rhapsodie -- scherzo


顔を上げた、そこにいたのは、やはりにとっての“彼”に似た人であった。久しく見ていなかった、見られなくなってしまった“彼”の姿が、目の前にいる男と重なってぶれてゆく。胸の奥から湧きあがってくる感情をひたすらに押し殺して、は近藤と視線を合わせた。

「話は聞いた。だったな」
「・・・・・・は、」
「行くあてがないのなら、この屯所に入ればいい」

汚い男所帯だが、なに、住めば都とも言うしな、とおおらかに笑う近藤に、は彼へと向けていた視線を、す、と下げる。合わせていられなくなった、という方が正しいかもしれない。目の前にいる男の瞳が、そこに宿る光が、あまりにもあの人と重なって、はどうしたらいいのかわからなかった。あの人は、近藤さんは、死んだのだ。自分たちは、自分は、あの人を守ることが出来なかった。その事実は決して変わらないのに、消えはしないのに、目の前にいる男は、まるで彼のように、またも自分に笑いかける。、と、そう呼ぶ声は、その目は、まるであの頃と同じように、自分を捉えていく。だめだ、だめだ ――― そう言い聞かせても、強く握った拳の震えが止まらない。

「・・・有難い事ですが、それは、」
「よし、そうと決まれば部屋を準備しますかねィ」
「ちょうどいいな、医者が来たか」

そうして感情を押し殺した声で断りの文言を告げようとしたの声に、沖田と土方の声が重なった。その言葉通り、障子の奥には2つの人影が見える。おそらくは先ほど出て行った山崎と彼が連れてきた医師であろう。彼らを部屋に迎えいれるべく立ち上がった土方と沖田を止めようと、が声を発する。けれどそんなを止めたのは、近藤が呼んだの名前だった。反射のように止まったの身体を、土方が一瞥する。そうしてがらりと開いた障子の向こうには、やはり山崎と、立ち上がり着物を赤く染めたに眉を寄せる医師の姿があった。けれどその姿はの視界に入るだけであって、その意識は近藤の声へと傾いたまま。

「困ったときはお互い様と言うだろう。それに ―――

土方にも沖田にも、近藤のこの判断はわかりきっていたものだった。自分たちでさえ、何かしらの感情を覚えたという男を、近藤が切り捨てるはずがない。そしてその予想は、まさにその通りであった。近藤から発せられる言葉に、近藤の笑顔と、あの人の笑顔と、声と、思い出とが混ざりあって、は顔を歪めて唇をかむ。そんなの頭に乗った手に、瞳から溢れるものを止めることは出来なかった。

「どうも、お前のことを他人だとは思えないんだ」
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