rhapsodie -- scherzo
近藤さん、と。そう口にした土方の言葉に、の体が見るからに強張った。近藤さん。そう言われて思い浮かぶ人など、にとって多くはない。彼と、そして彼の家族だ。そして、その一番に思い浮かぶ彼は、もういない。守れなかった、大切な人。部屋を出て近藤を呼びにいく総悟の姿を見送りながら、土方の声で形作られた近藤の名前に、の口が自然と開いた。
「・・近藤さんも、ここにいるのか?」
「当たり前ェだろ」
感情の籠らないままに放たれた問いに、土方がさも当然のことのように答える。やはり名前を聞いただけでわかったらしいに、視線は向けなかった。今までの反応を見るに、の新撰組がなくなってしまっているのだろうことは、土方も感じていた。そして、ならば隊長もおそらく、ということもまた。実際にその立場に立たずとも、そんな状況でそんな人と瓜二つらしい姿を見ることの辛さは、足らずとも想像出来る。そうは思いつつも、をどうするにしても隊長の許可がなければ何ともできない、と副長の立場から土方は考えた。あんな隊長であっても、そして返答が予想出来たとしても、だ。
「そうか。・・・ ――― そう、だな」
先ほどの問いかけとは対照的に、殺しきれない感情を滲ませた声でが呟く。そうだ。いて、当たり前なのだ。近藤さんも、特に政局が混乱してからはよく屯所を空けはしたけれど、基本的には常に隊と共に有った。それこそまだ落ち着いていたうちは、屯所でよくくだらないことをしたものだった。年の離れた兄や、時には父親のようにして、怒ったり、褒めたりしてくれた、温かい人。守れなかった、切腹すらさせてあげられなかった、自分の師匠。ぐ、と拳を握ったを、先ほどの声に思わず視線を向けた土方が見やった。そんなうちにも、とんとんと近づいてきた足音に、自然と俯いていた土方との視線が上がる。そうして、障子が開いた。
「トシ、なんだ?」
そうやって入ってきた姿に、は耐えるように眉を寄せた。