学院編 1


ガラリ と、日番谷は扉を開けた。その瞬間に、たった今 日番谷が足を踏み入れたクラス ―― 特進学級と呼ばれる一年一組 ―― の視線が、日番谷に集まった。けれど日番谷は別段それを気にするでもなく自分の席へと足を進める。クラスメートたちは、静まり返ってその様子を目で追っていた。
日番谷が教室に顔を見せるのは三日ぶりのことだった。あの悪夢のような実習の直後のこの三日間 日番谷は学院を欠席していたし、彼自身の怪我についても、彼女の怪我についても、学院のなかに明確な情報は流れていなかった。だからこそ彼に連絡することも出来ず、ただ彼らをそっとしておいたのだ。けれど今日、日番谷はこうして学院に出てきた。それは、いったい、どういう意味で ――― ? 全員が緊張と不安とを抱えるなかで、一人の日番谷と仲のいい少年が、席についた日番谷のもとへと足を進めた。教室内の面々が、彼らへと視線を向ける。

「日番谷」
「・・おぉ、伊勢。悪いな、ペア組む授業とかあったろ」
「いや そんなん別にいいんだけどさ、」
「・・・は、昨日 目ェ覚ました」

もう心配ないらしい と、日番谷が言葉をつむいだ。その言葉に、なんて聞こうかと迷っていた少年も、彼らの会話に耳を澄ませていた面々も、顔を明るくして安堵の息を吐いた。この一年一組の生徒で巨大虚と戦っていた人数は少なかったため、が巨大虚に貫かれた瞬間やその直後を見たのは ほんの何人かだったが、多くの生徒が死神たちによって運ばれていく意識のないを目にしていたし、紅く染まった日番谷の姿を見ていた。最悪な事態だって考えられるような、そんな様子を目にしていただけに、二人とも無事だったのならこれほど喜ばしいことはない。なんせ彼らは、この学院で最も有名な二人だ。

「お前の怪我は?大丈夫なのか?」
「たいしたことねぇ。お前は?」
「軽いのだけ。日番谷や先輩みたいに、前線で戦ってないからな」

日番谷の問いに、少年は苦笑して答えた。三日前、巨大虚と戦っていたのは 主に日番谷との二人だった。そこで見た、彼らの突出した実力。六回生の筆頭であるはもちろんのこと、日番谷も一回生でありながら 他の六回生さえもを圧倒するような力を見せていた。きっと彼は何年もしないですぐにこの学院を卒業する ――― なんて冷静にあのとき見たことを思えるようになったのは、昨日のことだけれど。
少年がそんなことを思っているうちに、日番谷のもとには何人もの生徒たちが集まってきた。日番谷が彼らに目を向けるのと同時に、そのうちの一人がガバっと日番谷に抱きついて ―― というのも妙な表現だが、日番谷は周りの生徒たちより身長が小さいこともあるため、余計にそのようにみえる ―― 声をあげた。

「ぅお!?」
「つかおまっ、マジ心配したって!」

驚いた顔をしている日番谷に、抱きついた生徒だけでなく 周りの生徒たちも ありがとう や、ごめん を告げていく。そうして久しぶりに明るくなった教室に、がらり と担任が入ってきて、昨日までとはまるで違うその雰囲気に顔を緩めた。生徒たちに 席につけ と告げて、日番谷に 大丈夫か と聞いて、日番谷の頷きを受け取ってから、担任は自分の席へと戻った生徒たちの出席をつけていく。そのなかで小さく、誰にも聞こえないくらいの、けれど強い声で、日番谷が 俺じゃねぇよ と呟いた。




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