「・・本当に、怪我はもういいのか?」
いつもざわめく食堂を、現在もっとざわめかせている2人のうちの1人、日番谷が言った。今、この真央霊術院で最も話題となっている2人の姿を、生徒たちは遠巻きに見ている。向かい合っていると日番谷の隣の席が空いているが、たとえ混み合っている食堂内でも、その席に進んで座ろうとする人はいなかった。日番谷の言葉に、は顔を上げて日番谷を見る。そうして、大丈夫だってば と笑った。けれど、日番谷は眉を寄せる。
「あれだけの怪我が3日やそこらで治るわけねぇだろ」
「四番隊の死神さんたちをなめちゃいけないよ?すごかったなぁ、うん」
「オイ」
思い返して頷くに、日番谷は眉を寄せる。こうしてかわされてしまうからいけないんだ。自分は何よりも彼女の怪我に関係しているんだから、そのくらいは知っていなければならないと思うし、曖昧なままで終らせたくはない。だからこそ日番谷がじっとを見れば、は少し考えるようにしてから、全くもう と苦笑を浮かべた。別に自分の怪我のことを言うつもりはなかったのだが、ここまで 話せというオーラを放たれてしまうと、むしろ彼にとっては話さないほうが逆に自分を追い込んでしまいそうだ。それなら、言ってしまったほうがいいかもしれない。そう思って、は口を開く。
「確かにまだ完治はしてないよ。でも、もう大丈夫な程度までは治ってるわ」
だからもう気にしないで とが笑う。その言葉に、日番谷はの顔を見て、そしてちらりと怪我をした胸の辺りをみて、本当だな?と確認するようにして問いかけた。は笑って頷く。その様子に、日番谷は納得したようにして止めていた箸を動かした。も、同じくいつの間にか止まっていた箸を動かして食事を再開する。けれどその一方で、は 日番谷君、と日番谷に話を振った。
「この前のこと、すごい話が回ってるらしいね」
「・・あぁ、そうみてぇだな」
の言葉に、興味なさそうに日番谷が言う。そんな彼に、は小さく苦笑した。自分たちのことを言われている噂について、知らないわけではない。日番谷を庇って、は大怪我をした という噂を。確かに言ってしまえばそうなのかもしれないけれど、それがどうだというんだろう。自分は六回生で、彼は一回生。一回生を六回生がサポートするなんて言わずもがななことだし、自分だけが庇ったわけではない。あの日、戦っている合間にも、彼の力に助けられた部分は多分にあった。たとえ日番谷が気にしていなかろうと、としてはそんな噂をずっと流しておく気はなかった。そもそも彼は、一回生でありながら勇敢にも巨大虚と戦ったのだ。
「どうして、あんな話が回るんだろうね」
いつもよりも淡々とした口調でが言った。怪訝に思ったらしい日番谷が、訝しげにを見る。その言葉は、2人の会話を聞こうとしてか、いつの間にか妙な静けさを漂わせていた食堂に響いた。
「私がきみを助けて、きみも私を助けてくれた。たまたま私の怪我が少し大きかっただけなのに」
ね と言うの言葉に、シン と食堂が静まり返った。日番谷君の怪我、治った?と続けるに、日番谷は何かを言おうとして、結局息を吐いて あぁ と答えた。別にいいのに と、そう思うけれども、これは彼女の厚意だ。わざわざ反論することもないだろうし、自分たちの中では あの日に庇った庇われたの問題はもう解決してる。それこそ、外野にとやかく言われる筋合いはない ということだ。そっか、よかった と笑うに、日番谷も小さく笑う。
「あ、これあげようか?」
「は?いらねぇよ」
「まぁまぁ、そういわずに」
「・・・・おまえ、嫌いなんだろ、それ」
突然話を切り替えて定食の皿の1つを差し出す彼女を、日番谷はじろりと見る。えー?と笑うにため息をついて、日番谷は礼を言いながらその皿を受け取った。それを機にするように、食堂がざわめきを取り返す。けれどそれは先ほどまでの妙なざわめきよりは、いつものそれに近かった。
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