月明かりで酒を。 1

 

 

「喧嘩だ〜!!」

わっと街中がにぎやかになる。

「近藤さん!」

「トシ、行くぞ。」

珍しく一緒に見回りに出ていた二人が、刀に手をかけつつ現場に駆け付けると。

「レディに手を出すなんて、男の風上にも置けないアル!」

と言いつつ、バッタバッタと襲いかかる男たちをなぎ倒していく少女。

「わ、わ、僕は何もしてませんよ!?」

戸惑いつつも、うまいことよけて無傷のメガネ。

「俺の貴重な糖分返せ〜〜!」

どこまで本気なのか?木刀を振り回して、相手を打ち払っていく銀髪。

その奥には着物姿の女性がひっそりと立っていた。

………。

土方は一瞬で体中の力が抜けそうになったが、すぐ隣で。

「お、お妙さん!お妙さ〜〜〜〜ん!この近藤が来たからにはもう大丈夫ですよ〜〜!!」

と叫んだ男が喧嘩の真っただ中へ突入していく。

ち。

咥えていた煙草を投げ捨てると、土方も刀を抜いて声を張った。

「真選組だ!全員そこを動くなよ!」

動くなといわれて動かない訳はないのだが、明らかに銀時たちと対峙している男たちの腰が引けたのは分かる。

どうやら脛に傷を持つ身らしい。

その中の何人かの顔は手配書で見たことがあるとチラリと確認して、刀を振るった。

「ひ、ひ、引け!」

「く、くそ!」

倒れた仲間を引きずって男たちは逃げて行った。

「お妙さん!大丈夫ですか?お怪我は?」

近藤は、早速意中の女性のもとに駆け寄って……そして、殴られている。

「メガネ。何があった?」

一番誤魔化さずに尚且つ要領よく説明できそうな新八に聞く。

「え、…いえ、何も。本当に。ここで4人で団子を食べてたんです。そうしたらあいつらが急に…。」

「俺の貴重な糖分〜〜〜!」

地面に落ちた団子を情けない声をあげて名残惜しげに見る銀時。

「ずいぶんと羽振りがいいらしいな。」

「んなことねえよ!昨日ちょっと仕事が入って報酬が入ったから、たまには…って来ただけでさ。」

「そうアル。一人1皿じゃ足りないアル。」

不満げに頬を膨らます神楽に、ヤバい仕事で大金が入ったのではないらしいと見当をつける。

ただ、彼らがヤバいことに首を突っ込んでいるという自覚無しに誰かに目を付けられている可能性はある。

何かと目立つからな…。

それにさっきの奴らは確か………。

内心溜息をつきつつ、子供たちに怪我がないらしいことを確認する。

「じゃあ、私は仕事に行くわね。」

近藤を倒したお妙が有無を言わさぬ口調でにっこり笑う。

本来なら事情聴取をしたいところだが、この人は梃子でも動かないだろうと、再び心の中で溜息をついた。

「じゃ、神楽ちゃん。そのお友達に会えるといいわね。…あら、そうだわ、神楽ちゃん。土方さんとか近藤さんとか、お城へ行くんだから頼んでみたら?」

「?何だ?」

「そよちゃんに会いたいアル。会えるアルか?」

「………。」

そんな無茶な…。

土方が言葉を失っていると、復活した近藤が意気揚揚と立ち上がった。

「お任せください!お妙さん!」

「ちょ、近藤さん!?」

「この近藤が必ずチャイナさんとお友達を会わせてさしあげますよ!なあ、トシ!」

「勝手なことを!!」

「そう?じゃあ、お願いしますね?……ねえ、土方さん?」

「………ち。」

お妙はその舌うちを承諾と受け取って、ニッと笑ってくるりと背を向け悠然と去って行った。

「………近藤さん、あんた何を簡単に引き受けてんだよ。」

「え、城に行くんだからさ。その時にチャイナさんを連れて行ってあげればいいだろう?」

「そんな簡単にいくか!身元確認とかどうすんだよ!それに手紙渡すとかくらいならともかく、本人をそよ様の部屋まで連れていくなんて、無理に決まってんだろうが!」

「大丈夫だよ、トシなら出来る。」

「〜〜〜〜。」

押し切られる土方を、幾分憐みのこもった眼で銀時と新八が見る。

「マヨラ!そよちゃんに会えるアルか?」

期待のこもった眼で土方を見上げる神楽。

「………っ。」

「ねえ、ちょっと聞きたいんだけどさ。『そよちゃん』…って誰?」

「聞いても神楽ちゃんの説明良く分からなくて…。」

知らなかったらしい銀時と新八に、唸るように答えた。

「…将軍様の妹君だ…。」

「「ええええ!?」」

ようやく土方が苦虫をつぶしたような顔をしている理由に合点がいく。

「私はかぶき町の女王ネ。私の方が偉いアル。」

「………うん、ある意味お前も大物だけどね。」

銀時が呆れたように言った。

「………チャイナ。本気で会いたいのか?」

低い声で土方が訊ねる。

「会いたいアル。」

「そのためには何でもできるか?」

「出来るアル!!!」

「………分かった。……とりあえず屯所へ来い。…お前たちもだ。」

背を向けて屯所へ向かう土方の後を万事屋3人と幾分ヨレヨレになった近藤が付いていく。

「………そういや、チャイナ。お前、不法入国したとか言ってなかったか?」

「失礼アル!不法入国なんてしてないアル。ちゃんと宇宙船にしがみついてきたアル。」

それはまぎれもない不法入国。

「…ち、そっからかよ!」

土方が今日一番の忌々しさを持って大きな舌うちをした。

 

 


 

屯所へ行き、客間らしい座敷に通される。

『ちょっと待ってろ』と言い置いて、土方も近藤もどこかへ行ってしまった。

「お〜〜い、ここは客にお茶も茶菓子も出さねえのか〜!」

「出さねえのか〜!」

「ちょ、銀さん、神楽ちゃん。こっちのお願いで来たんですから、大人しくしててくださいよ。」

喚く二人を新八が慌てて止めていると、お盆にお茶とお菓子を載せて山崎が現われた。

「はい、お茶とお茶菓子です。うるさいから出しとけ…って副長が。」

「嬉しいんだか悔しいんだか複雑な出し方だな…オイ。」

それでもそれぞれが手を伸ばす。

「で?副長さんはなにしてるわけ?」

「ちょっと調べ物を…。」

「調べ物だあ?」

「不法入国者の手続きとか…そんなんです。」

「私、捕まるアルか?」

「そうじゃなくて、本来出す書類を揃えるんだと思うよ。そっちは本来管轄外だから、先にちゃんと調べてるんだと思うけど…。」

「あの…そう言うのって、本国の戸籍とかも必要なんでしょうか?…だとしたら、凄く時間とかかかるんじゃないですか?」

「…う〜ん、可能性はあるね…。」

そんなことを話していると、土方がやってきた。

「そよちゃんに会えるアルか?」

「………正直に言う。…時間がかかる。」

「……そう、アルか…。」

「まずは不法入国の方を何とかしなけりゃいけない。身元の確認ができない奴は城に入れないからな。」

「…分かったアル。」

「揃える書類は大体分かったから、そっちは俺がやる。本人の確認が必要な段階になってからそっちへ回す。」

「うん。」

それから。と言って土方は煙草の煙をふうとはいた。

「お前はさっき、『何でもする』といったな。」

「言ったアル。女に二言はないアル!」

「分かった。だったら、お前には真選組に入隊してもらう。」

「へえ!?」

「ちょ、土方さん!?」

「お前たちもだ。」

「はあああ!?俺らも!?」

「お前一応チャイナの保護者だろうが。女の子一人男ばっかりのところに置いといて心配じゃないのか?」

「や、この子に関してはそういう心配は…。」

「え、でもどんな間違いがあるか分りませんよ?」

「新八?何アルか?間違い…って。」

「だって、ほら神楽ちゃんと互角に戦える沖田さんとかいるわけですし…。人数は多いから一斉に…とか…。」

「だから何アル?間違いって!!」

「この子に限ってそんな心配は…。」

「けど、神楽ちゃん一人で入隊なんて…。」

「じゃあお前は真選組に入りたいのかよ!?」

「そういうわけじゃないですけど!」

ワタワタと慌てる万事屋の3人を呆れたように見ていた土方は、再びふうと煙を吐いた。

「うるせえな。ちゃんと話を聞け。」

土方の通る声にピタリと3人が黙る。

「不法入国の方をどうにかしたところで、チャイナが一般人なのは変わらねえ。そのままじゃ城の奥にまでは入れねえんだよ。」

「じゃあ…?」

「だから、真選組の隊士だっつうことにして、城で会議があるときか、警備の仕事があるときか…そういう隊士が大勢城へ入れる機会に紛れこませよう…ってことだ。」

「…だったら、そのときだけ紛れればいいんじゃね?」

「こんな女の子がまぎれてたらあっという間にバレるわ!男で通すにしてもこんな小柄な隊士はいねえ。

どうせ不法入国の手続きだけで1ヶ月くらいはかかるんだ。その間隊士として働いて、幕府の役人に顔を覚えてもらっておいた方が安全だ。

当日に騒ぎなんて起こしたら、そよ様に会うどころか、二度と城には入れなくなるぞ。」

「………。」

「………。」

「………。」

「だから言ったろうが。『何でもできるか?』って。」

 

 

 

 

 

20100521UP

NEXT

 





目 次   次 へ



お待たせいたしました。
しばしお付き合いくださいませ。
(20100527UP:月子)








 

 

※原作ネタバレしております。コミックス派の方はご注意ください。