rhapsodie -- fantasia


「先日、負傷していたところを土方副長と沖田一番隊長に保護していただきました」

そうして続けられた言葉は、まさしく事実であった。けれどそれは、近藤や土方たちが、敢えて口にしなかった事実でもあった。声を発することなくを見ていた土方は眉をひそめる。の隣にいる近藤も、何か言いたげに口を開きかけた。けれどそんな彼らの様子を黙殺して、は言葉を続ける。

「局長が私を立てて剣客と呼んでくださいましたが、実際には方々との兼ね合いのため、怪我が治るまで置いていただく立場です」

どうぞ私にはお気兼ねなく過ごしていただければ。そうやって続けられた言葉に、隊士たちはそれまでの警戒を薄らと和らげる。は怪我人であり、近藤がそんなを立てて剣客とした、そう理解した大半の隊士たちから、なんだそういうことか、それならばゆっくりしていくといい、なんて言葉が口々に零れる。一方、頭の切れる隊士たちは、方々との兼ね合い、という言葉に、相も変わらず疑いの眼差しを解くことはしなかった。そんな彼らの様子を見渡して、それでいい、とは内心で頷く。そんなうちに今度こそ終わった会合に、それぞれに言葉を交わしながら部屋を出ていく隊士たちの中で、に砕けた声がかかった。

「わざわざあんなこと言う必要があったんですかィ」

決して大きくはない、独特のイントネーションでかけられた声に、は総悟へと視線を向ける。なにが?と平坦な声色のままで返したに、総悟もまた表情を変えないままで返す。

「あんた、舐められたも同然ですぜ」

言われた意味はもちろんもわかっていた。それを告げた途端、上からの目線のものへと変わった対応。それでいいのかと問いかけるのは、総悟だけではなく、そのやや後ろで厳しい目をに向ける土方もまた同様であった。そんな彼らに、は薄らと口元を上げる。

「本当のことだ。それに・・・」

彼らへと向ける言葉を途中で区切って、は視線を襖のほうへと視線を向ける。今まさに出て行こうとしている集団たちには、見覚えのある顔も多い。そんな見慣れた顔の隊士たちから向けられる、慣れない視線には目を瞑っていくしかないのだ。それよりも優先すべきものが、ここにはあるのだから。

「・・・不満の芽は少しでも摘んでおくほうがいい」

隊士たちの一角を一瞥してそう言葉を落としたに、土方は目を細めた。
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