年上の彼女と年下の彼氏 8

 

〜 おまけ その3 〜

 

 

言い訳が許されるのなら

 

 

 言い訳がもし、許されるのなら…。

 都会的な美人には弱い。ボインで美人で優しくて。そんな女性に声を掛けられ優しくされれば、多少舞い上がってしまっても仕方ないだろう?

 そりゃあ。彼女のいる身で、そういう女性からの誘いにうかうか乗ってしまったのは、己のだらしなさ…というか女好き…というかモテた経験の少ない男の性…というか…。とにかくそんなんで、弁解の余地は無いのかもしれないけれど…。

 けどこれが、ホテルへ行きましょうとか、あなたの部屋(もしくは私の部屋)へ行きましょう、というお誘いだったらさすがにハボックも断っていた。

 会ってお茶して、おしゃべりをして、たまに食事して…。そんなんだったから気安く誘いに乗ってしまったのだ。誓って、手すら握っていない。

 そして、本当に言い訳になるけれど。一番気持ちが惹かれたのは、ボインでもきれいな顔でもなくて。彼女の持っていた本だった。

 『スカーレット・シャーリー』の最新刊。

 会って話す話題のほとんどは、ティナの本の話。今思えば、本の中の事件から仕事に絡めてマスタングの動向を引き出したかったのだろうけど…。多分、ハボックはすぐに話題を戻していたと思う。

 会いたくても会えない分、ティナの話を誰かとしたかった。

 マスタングには内緒だから出来ないし、そうなるとホークアイとも出来ない。セントラルに来てから忙しくて、ティナとも電話はなかなか出来ていなかった。ティナに飢えていた。たとえ作品の話だけでも、誰かとしたかった。…ただ、それだけだったのだ。

 ティナがセントラルに来たら、紹介してもいいかもとか考えてた位で…。新しく出来た女友達くらいの感覚だった。

最も、ハボックはそういうところが妙に気安いらしく、時々誤解されるから気をつけろと忠告してくれたのは士官学校の時の友人だったか…。

しかし、まあ。この場合は…。

何度思い返してみても、ハボックから情報を聞き出そうとしていた彼女と出会わなかったという選択肢は無いように思える。

そして、途中経過がどうあれハボックはマスタングについてあの現場へと行っただろう。そうなれば、どう転んでも結果はあまり今と変わらない気がして…。

はあぁと溜め息を付く。叩いたって、痛くもなんとも無い足。…情けない。

…と。

コンコンと小さくドアがノックされて、そっと顔を覗かせたのは…。

「ティナ!?」

「ジャン。」

 つつつっとこちらへ歩いてくる。

 駆け寄れない足をもどかしく思いながら、両腕を必死に伸ばした。

 やっとティナの細いからだが腕の中へ飛び込んできて、抱きしめることが出来た。

「やっと、会えた。」

「うん。なかなか来れなくて、ごめんね。」

 ぎゅっと力強く抱きしめ返してくれる。

 全く、こんな時でさえこの人は謝るんだなあ。それが、どれだけこちらをいたたまれない気分にしているか分かっているのだろうか?

 愛おしさにさらにぎゅっと抱きしめると、ふふふっと小さく笑う気配。

「何?」

「ううん。何だか煙草の匂いが薄いような気がして…。」

「ああ、1日1本に決められちまったから。」

「あらら。じゃあ、随分と健康になって退院するようね。」

「足は動かねーけどな。」

「………。」

 一瞬口ごもったティナ。けど、すぐに強い視線が飛んでくる。

「それ。本当なの?」

「あ?うん。」

「…うん。今、動かないのは本当だろうけど…、本当にもう駄目なの?」

「医者はそう言ってるけど…。」

「悪いけど私、軍の医者なんて信用してないの。どうにかすれば、何とかなるんじゃないの?」

「…そう言われると、何とも言い返せないけど…。」

「私が決めることじゃないけど…。足掻くだけ足掻いてみれば?」

「………。」

「…どう?」

「…それでも、駄目だったら?」

「んー。私の秘書で使ってあげる。」

「ああ、それもいいかも。」

「ふふ。秘書兼住み込みの番犬なんて、どう?」

「マジ?」

「勿論。軍人じゃなくたって、あなたの出来ることを何でもやってみたらいいじゃない。偶然にも今度の部屋はこの間のより1部屋多い上、エレベーター付のマンションなの。住み込みもOKよ。」

「すっげ、最高」

「んーと、じゃあ。待遇はどのくらいにしようかなー。」

「ティナがいい。」

「…しょうながいなあ。…ん……。」

 掻き擁いて口付ける。久しぶりの口付けをたっぷりと味わって、ポフンとその肩口に顔を埋めた。

 出来ないことばかり頭をよぎっていたけれど…、そうか『出来ることを』…か。

「…私、…そんなに小さくないつもりだけど…ボインでもないのよね。」

 少し冷めた声。冷たい汗が体中の毛穴という毛穴から噴出す。

「言い訳とか、ある? 一応、聞くけど?」

「う…え…と、その……。」

 ああ、ティナ。

もしも本当に言い訳が許されるなら…。

二度と余所見などしませんので、許して下さい!

 

 

 

 

 

 

20050608UP
END

 

 

 

ティナ。新居には元々ハボックを引っ張り込むつもりだった模様…。
さて、これで「年上の彼女と年下の彼氏」は終了です。
感想をどうぞ掲示板の方へ!よろしくお願いします。

 

 

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