俺はいつも、許されてこの腕の中にいるんだと思った。 2

 ローグタウンでちらりと見かけた海軍の女。

 それがゾロの幼馴染で、共に世界一の剣豪になると約束した『親友』で。大切にしている刀の元の持ち主と瓜二つだと聞いてから(サンジが無理やり聞き出したのだ)俺の気持ちはぐらぐらと不安定だった。

 『親友』の話は聞いていたけれど、そいつは男なんだとばかり思っていたから。

「親友って言っちゃうところが凄いわよね。」

 グランドラインに入った頃から、ナミはすっかり俺の相談相手となり。いつも呆れながらも話を聞いてくれる。

「女の子でしょ。死んじゃったんでしょ?…でもって、あのゾロが勝てなかったって?…それって所謂初恋って奴よね。あいつって、妙に女の子に甘いところってあるじゃない?サンジくんとは違う意味でね。本気で向えなかったなんじゃないかしらね。」

「そうかな。」

「まあ、相手の子が本当に凄かったのかも知れないけどさ。」

「うーん。」

「あのね。死んじゃったのよ。思い出には勝てないの。諦めなさい。」

「えー、やだ。」

「じゃあ。気にしないことね。したって仕方ないんだから。どうしたって、戦いようが無いんだから。」

「うー。」

「別に、ゾロはあんたのこと嫌がってなんかいないと思うけど?」

「うん。」

 それは分かってる。

「キスしたけど、怒んなかったし。」

「やだ。…したの?あんた。」

「うん。へへへ。」

 はあ〜〜。ナミの大きな溜め息が零れる。

「あんたって、我儘だしマイペースで人の話をあんまり聞かないし。何だかんだ言って強引に自分のしたい事をやっちゃうし。はっきり言って、結構はた迷惑なのよね。」

「何だよ、そりゃ。」

「でもね。それでもずっと傍にいてくれるって事は。相当好きじゃなきゃ無理だと思うのよ。」

「そっかなあ?」

「その『好き』があんたの『好き』と同じかどうかは分からないけどね。」

「…うーん。」

 そこが問題。

「いーんじゃないの?同じじゃなくたって。」

「他人事だと思って!」

「まあ、他人事だけどね。…ちょっと、そこでいじけないの!

……あのね。私、初めてあんた達に会った時。もうずっと組んで海賊やってんだと思ったのよ。」

「え?」

「それだけ息が合って見えたって事。」

「そうかあ?」

 あの当時は好きだって気持ちに気付いてもいなかったのに。

「とてもじゃないけど、出会ったばかりには見えなかったわよ。」

 少し考えてナミは言葉を続けた。

「あんたとゾロと、二人でいるときの役割が分かってるっていうのかな。お互いのポジションをお互いが分かってるって言うのかしら…?」

「…分かんね。」

「…で、しょうね。言葉で言うのは難しいわ。

 何て言ったらあんたにも分かるのかしら?…恐ろしく簡単に言えば、パズル…そうパズルのピースよ。ゾロってピースとルフィって言うピースをはめ込んでいくと上手い具合に無理なく一つの絵になるわけ。」

「う〜ん。それって、アレだ。『お似合い』って奴だ。」

 俺なりに頭の中で解釈して返すと、がっくりとナミは脱力した。

「簡単にしすぎよ。…まあ、でも。ニュアンスとしてはそんな感じかしら。…言っとくけど、仲間として、人間としてよ。恋人同士としてじゃないからね。」

「う…ん。」

「考え方が似てるのかしらね。あんた達って。」

「そうかな。」

「だって、私たちは死にたくないと思ってるし。」

「そんなの俺だって思ってるぞ。」

「そうじゃなくて『死もあり』って思ってるでしょ?」

「そりゃ、望むモノが大きければ途中に何があるか分かんねーし、戦って適わなきゃそんときゃしょーが無いだろ。」

「ゾロもそうよね。簡単に命を諦めるって言うんじゃなくて、それとは別のところで『それもあり』って思ってるのよ。私たちにはちょっと真似できないわね。」

「??なんか変かな?」

「だから、それを当たり前に思ってるあんた達は似てるって事。」

「………ふーん。」

「ゾロって大体あんたが何したいか分かってるじゃない?あんたが一言言えば、『ああ。大体こんなことを考えてるな』ってね。

 後、こういう場面でルフィだったらこう考えてこう行動するだろうな。って言葉にしなくても分かったりね。……で、あんたがやりたいようにやらせてやろうって考えるのよ。」

「あー、そうかあー。」

 それは感じることがあった。

「だから、あんたにとって相当居心地いいと思うのよね。ゾロの傍って。」

「う……ん」

 それは確かにそうだ。

 ただ、最後のナミの一言は。『だから』ゾロを好きだって思ってるんじゃないの?と言われたような気がした。

 本当の恋愛なんじゃ無く、傍にいると安定していられる関係だから、その居心地のよさを恋だと勘違いしてるんじゃないのか?と聞かれたような気がしたのだった。

 

 

 ウィスキーピークからビビが仲間になった。

 王女なのに気取らなくて言い奴だ。

 いろんなものを一人で背負っていて見ているのが辛くなるようなときもある。大切な仲間だ。守ってやりたいと思う。力になってやれればなと思う。…だけど…。

 ビビはゾロを『Mr.ブシドー』と呼ぶ。へんな呼び方だけど、ゾロが100人切りをしたのを間近で見ていたのだ。

 その腕前に対する尊敬だろう。

 そしてゾロはビビを王女と呼ぶ。勿論名前でも呼ぶけど、時々『王女』と呼ぶ。

 それが、何だか互いに近付きすぎてしまう二人の距離を無理やり引き剥がしているような気がするのだ。

 ナミには『あんた考えすぎ』といわれたけれど、そんなことは無いと思う。

 ゾロは相変わらずあんまりつかめない感じだけど、ビビの方は明らかにゾロを他のメンバーとは違く思っていると思う。

 

 

 チョッパーが仲間になって、もう一度きちんと怪我の具合を見てもらったゾロ。

 チョッパーの話だと、ゾロがこの頃いやに良く眠っているのは、怪我だらけで相当身体に負担がかかっているからだ。ということだった。

 短期間で治りきるはずもない怪我だらけの身体。動けるはずも無い身体で平気な顔をして動いてて、トレーニングまでしているから眠らないではいられないのだそうだ。

 相変わらずゾロが甲板でグーグー寝ているときに、食堂に集まってチョッパーからそう聞かされたとき俺は…俺達はちょっとゾッとした。

「とにかく本人が眠くて眠っている時には無理に起さないで寝かして置くようにしねーとな。」

 ウソップが少し呆れたように言った。

「そうね。まあ、気配には聡い奴だから起きなきゃいけないような時は起きるでしょ。」

 そうナミが言って、寝ているゾロは起さないという了解がなされた。

「食事は普通でいいのかねえ」

 とサンジ。

「うん。大丈夫。」

「見張りの交代はやってもらいましょうね。」

 にーっこりとナミが笑った。

「ゾロの怪我がDrクレハにばれないでよかったよ。あんな怪我を見てたら絶対に退院なんてさせてもらえないよ。」

「それって…良かったのかしら。」

 ビビが心配そうに言う。

「いいのよ、あんたは自分の心配してなさい。」

「ナミさん…。」

「少しでも早く行かなきゃいけないんでしょ。足止め喰らわなくて良かったじゃない。」

「え……それは…そうだけど……。」

「大丈夫。殺したって死にゃーしないわ。家ごと吹っ飛ばされたって、あいつ生きてたもの。」

「は?」

「おっ、懐かしーな。バギーの大砲喰らった時だな。」

 と、俺が話しに乗るとナミはビビを安心させるように続けた。

「そうよ。家が大破したのに『寝覚めが悪い』って瓦礫の中で起き上がったのよ!ゾンビかと思ったわよ、私は。」

「あはは、あったあった。」

「ね。分かった?本気で心配するだけ無駄よ。」

「………うん。」

 一応にっこり笑って頷いたビビ。

 けれど、それから時々。寝ているゾロの傍に行っては顔を覗き込んでみたり、目を覚ましたゾロと何か話していたりと。ゾロの傍にいるのを良く見かけるようになった。

「ビビにとってゾロが特別って言うのは、案外当たってるかもね。」

 そうナミが言ったくらいだ。

「ナミー。」

 つい情け無い声が出る。

「ゾロにとってビビが特別には見えないけど?」

「う………ん。そうかなあ。」

「こんなことであんたを喜ばせたか無いけど、ゾロにとって一番特別なのはあんたでしょ。」

「え、そう?」

「ほら、そこで目を輝かせない!」

 もう、と怒って行ってしまった。

 この頃ナミもちょっと怒りっぽくなっている。

 何かあったのかなあ? 体調はもう良いようなのに。

 

 

 

 

 

 

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