出会い編 6


中から、声が聞こえた。ドクン と、心臓がはねた。
日番谷が押した扉が、キィと音を立てて開く。中に見えたのは、四という数字を背負った人。その人影で寝台に寝ているは日番谷の目には見えない。けれどこの人がここにいるのを見るのは初めてだった。まさか、なんて、嫌な考えが頭をよぎる。

「・・・・・・・卯ノ花四番隊長」
「こんにちは。今日もいらしたのですね」

その多大な霊圧に押されかけながらも、声をかける。この人の霊圧は、厳しいものではない。 ――― 大きいものには違いないけれど。それも、重傷の院生がいることでの配慮だろうかと思って、けれどにこやかなその様子が腑に落ちない。そうして、きっと無意識に日番谷が眉を寄せれば、卯ノ花はにこりと笑った。

さんは、目が覚めましたよ」

――― え?、と。
そう、無意識に、声を出したのかもしれない。

「・・・・・日番谷君?」

卯ノ花の奥から、日番谷の耳へと声が届いた。3日前、初めて聞いた声。彼女の姿が見えるわけでもないし、彼女の声をしっかり覚えているわけではない。けれど、この声の主など、わかりきっていた。

「・・・・・・」

ふと、自分が息を吐いたのを日番谷は感じた。安堵の息だろうか。たしかにこの3日、ここに来ては、自責の念に駆られてはいたけれど。こんなにも、切羽詰っていたのだろうか。たしかに、この3日間、ずっとあの背中が それから、あの鮮やかな紅が フラッシュバックしていたけれど。そう日番谷が考えたとき、卯ノ花がそっとに日番谷に向けていた目をに向けた。

「では、私はこれで。まだ安静ですからね。」

顔は見えないけれど、きっと笑って言ったのだろうと日番谷は思った。それから踵を返して、卯ノ花日番谷が立つ入り口へと足を向ける。少し体を引いて、日番谷は小さく頭を下げた。それに対してふわりと笑って、卯ノ花は思いつめすぎてはいけませんよ と声をかける。卯ノ花は、3日間、毎日 日番谷が ――― 庇われた、という少年が、の元へ来ているのを知っていた。そんな彼にこの四番隊の救護詰所に入れるように許可を出したのは、他でもない卯ノ花だった。この治療室を出て行く卯ノ花の姿を目で追ってから、日番谷が、ゆっくり ――― 本当にゆっくりと、へ顔を向けた。
ようやく見えたその顔はまだ白いけれど、それでも血に濡れていたときよりは、一昨日来たときよりは、昨日来たときよりも、明るい。彼女がちゃんと助かった、ということだ。今更にそれを感じて、日番谷は、自分が詰めていた息をはくのを感じた。けれどなぜか、そこからの一歩が踏み出せなくて、日番谷はじっとの顔を見た。ここにきて、本当に今更だけれど ――― なにをすればいいかなんてわからない。そんな自分に、日番谷は思う。

何をやっているんだ、俺は、と。

何のために毎日ここへ来ていた?
俺を庇って、あんな重傷を負ったを見舞うためだ。彼女が生きているか、確かめるためだ

何故こんなにも安心している自分がいる?
その傷は俺を庇ったもので、庇わなければしなかった傷だからだ。彼女が、生きているからだ。

なら、俺がしなければならないことは?
そんなの、決まってるじゃねぇか。


「・・・・えぇと、ごめん、入ってもらっていい?」

ちょっと声出しにくくて と、苦笑するように付け足して、が日番谷を呼んだ。この空気を壊すために。今 ああして困っている後輩を促すために。からすれば、この怪我は彼のせいではないのだけれど ―― だって、あの巨大虚の前に立ったのはあくまでも自分で、誰にやらされたわけでもない ―― そう言っても彼の気持ちを切り替えさせることはできないだろう。だったらこういうときは、すべて吐き出させるのが一番、ということになるのだろう。
そんなに、きっと自分を気遣っただろうことがわかって、あぁまた庇われた、と日番谷は思う。そう思いながら、動かずにいた足を、それでも治療室へと進めた。

なんのために?
そんなの決まってる。

彼女に、礼を言うためだ。



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