出会い編 1


ふわり 地面に降り立った。ざわめきだっている同級生たちの中で見上げた現世の空は良く晴れていて、その青さに日番谷は目を細める。今日は魂葬の実習だった。一年一組 ――― そんな分類の中に入る日番谷は、もう何度かこの実習を経験していた。しかし、こんなにも日番谷と同じ一回生がざわめいているのは他でもない。それは、今日が六回生との合同授業だからだ。

ふと霊圧を感じて、日番谷は視線を上げた。そこには先ほど自分たちが通ってきたのと同じ、解錠の扉が出来ていて、そこにいた自分達より ――― 少なくとも、他の一回生よりは確実に威圧感のある上級生を、日番谷は別段何をするでもなく見上げた。

「お・・・おはようございますっ」

一回生の1人が、その雰囲気に飲まれていたことにハッとして、上擦った声で挨拶をする。それを機に、他の一回生たちも挨拶をしだした。日番谷も、軽く頭を下げる。
別に上級生が嫌いなわけではないし、上級生というだけの経験と実力があるということも認めている。けれど日番谷は、合同授業というもの自体が、好きではなかった。上級生は苦手だ ――― というよりも、ジロジロと寄せられる好奇の目が好きではないのだ。入学からしばらく経ったこのころには、すでに日番谷の名前は天才児として学院中に知られていた。
今回のこの実習では、上級の六回生と一回生がペアを組むことになっていた。それは席次順に決められることになっていて、つまり一回生の筆頭である日番谷とペアを組むのは、六回生の筆頭だということだ。
六回生の筆頭のことを、日番谷は知っていた。とは言っても、それがという名前の、女傑だということ。まだ卒業前の現段階で、既に護廷十三隊への入隊が決定しているということ。そして、真央霊術院を飛び級で卒業しようとしているということ。その程度のことではあったが、あまり周りに関心のない自分が知っているということは、相当に有名な人物なのだろう。
彼女が学院に入ったのは、今から3年前。そして6年分のカリキュラムを2倍の速さで習得して、今、六回生の筆頭でいるという女。そんな上級生がいるのなら、この目で見てみたいと思った。会ってみたいと思った。


「きみが、日番谷君・・・かな?」


突然後ろからかかった、女性というのには足りない少女の声。その声に振り返ったみれば、そこには比較的小柄ではあるけれど、確かに日番谷よりも身長の高い女が立っていた。

「・・・・・・、そうです」
「そっか。初めまして、です。きみとペアを組むことになってるの。今日はよろしくね」

まっすぐに自分を見ながら、言いづらそうに敬語を使う下級生の姿ににこやかに笑って挨拶をして、日番谷が考えていた当の本人、が手を差し出す。その手もまた、決して大きなものではない。

「・・・日番谷です。よろしく」

そうやって形式的に出された自分よりも少しだけ小さい手に、は内心でとっつきにくそうな子だと小さく苦笑を浮かべた。けれど、結局は今回限りの付き合いなのだから、穏便に済ませるほかはないと、そう考えて笑顔を消すことはしなかった。とて、1回生の今から天才児と言われているこの少年に興味や好奇心がないといえばそれは嘘になる。なんといっても、有名なのだ。彼は。まだまだ子どもらしい顔立ちと、透き通る銀。機会があるなら ―― このような、実習などではない機会があったとしたら ―― ちゃんと話してみたいという気持ちはある。けれど、面倒な事態になりそうなことには、極力かかわらないほうがいい。それはこうやって飛び級をしてくるなかで、否が応にも知ったことだった。



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