出会い編 5


「・・・、・・・?」

無意識に出た声は掠れていて、声というよりは寧ろ息のようだった。その声を出したのが自分だと理解して、は小さく眉を寄せる。すると、それから一拍あけたかあけないかのうちに、顔の前に顔が飛び出してきた。

「あぁ、目が覚めたのね!」

よかった、と顔に書いてある ―― 死覇装を着ているから、きっと死神だろう ―― 人に目をやると、その人は、報告しなきゃ、と急いでこの部屋を出ていった。また静かになったこの部屋の天井を数分見つめて、あぁ、とは内心で頷いた。
巨大虚にやられたのか、と。
たしか、覚悟はしたはずだった。覚悟というには、あまりに綺麗すぎるかもしれない。ただ、これは死ぬだろうな、とは思った。けれどきっと、生きているのだろう。そして、思う。たちは大丈夫なのだろうか。そして、日番谷君は。日番谷君なんて特に、大丈夫じゃなかったら自分がこうなった意味がないじゃないか、と。


「目が覚めたのですね。」


ぐるぐると回るの思考をとめるように、ふわりとよく響いた声に、はまだはっきりと働かない頭をわずかに動かして、部屋の入り口に目をやる。そして、そこにいた人物に目を見開いた。

「・・・・卯ノ花、四番隊長・・?」

小さく掠れて、けれどなんとか言葉としてなりたった声に、卯ノ花はにこりと笑った。はといえば、突然現れた隊長格のその人に、ただ呆然と視線を送るばかりで。寝台へと歩いてくる卯ノ花に、漸くハッとして体を起こそうとすれば、体に鋭い痛みが響いた。 ――― そうだ、あれだけはっきりと貫かれたのだから、痛みがないわけは、ない。

「ダメですよ、寝ていなさい。貴女は怪我人なのですから。」
「・・・申し訳ありません」

小さく頭を下げて、また寝台に横になる。そうすれば感じていた痛みは和らいでいって、それでもじんじんと継続的にうずく痛みは、死んだと思った頭に生きてるんだと感じさせた。夢だとしたら、あまりにリアルな痛み。

「3日間、ずっと眠っていたのですよ」
「・・・3日間・・ですか?」
「えぇ。無茶をしましたね。」

諌めるように言う卯ノ花になんと言っていいものかと思って、はもう一度、申し訳ありません、と呟いた。この人からは、なんというか ――― 穏やかであるのに、それでも絶大ななにかを感じる。それもそうだ、相手は隊長格。そんな人との接触は二度目だ。彼らは特に何をしているわけでもないのに、隊長格は別格だと思わせるには十分で。そんなことを思うに対して卯ノ花はにこりと笑って、けれど、よく頑張りましたね、と付け足した。

「貴女がいなかったら、もっと被害は拡大していたでしょう」

卯ノ花のその言葉の、被害、という単語に、は一気に頭が冴えたような気がした。被害。それは確実に、なにかの害は発生したということ。全員が無事というわけではない、ということだ。今まで卯ノ花隊長というイレギュラーに気をとられていたけれど、みんなはどうなったのだ。そして、彼は。

「あ、の・・・みんなは・・・」
「心配は要りません、怪我を負った者もいますが、大事にはいたりませんよ。一番の重傷は貴女です。」
「・・・そう、ですか」

卯ノ花の言葉に、それなら良かったと、そんな気持ちでいっぱいになった。まぁ、確かに自分はこんなことになったけれど       言ってしまえばこれは自業自得だ。それに、とりあえず自分は生きている。小さく、安堵の息が漏れた。それを見て、卯ノ花は笑みを浮かべる。

卯ノ花とて、のことは知っていた。学院を飛び級中の、護廷入団が決まっている六回生。志波海燕らのように隊長格昇進を期待されている彼女は、能力から言って四番隊向きではないのだけれど、それでも学院で有名な彼女は、隊長格の中でも名前が知られていて、確か彼女の入隊が決まった隊の隊長は、もう本人に会ったと言っていた。
だからこそ、このことは、結構な騒ぎになっていた。有望株の少女が、巨大虚と戦って重傷だ、と。そして同時に、院生でありながら巨大虚と対等に戦ったそうだ、と。けれど、四番隊の隊長である卯ノ花は、有望株の死神見習いを案じる死神たちよりも、自分を庇って怪我を負った六回生を心配している院生を知っていた。

「銀髪の少年が、貴女をとても心配していましたよ。」

今日は良い天気ですね、なんてことのようにあっさりと、まるで解りきっていることをいうように言った卯ノ花の言葉に、がその人物を理解して、それから苦笑を浮かべた。生意気そうで、とっつきにくそうな彼だったけれど、きっと気に病んでいるんだろう。どうするかな、なんて思うに、卯ノ花はふわりと笑って言い放つ。

あぁ、今日も足音が聞こえてきましたね、と。



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