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To Shine
Start of the final school year.
「・・・あっれ。」 ポツリ、と小さく呟かれた声が、その場のざわめきの中に混ざりこむ。けれど周りより頭1つ抜け出した場所にある彼の顔は、確かに笑みを浮かべていた。 ――― 今年も、あいつがいる。 どんなめぐり合わせだよ とでも言いたげに、けれど楽しそうな笑みは崩さないままにクラス分けの掲示を見る彼に、ふと後ろから声がかかる。その声に彼が振り向けば、そこには顔なじみの、むしろ今日の朝もすでに顔を合わせたクラブメイトの根岸がいた。始業式なのに出遅れたな、と言う根岸におかしそうに笑ってから、同じクラスじゃねぇぞ と彼が言う。 「まぁ、とは1年が同クラだったからなー。誰かいた?」 「ん?いたぜ、珍しいことに1人だけど。」 あれ、と、彼はそのもう1人の名前を指差す。その言葉に、根岸にはなんとなく、根拠なんて全くありはしないけれど、それでも思い当たる節があった。その感覚のままに指された場所を見れば、そこには思ったとおりの名前がある。 「・・・・マジ?」 「すげぇよな、3年連続だぜ?」 なんかの陰謀?と笑う彼ことに、根岸がホントにな と、呆れ半分面白半分というような溜め息をついた。またすげぇクラスになるだろうな、と。そんな根岸に、少し遠方から声がかかる。同級生からかけられた、同クラだぜ と届いた言葉に、根岸はに一声かけてから彼のほうへと向かった。 それを見送ってから、はもう一度クラス編成の掲示に示された名前を追う。比較的知ってる名前が多い、ように思う。同じサッカー部は、あいつしかいないけど。そんなことを思っていたの肩に、ぽん、と誰かの手が触れる。それに驚くこともせず、よ と声をかけて振り返れば、彼の予想通りの人物がそこにいた。 「俺 いたか?」 「あー、今年もよろしく?」 「は?まだ正月ボケかよ」 4月である今にしては今更な言葉に、言われた三上が怪訝そうに眉を寄せる。けれどが悪戯に笑えば、もしかして、というように眉をひそめたまま三上はクラス編成へと視線を動かした。 まずは自分の名前を確認して、それからそのクラスの名簿を一番上から眺めていく ――― と。 「・・・・・・・マジ?」 「マジ。」 驚いた様子の三上に、もう既にその驚きを消化したがわざわざピースを作った指を三上の視界へと入れる。けれども三上はまだそのままにクラス編成を呆然と見ていて、まぁそれもそうだろうなとも同じく目線をずらす。 私立の進学校であり、生徒数だって多いこの武蔵森学園中等部。その中で3年間クラスが一緒、というのは、多いケースではない。現にと三上だって、3年連続はお互いしかいない。しかも、よりによってこいつ。ホントに陰謀かも、なんて笑いながら、が三上の肩へと手を回した。 「そういうことで、よろしく?もうコレ運命じゃね?」 「んなワケあるか」 まだ驚きを残しつつもすぐにツッコミをいれる三上と、お前絶対ツッコミ早くなったよな。やっぱり俺のお陰?と笑うに、だんだんと落ち着いてきたその場の視線が集まりだす。2人とも周囲より頭1つ抜けた身長であるし、その容姿も充分に整っている部類に入る。なにより、有名なのだ。この2人は。 「おっす、、三上」 そんな2人に、2年時に同じクラスで、今年も同じになったが声をかけた。ちゃお なんてわざとらしく挨拶をする彼に応えるようにも、ちゃお と、少し間延びした様子で声を返す。けれどその挨拶は、うぜぇから止めろ という三上の声に両断された。それに軽く笑って、サッカー部お前らだけじゃんとが言う。そう、この2人はともに武蔵森サッカー部の1軍レギュラーというポジションにいた。押しも押されぬ強豪武蔵森のトップに立っている2人。彼らが有名なことの一番の理由はそれだった。 と、そこで今気づいたように三上がちょっと待て と口にする。その言葉に問いかけるような視線を送った2人に、というよりはに、三上がまさか、と口を開いた。 「・・・・お前も同じクラスなのか?」 「おーよ!つーか今気づいたのかよ!」 一番に気づけよ三上!、気づくわけねーだろーが!という騒がしいクラスメイトの様子に、が笑う。2年のクラスに馴染みすぎていたために3年のクラスはどうだろうという少しの不安、というか緊張のようなものがあったのだけれど、この様子ならとりあえずはやっていけそうだ。 そう思ってがふと視線を上げる。そうすればちょうど時期よく残っていた桜の木の向こうに、わずかに音を耳に届かせている飛行機が作った白い線が出来ていた。 |