朝の大広間。グリフィンドールの男子寮からやってきた俺たち。4つの長テーブルに並べられた朝食。これはいつもの光景だ。なのに何か、確実になにかが違って俺は思わず眉を寄せる。何かがない。足りない。

「シリウス?どうしたんだい?」
「いや・・・・」

俺の様子に気づいたらしいジェームズが俺に声をかけてくるけど、自分でもなにが違うんだかわからないから曖昧に声を返した。なにが足りない?どうにもしっくりこない気持ちのなかで、レイブンクローのテーブルから視線をはずしてグリフィンドールのテーブルへと向かう。途中、窓の外で雪の塊が落ちるのが見えた。




What made in winter
02. Is this feeling ... ?






「おはよう」
「あぁ、おはようリリー!」
「おはよう」
「・・・よう」

グリフィンドールのテーブルについて、俺たちはいつものように朝食を前にした。隣にジェームズ、正面にリーマス。斜めにピーターが座る。これだって、いつもどおりだ。俺がトーストを手にしたところで、リリーの声がかかった。こんなふうに会話をするようになったのは、言ってしまえばつい最近だ。なぜかっつったら、ジェームズがリリーに好意をもっているからっていうのが挙げられる(それも、かなりあからさまな)。リリーに言わせれば俺たちが大人になったからだということだが、いまいちよくわかんねぇからそのへんは不問にしておく。とりあえず気分がどうにもあがらなくてそのままに声を返すと、またジェームズが声をかけてきた。

「シリウス、本当にどうしたんだ?」

ジェームズは俺を覗き込みながら「朝は普通だったじゃないか」と言った。たしかに、朝起きてここに来るまではいつもと変わりなかった。それは自分でもわかってる。でもここに来て何に対してこんなに気分が下がってんのかと聞かれたら答えられない。ただ、なにかがない。それがたまらなく気に喰わない。もう一度確認するようにレイブンクローのテーブルを見ても、やっぱりいない。・・・・いない?なにが?だれがだ? ――― あぁそうだ、あいつだ。そう思うと同時に俺は大広間のドアへと目をやった。

「あっちになにかあるのかい?」

俺の目線を追ったらしいリーマスが不思議そうに言う。その言葉に、俺は少し詰まる。あいつがいないのが妙に落ち着かない、だなんて言えるわけがない。だいたいなんでそう思うのかもわかんねぇのに。ドア付近にも、あいつの姿はない。それを確認してから「別に」と俺がトーストを食おうとしたときに、隣のレイブンクローのテーブルからそこまで大きくはない声が聞こえた。(大きくないはずなのに、妙にはっきり聞こえた気がするのはなんでだ?)

!」

思わず、ドアを見る。そうしたら、そこにはレイブンクローのネクタイをつけた2人の男女がいた。眠そうな顔のと、その腕を引くレイブンクローの監督生の。リーマスが監督生をしている関係で、何回か話したことはある。よく、と一緒にいるのを見るから仲はいいんだろう。(ムカつく)(・・・なんでかなんてわかんねぇけど)

「あぁ、悪ぃ!、お前もいい加減目覚ませって!」
「・・・・、歩くの早いってば・・・」

よろよろと歩くはかわいいと、思う。なにがっつーよりは、全体的に。けど、同時に心臓をグッと鷲掴みにされたような、そんな気がする。なんでが、なんかに腕を引かれてんだよ?(・・・痛ェ。)思わず俺がを睨むと、ふとジェームズの顔が視界に入った。不自然なくらいに、ニヤけている。

「なるほどねぇ」
「前は、別に、なんて言ってたのにね」

ジェームズに、リーマスが続いた。正面を向けば、リーマスまでもがにっこりと笑っている。意味がわからない。

「・・・なんだよ?」
「いや、とうとうシリウスにも春が来たのかと思ってね」
「は?」

にっこりと胡散臭そうな笑顔でジェームズが言う。なにが言いたいんだこいつ。そのジェームズに便乗して、リーマスと、そしてなんでかピーターとリリーもにこりと微笑んだ。だから、なんだってんだ。

「恋をするのはいいことだよ、シリウス。きみにとっては特にね」
「それに、はいい子だもの」

いつものような、からかった口調じゃなく、至極まともに言った親友たちに、俺は思わず目を見開いた。「大人になったじゃないか、シリウス!今日はパーティを開こうか!」なんて言葉が聞こえるけれど、そんなことにかまっていられる状態じゃない。

「・・・・・恋・・?」

なにが?だれが?だれに?わからない。でも、一度口にしたらその気持ちがストンと落ち着いてしまって、俺は思わず口元を押さえた。それはつまり、あれから、目で追っていたのはなんとなくではなくて。なんだかんだでいつも彼女を探していたのは、なんとなくではなくて。つまり、つまり。
俺は、が、好きなのか?
そう思ってしまったら、それはとまらなくなって、あぁそうか、そうだったんだ、俺は、あいつが好きなんだ。そうやって納得してしまった。そのままにレイブンクローのテーブルへと向けた視線に入ったは笑っていた。いつもの笑顔だ。

その笑顔を俺だけに向けて欲しいなんて思ってる俺は、きっと、彼女に恋をしている。





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