俺はいつも、許されてこの腕の中に居るんだと思った。 8
もう、疑ったり不安になったりしない。それはゾロに失礼だし、何より疲れる。
「だから、言ったろ?考えるなって。」
ある日、そう言ったら、笑ってゾロが言った。
「お前が、考えると碌なこと無いし。」
「何だと。」
言いながらもそうだよなと思う。
難しいことはどうせ分かんない。今まで直感で生きてきたんだから、これからもそうやって生きていくしかないんだ。
「大丈夫だ。お前の勘は当たるから。」
「…そうかな。」
「…まあ。考えて出した答えより正しいのは確かだ。」
「……う。…でも、そうかも。」
「良いんだよ。お前はお前のやりたいようにやれば。…多分それが海賊王への近道だ。」
「えー、そうかなあ。」
「『多分』って言ったろ。お前が海賊王になれる器なら、な。」
「うーん。」
「ま、なれるだろう。海賊王くれー。」
「うん。…で、そん時ゾロは世界一の剣豪だな。」
「まあな。」
「で、ナミは世界中の海図を完成させて、サンジはオールブルーを見つける。」
「ウソップは男の中の男か?無理そうだな。」
「あはは、チョッパーはなんだろう。ロビンは…歴史がどうとか言ってたな。」
「見事にバラバラだな。」
「本当だ。」
「…だから、いいんだろうな。」
優しくゾロが笑った。
「そうかな。」
「皆バラバラだけど、世界中を回って冒険をしなきゃ叶えられねーってのは一緒だ。」
「そっかー。そうだな。」
「だから、皆お前が必要なんだ。」
「俺?」
「『キャプテン』だろ。キャプテンが居なきゃ始まらないからな。お前がいっつも前を見て突っ走っていく後を俺達ゃ付いていくだけだ。」
「ゾロ…。」
そういつだって俺は俺の存在を許されてここに居る。
ゾロが腕を広げて、そのまんまで良いぞって言ってくれるから。
だから俺は俺でいられる。
そしてそんな俺を皆が必要としてくれているなら…。
『なれるだろう。海賊王くれー。』
…うん。本当にそうだ。
絶対に海賊王になる。皆と、ゾロと一緒に。
20060617UP
END
ゾロサイド
ルフィが俺のことを『好きだ』といったその日から。俺の受難は始まった。
昼といわず夜といわず、とにかく顔を合わせれば好きだと言いまくってくる。
他人の目も何も気にしやしない。
その奔放さを羨ましいとは思うが、言われる方にとっては全く迷惑な話だ。
そのうち血相変えて逃げ回るのも、バカバカしくなってきた。
本気なのは分かってる。 まあ、だから困るんだけど。
同じ船の上じゃ、逃げ切ろうったって無理だ。
適当にあしらってたら、煮詰まったらしく。無理矢理キスしてきた。
「何…しやがる。」
そう言って睨みつけた先にはらしくも無い、あいつの苦しそうな表情。…マジかよ。
こんなに好き勝手やってる奴でも、人を好きになりゃ相手の気持ちが気になるんだなあ。と変なことで感心する。
男に迫られて、迷惑してるのは俺の方なはずなのに。落ち込んだ顔を見ただけで俺が悪いことをしているような気分になる。
俺の一体どこがいいのか?
キス一つで浮上したルフィに苦笑いだ。
以来、さらにスキンシップが過激になってきたけど。まあ、俺にとっては『しょーがねーな』と許せる範囲内だった。
ビビが仲間になってしばらくした頃から。何を思い悩んでいるのか、ルフィの様子が変だった。
いつも愚痴をこぼしているらしいナミが具合が悪いうちは、そのせいもあるのかと思ったが、彼女の体調が回復してからもさらに辛そうだった。
何かあるなら言って来りゃいいのに。
そうは思うが、無理していつも通りを装っているルフィに『お前変だ』とも言えず。様子を見ているしかなかった。
俺が夜の見張り番のとき『眠れない』とやってきたルフィはいよいよ煮詰まっている風だった。
よし、今夜はじっくり話を聞いてやろう。そう思った矢先。
無理やり床に引き倒された。
「おい!」
人を襲うならもっと凶悪な顔してりゃいいのに。見上げた顔はただ辛そうで、責めたてられなくなる。
無理矢理脱がされ、突き立てられる。
痛みでどうにかなりそうだった。我慢しようにもし切れない声が何度漏れたか分からない。
ルフィがゴムだったからだろう、どこかが傷つくということは無かったが。
それでも当然だが苦しいことには変わりない。
多分思いっきり爪を立ててしまったと思う。
「ルフィ。」
呼びかけた声にまるで被害者のように怯える。
「何て顔してんだ。」
そういうとボロボロと泣き出した。
「本当にバカだなあ。お前は。」
好きだって言うなら、ここまで辛くなる前にもっと俺に頼ってくりゃいいのに。
さすがに男に襲われたショックは酒でもなきゃ紛らわすことが出来ず、朝まで飲み明かした。
そして、ナミに言われて気がついた自分の気持ち。
「キスされても嫌がらなかったって言うじゃない。」
何て事を言ってんだと思ったけど、確かに嫌じゃなかった。…正直嬉しくも無かったけど。
昨夜のだって多分他の奴らだったらさせなかった。
…それって?
男を好きなったんだとは認めたくは無かったけれど、ルフィの傍で強くなっていきたいと思う。
こいつが何をしでかすのかを見届けたいと思う。
それならば、今。二人の関係をハッキリさせておく必要はあると思った。
共に長く傍に居るなら、こんな宙ぶらりんのままでは良くない。
また、ルフィがらしくなくなってしまう。……そう考えてハッとした。
俺、ルフィのことしか考えていない。
何とか恋人にはならず、上手く丸め込んで収めてしまおうとはこれっぽっちも考えてなかった…。これって…。
抱きつかれもした。キスもした。とんでもない事もさっきされた。…なのに…。少なくとも嫌悪感を抱かなかった俺の気持ち…って…?
気付いてしまった自分の気持ちと。同時に沸き起こる様々な懸念。
ホモの海賊王なんて聞いたことがない。
それに、色々な島に寄るだろう。これから、どこかでいい女やいい男(この心配をしなけりゃならない辺りが情けないんだが)が居るかも。
そう言ったら、迷わず俺にキスしてきた。
良かったんだか、悪かったんだか。良く分からないけど、こうして俺達は恋人同士となった。
さすがに、自分からルフィをどうこうしようって気にはならなかった。
けど、好きなんだと自覚してしまった気持ちは止めることが出来なかった。
正直言ってクロコダイルの所へ一人で残すのは不安だった。けれど、これはあいつの戦いで。俺には俺の役目がある。
ルフィを信頼するのとは別の次元で湧き上がる不快なこの思いは辛いものがあった。
ルフィを好きになることで、俺は強くなれているだろうか?戦うことでしか確認できない。Mr.1との戦いで手ごたえはあった。
ただ、あいつが3日間。目を覚まさないのはさすがに堪えた。
夜。隣のベッドだったのでほとんど起きて付いていた。
自分がそういう気持ちになったことが信じられなかった。
自分より弱いものを庇うという気持ちはあった。けれど、ルフィは弱いわけじゃない。
その強さを認めるというのとはまた別の。愛おしいという気持ち。
この気持ちを知らなかったら『物の呼吸』なんて分からなかったかも。
ルフィと居ることで俺は強くなれる…?ルフィも、そうだったらいいと思った。
そういや、初めて会ったときに感じたっけ。
飯の種にとはじめた海賊狩り。まるでそれが生業のようにいわれ、自分の目的を見失いかけていた時にルフィが現れた。
あの日会えた事を感謝しているのは俺だって同じだ。
そういう自分の価値を良く分かっていないところがおかしい。
何で不安になるんだ?分かんねーな。
でも、良く考えてみると、あいつが悩むって俺がらみなんだよなあ。
一体。俺の何があいつを不安にさせるんだろうか?
どうしてもあいつを抱けないことだろうか?さすがにそれは勘弁して欲しいんだが…。
それでも自分では随分と拘りが無くなった方だと思う。
初めて俺の方からキスをした。
それだけで嬉しそうだった。(…まあその後、逆に押し倒されたのは置いておくとして…)
二人で居ることで、共に強くなれるのなら、こういう関係もありなんじゃないかと今ではちょっと思ったりする。
ルフィに言わせりゃ『好きになっちゃったもんはしょーがないじゃん』って事で、さすがに俺も他に言い様がなくて『そうだよな』と頷くだけだ。
俺が傍にいることでルフィがルフィらしく居られるんなら、ずっと二人で居ればいいさ。
お互いに野望を果たすまで。
そしてその後もずっと。
20060620UP
END
終わりです。ありがとうございました。