出会い編 7


「・・・・・・みんなは?」

日番谷が部屋へと入って、早数分。ずっと続いた沈黙の中で、が口を開いた。そんな迷子の子猫のような目をしなくてもいいのに なんて思いながら。

「・・特に、どうってことはない。どいつも怪我とか、軽かったし」
「そっか」
「あぁ。」

そうして、また続く沈黙。それに、は内心で溜め息をはく。治療室に入ってもらったけれど、自分はそこまで人を慰めるのがうまくない。 ――― というか、そういう行為自体、しなれていない。そんなことをする相手はいなかったし、むしろ自分はその原因を作るほう、だった。 ――― それは、今回も同じだ。そう思って、は苦笑する。本当に、上手くいかない。こういうときは、何て声をかけても、逆効果になることが多いと ―― 知りたかったわけではないけれど ―― は経験で知っていた。けれど、このままでいたって何も変わらないことは予想がつく。それを思って、はひとつ息を吐いた。

「・・・日番谷君は?」

そうやってひとつ心を決めて、が言葉をつむいだ。その言葉に、日番谷は一瞬ぴくりと反応して、それから、眉間にしわを寄せた。一回口を開こうとして、開いて、けれど声を出す前に閉じる。言わなければいけない、と日番谷は思う。けれど、何て言い出せばいい?日番谷にとって、人に対して礼を言うという行為はなれていない。さらに、男女差別をするつもりはないが、相手は女で。そして、怪我をさせてしまったのも、女であるで。

「・・・・軽い怪我だけだ」

結局は質問の答えを返すだけで、それだけなのに少なくはない時間がかかった。こんな調子で本当に礼なんていえるのかと、日番谷自身の中でも ―― 言わなければいけないことに違いはないけれど ―― 不安が生じてくる。けれど、それに対してが笑った。

「そっか。ならよかった。」

それだったら、あの場にたった意味がある。あの状態で、不意を突かれて巨大虚に襲われていたら、少なくとも軽い怪我ではすまないだろう。それこそ、命だってあるかわからない。そういう意味では、わかっていてやられた自分のほうが命の危険は少なかった、と思う。それを思って、笑顔で頷くその様子に、今まで開こうとしなかった日番谷の口が開いた。それも、簡単に。

――― 何で」
「え?」
「何で、俺のこと、庇ったんだよ」

こんなことが聞きたかったわけじゃない。聞きたくなかったわけではないけれど。
こんなことを言いたかったわけじゃない。もっと言うべきことがあるのに。
それでも、そうやって笑うが、日番谷にはわからなかった。

「何で、そのせいで、・・っ死にそうになって・・・っ」

俺のせいで、そんな重傷になって、そんな顔色で。詰めたような声で、拳を握って、先ほどよりも、もっと眉を寄せた日番谷に、は少し驚いた。あまり、予想していなかった反応だった。そんな日番谷に、が小さく笑う。

「・・・・・」
「あ、やだな、睨まないでよ。」

それを不審そうにみる日番谷に、が苦笑する。それから、そっか と納得した。つまるところ ――― この子はいい子なんだ。生意気そうでとっつきにくそうで、けれど正義感が強くて、きっと自分のせいで誰かが傷つくことに耐えられないような、そんな。それで、おまけに不器用。そう思ったことにもう一度笑って、そっとが手を伸ばした。
自分に向かって伸ばされるその腕を見て、巻かれる包帯に小さく眉を寄せて、けれど日番谷が なんだ と聞く。そうすれば、ちょっと と答えて、がさらに手を伸ばした。その肩にも包帯が巻いてあることはすぐにわかって、意図を理解してはいないけれど、それ以上動かさせるわけにもいかないと日番谷が一歩、寝台へと歩み寄った。それに対して、が ありがとう と笑う。

そして、ぽん、と、日番谷の頭に、の手がのった。



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