて立ち上がった。
廊下への障子を閉めて山崎が出ていく。
もうこれで、今日は土方のもとへ誰かが報告に来ることもない。
後は、机の上の書類を捌くだけだ。
短くなった煙草を灰皿に押し付けると、隊服の上着を脱ぎスカーフを外した。
新たに煙草に火を付けて、ふうと煙と溜息を一緒に吐いた。
今までも何度か見合いや結婚の話はあった。
近藤が独身なのを理由に縁談を全て断わってきた土方だったが、今回は元々真選組に協力的な官僚の親戚の娘とかで、会いもせずに断るのは難しかった。
仕方なしに少し前に一度会食という形で会った。
相手の女性は、ある意味、理想の結婚相手といえた。
結婚に夢をもたない女性。
互いに利害が一致すればそれでいいと割り切って考えているようで、見栄えが良ければそれに越したことはない…といった感じの理由で土方に白羽の矢が立ったらしい。
土方も、結婚生活などというものにほわほわした夢など抱いたことはない。真選組の役に立つ結婚ならそれに越したことはない…という程度。
改めて写真を取り出し眺めてみる。
女の美醜など気にしたこともないが、そう言えば美人といえるかな…とも思う。
アイツと一緒にいられないのなら、誰が相手でも同じことだ。
ふと、そんなことが頭をよぎって、そんな自分に土方は唖然とした。
いまさらそんなことを思うなんて…。
2年ほど前のほんの一時期、土方は銀時といわゆる恋人同士といえる関係だったことがある。
お互いを意識し過ぎて、会えば喧嘩の毎日。
意外と思考が似ている二人は、定食屋に入れば鉢合わせし、休日町に出れば顔を合わせ、飲みに出れば行きつけの飲み屋が同じで…。並んで飲むようになるのにそれほど時間はかからなかった。
手を伸ばしたのはどちらが先だったか…。
男に抱かれるという行為を受け入れたのも、相手が銀時だったからだ。
初めは怖かった理性を失うほどの快感も、銀時が相手ならば許せると思った。
けれど、大っぴらに公言できない関係である上、土方の仕事が忙しく会う時間も制限された。
そんな、不安定な関係には常に不安と不満が付きまとった。
それなのに、それを銀時に知られまいと意地を張った。
自分はすっかり銀時に惚れ込んでいるというのに、会えなくたって平気であるかのような態度を取り繕った。
自分の方が相手を余計に好きなのだと知られたら、なんだか負けのような気がして…。
恋愛は勝負事じゃねえのにな…。
今になれば土方にだって分かる。
たとえ好意が態度や表情にダダ漏れだって、その場ではいたたまれなくたって。それこそ負けたような気がしたって。
銀時を失うよりはずっと良かった…と。
いつまでたっても心を許さず、頑なな態度をとり続ける土方にきっと銀時も不安や不満を募らせていたのだろう。
ある日、普段の比ではない大喧嘩をした。
20100509UP
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