rhapsodie -- scherzo
近藤さん、と思わずは内心で呟いた。心の中でも、それは小さな声だった。近藤に続いて、総悟が部屋に入り障子を閉める。そんな2人に、土方が近寄った。そうしてそこに出来た3人の姿は、にとって、これ以上ないほどに望んだものだった。近藤さんと、土方さんと、総司さんが、3人で、笑いあって。戊辰戦争の間、何度その光景を夢見ただろう。何度、嘆いただろう。その光景が、今、眼前に広がっている。しかもそれが ――― 赤の他人だという、彼らによって。
「・・・い、 ―― おい!」
ふ、と、はかけられた声に意識を戻した。思わず、思考に浸かってしまったらしい。そんなを何か言いたげに見ながらも、近藤さん、こいつだ、と土方は近藤にを示した。がぼうっとしていた間にも、土方がこの状況を、そしてのことを説明したのだろう。そうして、近藤の視線がとぶつかる。その瞬間、の頬を涙が伝った。それに対して驚きを持ったのは近藤も、そして自身もである。けれど近藤の驚く様子に、の頭は冷静になる。それは、この短い時間に何人かに対して同じ状況を経験したからかもしれない。 ――― この人は、近藤さんではないのだ。
「・・見苦しい姿を、御見せしました」
そう言って、が畳に腰を下ろす。凛とした姿勢を持って頭を下げれば、見えなくなった彼らの姿に、の頭が覚めた。代わりに浮かんだ、にとって“本当の”彼らの姿に、ぐっと唇を噛みしめる。そうして、そちらのお二方に助けていただきました、と口を開いた。“彼ら”に今更名前を伝える必要などない。けれど、彼らは“彼ら”ではないのだ。
「 ―― と、申します」
口にした声は、それこそ私情が入る隙間もないほどに硬く、また儀礼的であった。その声に、先ほどまでの様子を知っている土方と総悟が眉を寄せる。そして今初めての姿を見た近藤は、その足をの元へと進めた。それでもは反応を示すことはなく、ただただ頭を下げ、視線を畳へと向かわせる。そうして近い距離になった近藤が、に向かって声をかけた。
「頭を上げてくれ」
その声の温かさに、区別しようとしている“彼”と彼がまた混ざっていく。それでもなんとかその感情を押し留めて、彼に向かっては顔を上げた。