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「・・・あ、ちょっと待った」 「え?」 ホグワーツの廊下を歩いていたところで突然かけられた声に、わたしは反射的に立ち止まった。冬の始まりを感じさせるようになった外は、昨夜振った初雪のせいかしんと静まっていて、そのせいかホグワーツもなんとなく静かな気がする。雪って、音を吸い込むらしい。だからかどうか、静かな校内で呼ばれた声は鮮明だったはずなんだけど、後ろを振り返ってみても誰もいない。・・・・・・今のは、空耳?それとも、ゴースト? (たしか、空耳って縁起が悪いんだよね・・・) What made in winter
01. The first contact was such the one.
「こっちだよ、こっち」 再度聞こえた声は突然じゃなかったから、声は横から聞こえたんだとわかって横を向けた。そうしたら、見たことがある、3人。いや、というか、さすがにもう6年目になればホグワーツ生ならみんな見覚えがある人になるはずなんだけど。 とりあえず、1人は、グリフィンドールのリーマス・ルーピンだった。何で知ってるかって、この間の合同授業でペアを組んだからなんだけどね!(ルーピンファンの子に恨めしそうな眼で見られたあの授業だ・・)あとの2人も、ネクタイを見たところグリフィンドール。・・・あぁ、そうだ!唐突に思い出した。そう、彼らはグリフィンドールの、ジェームズ・ポッターと、シリウス・ブラック!とっても有名な、あの、お方たちでいらっしゃる!(ファンクラブもあるんだって!)(実際に見ると確かにかっこいいな!) でも、このお方たちについて聞くのはいいことばっかりじゃない。得に、ポッターとブラックについては。かっこよくて(ブラックはホグワーツ1の美男子だって話!)(ちょっとこれは、こんな近くで見ちゃうと、納得かも、しれない・・・!)頭もよくて(ポッターはなんたって来年の主席最有力だし!)(その脳みそを少しでいいからわけてほしいです・・・!)点数を稼いでるらしいんだけど、悪戯好きでいつも怒られて点数を減らされてて、結局プラマイ0だとかなんとかって。(結構、性格が・・・その、よくはないらしい) にしたって、そんなお方たちが、こんな人気のない廊下でいったい何を? 「悪いけど、こっちから行ってくれる?」 「・・・え?」 「ごめん、ここ今通ると危ないんだ」 そのどうにもわからない言葉に、わたしは小さく首をかしげた。だって、わたしは何の用事もなくここを通っているわけじゃないのに、そんなこと言われたって。そもそもここって、そんなに危険な廊下だっけ?そんな私に、ルーピンが苦笑してフォローのように優しく言った。納得がいくわけではないけれど、その苦笑にはなぜか否定することは出来ない。なんたって監督生だし、この前の授業でもルーピンは本当にいい人だった。(魔法薬学で間違って爆発しかけたのに、責めるどころか慰めてくれたんだよ!感激!)(でもそのせいでまたあの子には恨めしそうにされたけど・・・許して!)しょうがないから頷いて、ポッターが示した道を行くことにして、わたしはそのままそこを通りすぎようとした。(いい子の知恵そのいち!危ない人に逆らってはいけません) 「・・・あ、オイ」 なのに、そのお方たちを越えたところでまた声をかけられて、やっぱりどうしても反射的に立ち止まった。今の声はブラックだったみたいで、そのまま振り返ったら一番近くにいたブラックが一歩わたしのほうに足を進める。なんでか、ぼうっとしてしまった。 「・・なに?」 「コレ、落ちた」 ブラックはその長い体を曲げて、ひらりと一枚の紙をすくった。かっこいい人はそんな動作ですら絵になるらしいと半ば関心しながらも、ブラックが拾ったその紙を見て、え、と思って自分の手元を見ると、教科書の上にあったはずの羊皮紙がなくなっていた。・・・ということはつまり、それはわたしのだ。うわぁ、ちょっとそれは危なかった。せっかく途中まで書いた魔法史のレポートが・・・!わたしが慌てて顔を上げると、そこにはわたしよりも随分高い位置にブラックの顔があった。本当に、綺麗な人だ。今なら彼のファンの友人の気持ちがわかるかもしれない。(でもさすがにファンクラブに入る勇気はない・・)思わずじっと見ていたら、ブラックが少し眉を寄せて「いらないのか」と聞いた。いや、そんなわけがない!わたしがそのレポートにどのくらい時間を割いていると思ってるの!すぐに手を出せば、ピラと音を立てて羊皮紙が返された。 「ありがとう」 差し出された羊皮紙を受け取って、お礼を言う。だってこれ、なくしたら私のあの何時間かが・・・!本気でホッとしながらポッターの言葉通りの廊下を軽い足取りで歩いていたら、突然、後ろから驚いたような声と、楽しむような歓声が上がった。楽しんでいる声は、たぶん、さっきまで聞いていたあのお方たちの声だと思う。驚いたような声は、・・誰だったっけ、この声。よくわかんないけど、確実に聞き覚えのある声。ついでに言っちゃえば、それはどう聞いたって喜んでいる驚きじゃない。その声たちに思わず首を傾げていたら、わたしの脳みそはある重要事項をたたき出した。『グリフィンドールのポッター、ブラック、ルーピンは悪戯好きで、有名。』そう、彼らは悪戯が好きで、よく悪戯を仕掛けてはおこられてて、つまり今回もそういうことなんじゃないの?そう納得したら、芋づる式にある考えが浮かんできて、わたしはさっきブラックから渡された紙を恐る恐る手に取った。・・・・見たところ、何も仕掛けられてはいない。たぶん、きっと。危ないって、そういうことだったんだ。 「・・・うわ・・・」 ホントに、下手したらあの驚く立場はわたしだったかもしれなかったわけで。そう考えると、外で降っている雪のような寒さだけではないもので少し寒気がした。 「・・・なぁ、さっきのやつ、何て言ったっけ?」 スネイプへの悪戯が終わってのグリフィンドールの談話室。人もまばらな中、シリウスがコーヒーを片手にポツリと呟いた。外の白とは対照的に、暖炉の火がぼうぼうと燃える。 「さっきの?」 「スネイプに仕掛ける前にあった女。」 見たことがあるやつではあった。たしか ――― ネクタイは青と金だった気がする。レイブンクローか?言ってからいろいろと思い返すシリウスに、あぁ、とリーマスがホットココアを飲みながら口を開く。 「だろう?・。レイブンクローの同級生だよ」 「ふーん・・って、何で知ってんだよ?」 あぁ、やっぱりレイブンクローか。そう思いながらリーマスの言葉に相槌を返しながら、その言葉を言ったのがジェームズではなくリーマスだったことにシリウスが気づく。リーマスは、基本的に人との関わりが多いほうではない。その彼が他寮の、それも女生徒を知っていたことに驚くシリウスに、リーマスはにこりと笑う。 「この前の合同授業で組んだんだよ。」 「どうしたんだい?シリウス。君が女の子の名前を聞くなんて」 リーマスの答えの後で、面白そうな笑みを浮かべてジェームズがシリウスに詰め寄る。彼は女生徒にとてもモテるけれど、自分から交流を持とうとはしない。そんなシリウスが女の子についての情報を求めたことにニヤニヤと笑うジェームズに、シリウスは交わすようにひらひらと手を振った。 「別に。何もねぇよ」 始まりは、ある冬の日のこと。 |