「月明かりで酒を。」2
「だからその覚悟があるか?って聞いたんだ。いやならいい、入国に関しての手続きだけはしてやる。」
「それは、そよちゃんには会えない…ってことアルか?」
「お前が選べばいい。
うちに入隊して、時間はかかるが確実な方法でそよ様に会うか。
会えるか会えないか分らねえが、城に忍び込んで行って無理やり会うか。…ただし、その場合騒ぎが起こったり失敗してつかまったりすれば、万事屋の二人も多分同罪でしょっ引かれる。
それともそよ様に会うのを諦めるか。」
「………会いたいアル。」
「別に一生隊士でいろというつもりはない。1ヶ月かせいぜい2ヶ月の話だ。」
「っ、そんくらいなら、入隊するアル!」
「…現金な奴だな…。」
「………ねえ、それって俺たちも一蓮托生ってことだよね…。」
「…働いた分に対しての給料は出す。ついでに1日3食の食事と部屋もな。」
「え、給料ももらえるんですか?」
「当たり前だろう。隊士になるんだから。ただし、新人隊士と同じ待遇になるが…。」
「ちょ、俺も新人?」
「新鮮な気持ちになれていいんじゃねえの?道場での稽古とかもあるぜ。」
「やだね!面倒臭い。」
「だったら…お前ら3人で別動隊にするか…。ガキども二人はウチの命令とか聞きそうにないしな…。」
「…ってそれ、俺が隊長?冗談だろ、何で俺がお前の部下なんだよ!却下!!」
「何言ってんですか銀さん。入ったばっかりで隊長なんて破格ですよ?」
「文句言うもんじゃないアル。」
「…お前ら長いものにはあっという間に巻かれるタイプだな。」
「よっぽど保護者の教育がいいんだな…。」
「お前の上って…。」
「局長しかねえよ。ちなみにお前が局長なんて絶対に認めん!」
「あ、だったら副長にすればいいんじゃないですか?副長は二人いたっておかしくないですもんね。これならどっちが上…ということもないですし………。アレ?」
土方と銀時からじろりと見られて、山崎が冷汗をダラダラと流しながら黙り込む。
「………仕方ねえか…。」
「…激しく、不満はあるが、それで手を打ってやってもいい。」
不承不承二人は頷いた。
「離れに部屋を用意する。お前らは3人一緒でもいいだろう?」
「ああ、まあ。」
「あと隊服を支給する。それから、2〜3日中に隊士が持つ身分証明書も発行する。あと質問は?」
「私たちみんなここにずっと住むアルか?…だったら定春はどうなるアルか?」
「…ああ、あのでかい犬か。…裏庭で良かったら連れて来ていい。散歩や世話は自分たちでしろ。犬のエサ代はお前らの給料からさっ引く。」
「えええ!?あいつがどんだけエサ食うと思ってんだよ!?」
「ガキ二人が新人隊士でもお前は副長待遇なんだから、無駄遣いしなければエサ代くらいでるはずだ。…大体、食事はうちのまかないで食えるんだから、余裕だろうが。」
「あ、…そうか。食事代はかからないのか…。」
「で?どうする?」
「どうする…って何が?」
「いつここへ移ってくる?今日中に来るってんなら何人か荷物持ちに連れて行っていいが…。」
「ずいぶん急だなあ。」
「今日は特に大きな事件がないからな。後日そっちの都合で来てもいいが、その時に捕り物があれば、手伝いはないぞ。」
「………今のところ特に受けてる仕事はねえし…。」
「思い立ったら吉日…とも言いますしね。」
「ご飯ご飯ご飯ご飯!!!」
「じゃあ、これから万事屋へ行くか。」
立ち上がった銀時たち3人の後を土方も付いてくる。
「?お前も来んの?」
「下の女将に話を通しておく。失踪だの誘拐だのと騒がれても面倒だからな。」
「あ………そう。」
手回しのいいこって。
「おい原田、お前の隊の何人か荷物運びに出せ。」
「はい。」
「山崎、例の手配書、調べがついたか?」
「副長室の机に廻しておきます。」
「あと、3人の隊服も用意しておけ。」
「はい。」
「おい、総悟はどこ行った?近藤さんのところへ行くように言っとけ。」
「はい。」
廊下を歩きながら、あれこれと指示をしていく土方。
「やっぱり凄いですね、土方さん。……銀さんも同じ副長ですよ?大丈夫ですか?」
「あああ?俺があんな面倒臭いことするわけねエだろ。」
「はあ。」
「大丈夫アル、新八。銀ちゃんはやる時はやる男ね。さっきだって、まんまと副長の給料せしめたネ。」
「ちょっ、神楽ちゃ〜ん。人を詐欺師みたいに言わないでくれる!?」
「給料分の仕事をしなかったら、詐欺といっしょですよ。」
幾分冷たい目線で新八に言われ、これ以上は自分の分が悪くなると銀時は黙り込んだ。
「じゃあ、俺は女将に話してくる。」
土方が『スナックお登勢』の中へと入って行った。
屯所へ移るといっても、完全に引き払うわけではない。
さて何を持っていくかと考えても思いつくのは着替えや夜着くらいのもの。
銀時がどうしてもジャンプを持っていくと言って聞かないので、それだけを隊士たちと万事屋から運び出すことになった。
神楽は定春のエサやエサ箱などを隊士たちに渡している。
新八はいったん自宅へ戻るということで、隊士2名を同行して家へ向かった。
それほどかからないうちに作業は終わり、荷物運び用にと調達された軽トラックの荷台にジャンプと着替えを乗せ定春と神楽が乗り込んだ。
階下にお登勢たちがいるとはいえ、やはりこれだけは…と思い、ガスの元栓や水道の元栓などを締める。
思いついて冷蔵庫の中を見てみたが、ほとんど物は入っておらず特に腐りそうな生ものは発見できなかった。
飲みかけだったいちご牛乳だけ飲み干して、窓や玄関の戸じまりをして銀時が下りてきた。
「先に屯所へ戻ってろよ。」
運転席の隊士に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「俺、あっちに乗せてもらうわ。」
店のすぐそばには真選組のパトカーが運転手つきで待機している。
「分かりました。」
「じゃあね、銀ちゃん。先行ってるアル。」
荷台に定春と一緒に乗り込んだ神楽に手を振り、さて、話は終わったのかねえと『スナックお登勢』の戸を開けた。
「…何かあったらこちらへ。」
中では、そう言って土方がお登勢に名刺らしきものを渡していた。
「ああ、分かったよ。…まあ、せっかく入隊させるんだ、ちょっとはシゴいてやっておくれよ。」
「いまさらシゴいたって、マダオはマダオのままだと思いますが…。」
「…それもそうかねえ…。」
あんまりな言いようだと思ったが、ヘタに口出しをして過酷なトレーニングメニューなどを組まれても困るのでここは聞かなかったことにしておく。
「荷物運び終わったぜ。軽トラの方は先に帰しちまったからな。」
「ああ。…じゃあ、女将。」
「ああ。よろしく頼むよ。」
頷く土方を面映ゆく見たが、『頼まれるいわれはねえ』とそっぽを向いた。
「…そういや銀時。」
「何だよ?」
「『スナックお登勢』の慰安旅行をしようかと思ってね。」
「はあ?スタントが出る温泉じゃねえだろうな。」
「何を言ってるんだい?気候もいいし、1週間くらい行ってこようかと思ってんだけどねえ。」
「へえ、豪勢じゃねえか。」
「まあ、本当ならあんまり店は閉めたくないんだが…。どうせ行くならゆっくりしたいしねえ。」
少し前にお登勢は大怪我をしている。
気力で今まで開店し続けてきたが、ここいらで1回ゆっくり休むのもいいだろう。
「いいんじゃねえの?1週間といわず、2週間でも3週間でも。」
「そうだねえ。キャサリンもたまもずっと休みなしで頑張ってくれてるしねえ。」
「………真選組が使っている保養施設があるが…、もし良かったら…。」
「良いのかい?」
「長期になるなら、普通の旅館に泊るより格安で使える保養所の方が負担が少ないと思うが…。」
「場所にもよるねえ。」
「あとでパンフレットを届けさせよう。」
「そうかい?じゃあ、見るだけは見てみるかねえ。」
お登勢は楽しそうに笑った。
『スナックお登勢』を後にして二人でパトカーの後部座席に納まる。
「………なんかさあ。」
「ああ?」
「ババアの笑った顔、久し振りだわ。」
「…そうか?」
「怪我とかしてたしな…。このところ、すぐ疲れる…とか言ってたし。」
「そうか。」
かぶき町で起きた大騒ぎを警察である土方が知らないはずはない。
あの後、ろくに警察が調べにも来なかったのは、もしかしたら真選組が……というより土方が裏から手を廻してくれたんじゃないか?とも思ったりするのだが…。
聞いても素直に教えてくれそうにないので聞けないでいる。
大体、『そうだ』と認められたところで素直に礼など言えるはずもない。
それでも久しぶりにお登勢がリラックスしたような顔で笑ったことを、銀時が嬉しく思っているのは伝わったのだろう。
土方の表情も穏やかだった。
その後新八も屯所へと合流し、土方はお妙にも話を通した。
せっかくだから、お妙もお登勢たちと旅行に行こうか…?なんてことを話していたらしい。
こうして、銀時、新八、神楽の3人が屯所への引っ越しを済ませ。
荷物を取りに行っている間に用意されていた隊服に、袖を通したのは。
3人が団子屋で襲われてから、わずか2時間後のことだった。
20100523UP
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