ワンピース。注:「ルゾロ」です。

 

 

 

俺はいつも、許されてこの腕の中にいるんだと思った

 

 

 

 俺がノーテンキに生まれた村を出た時。

『海賊王になる』と口ではデカイ事を言いながら、そのアテは全く無かった。

 じっとしていられなくて、小船に乗ってとりあえず海へ出てみた。

 その先は何とかなる。そんな感じだった。

 とりあえず仲間を探すか…。そんな心もとない予定。

 だけど、初めてゾロに会って話をした時。こいつを仲間にしたいと思った時。

 俺は本当に海賊王になれるかも知れないと思った。

『こいつを仲間に出来れば、俺は絶対に海賊王になれる』何故かそう思った。

 だから、嫌がるゾロに半ば無理矢理仲間になることを承諾させたのだ。

 一度仲間になると決めてからのゾロは、実に潔かった。

 剣の腕が強いのは当然使えるところだけど、それだけじゃない。

 俺を『キャプテン』と呼び、戦う時も何をする時も。全てを説明しなくったって分かってくれる。

 一番して欲しいと思うことをしてくれる。一番俺がやりたいようにやらせてくれる。

『グランドラインに行く』出会って間もなくそう言ったときも、平気な顔をして頷いた。

 なんだろう?何かがぴたりと合う感じ。

 この感情は仲間を思うものだと思っていた。

初めて出来た仲間だから大切なんだと思っていた。

ところが、ナミが仲間に入ったとき、あれ?と思った。

 ナミに対する気持ちとゾロに対する気持ちが違う。ましてやナミは女なのに。

 そして、次々と仲間が増えていくにつれ、徐々に自覚していった。

他のどの仲間とも違う。目標であるシャンクスとも違う。

 ゾロだけが特別なんだ。…と。

 元来単純な俺は、自覚したその思いを隠したりはしなかった。

 最初に好きだといった時。その『好き』が『仲間として』のではなく『特別な』意味だと知った時。

ゾロは確実に3メートルは後ろへ飛び退った。

「なっなっ、何だとっ!?」

「だから好きだって。」

「お前、ふざけるのも大概にしろ!」

「ふざけてねーよ。…傷つくなあその反応。」

「これが普通だ。バカ。」

 それでも、『船を下りる』とは言わなかった。

 だから、他の仲間達がめいいっぱい引きまくる中、俺の猛烈なアタックが始まったのだった。

 朝から晩まで、顔を見れば好きだと言いまくった。

 始めのうちはいちいち顔をしかめていたあいつも、そのうち『はいはい』と軽くあしらうようになってきた。

 慣れてきただけなのか、本気だと認めてくれたのか…?

分からなくて、さすがにちょっぴり辛くなってきた。

 丁度、そんなときだった。

 あいつが、ミホークに切られたのは。

 本当は間に入って止めたかった。

 けれど本気のあいつにそんなことは出来なかった。

 ゾロがかろうじて命を取り留めたとき、心底ほっとした。

 もし死んでしまっていたら、俺はどれだけ後悔したかわからない。

 ミホークに殺すのは惜しいと思わせたのはあいつ自身の心のありようだった。

 そして、ゾロは言った。

 もう、意識なんて無いはずなのに。

「世界一の剣豪にくらいならねエと、お前が困るんだよな!」

 あんなあったばかりの、売り言葉に買い言葉で言ったような一言だったのに。その言葉をちゃんと覚えていてくれた。そして、そうなろうとしてくれた。

 それだけのことが、全身が震えるほど嬉しかった。

 その後行ったココヤシ村。

魚人たちを倒した後、村では大宴会が始まった。

 その頃になって、やっと医者の診察を受けることが出来たゾロは全治2年とか、訳の分からない診断を下されていた。

「だからって、2年は掛からないだろ。」

「そうだよな。ゾロだしな。」

「…とにかく、行って来い。俺はしばらく休んでいく。ああ、酒だけは確保しておいてくれ。」

「分かった。」

 診察してくれた医者が出て行って二人きりになる。(厳密には、他のベッドで眠っている奴もいたけど、俺の頭の中ではそいつらはカウントされていない)

「次の仲間は船医かな、やっぱ。」

「お前にしちゃ、まともな意見だ。」

「だってよ、誰かが怪我した時に陸に着くまで治療出来ねえんじゃ…。」

「まあな。」

「……あのな、ゾロ。」

「何だ?」

「あの時。 お前が死ななくて良かった。」

「……そうだな。」

「俺……。…俺さあ。」

「…どうした…って、…おい!」

 俺はするすると腕を伸ばしてゾロの身体を動けないように抱きしめた…というより締め付けた。

「ゾロ…。」

 そのまま唇を重ねた。

「う………ん。」

 もがいて逃げようとするが、腕でぐるぐる巻きにされた上大怪我をしているのだ。逃れられるはずもない。

 しばらくして、ようやく唇を離した俺に。

「…何……しやがる…。」

 荒い息のまま凄んできた。

「だって…好き…なんだ。」

「……そんなことは、知ってる。」

「……え?」

 ぽかんと見返した俺に、ゾロは小さく溜め息をついた。

「バカだバカだと思っちゃいたが…。お前、本当にバカだな。」

「ゾロ?」

「俺のことに限らないがな。俺はお前の本気を疑ったことなんざ、一度もねえよ。海賊王。」

「!!」

「お前が何に対しても、本気なんだってのは分かってるつもりだぜ。」

「じっ、じゃあ。でも。」

「…本当にバカだなあ。本気だから困ってんだろーが。」

 溜め息をつきながらそう言って苦笑した。

 無意識のうちに俺の腕はするすると元に戻り、あいつの身体を自由にする。

 この時初めて、俺は何でゾロが特別なのか分かった気がした。

 ほとんど初対面で、『海賊王になる』と言った俺の言葉を認めてくれたのはゾロだけだった。

 大抵は笑われるか、『お前には無理だ』と呆れられるかだった。

 他の仲間だって始めは信じちゃいなかったろうし、あのシャンクスだって笑った。(最もあの時は本当にガキだったから、笑うしかなかったのかも知れないけど)

 他人に笑われたからといって、決心が鈍るわけじゃないけれど…。

 笑いもせず、バカにもせず。ただそのまんま、それが俺の野望なのだと認めてくれたのはゾロだけだったんだ。

「……どうした?黙り込んで。」

「ホレ直してた。」

「アホか。」

「本当だぞ。」

「分かった分かった。も、いいから行って来い。料理がなくなるぞ。」

「うん。」

 押さえつけて無理やりキスしたんだけどな。

 有耶無耶のうちにそれさえも許されて受け入れられてる。

 『困ってる』って言ってたけど、とてもそうには見えなくて。

あいつの気持ちを量りかねてる俺の方がずっと『困って』いるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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