日本2/3周日記(あとがき) あとがきのようなもの

 2001年〜2002年にわたる四国巡礼と日本2/3周の旅のテーマの一つは、「自己満足の追求」でした。 今までのぼくは、学生時代には授業を理由に、会社人時代は仕事を理由に、「自分のしたいこと」を直視し実行するのをためらっていたきらいがあります。無職になってようやく、自分の志向に任せて好き勝手してみようと始めた旅の結果が、この旅日記です。
 基本的には、この日本というものを一通り見て廻れたので、自己満足はできました。今回北海道には行けませんでしたが、さほど悔しさもありません。いずれまた行く機会もあるでしょうし。
 このように少しばかりハードな旅をしたからといって、人生に対する悟りが開けたわけでもありませんが、旅を通して感じたことをいくつか整理してみたいと思います。
 
1、ぼくはものを書くのが好きなんだということ。
 体力まかせの旅を完遂したことよりも、これだけ長ったらしい旅日記を、ZAURUS ME-21のちっちゃなキーボードをぽちぽち押して書いたことのほうが、我ながら大したものだと思います。ZAURUSの故障や東北の寒さに負けて、リアルタイム日記をサボってしまった部分もありますが、これだけ長文の旅日記は、書くことが好きでなくてはできないでしょう。
 マメに日記を書いてめぼしい友人らに送っていたおかげで、快く泊めてもらったり、歓迎会をしてくれたりしたので、ラッキーでした。そういう下心もあって日記を送っていたのも事実ですが。
 
2、旅は水洗便所のようなものだということ。
 自転車旅行も、出発当初は心地よい昂揚感がありますが、三日たつと旅そのものが日常になってしまい、周りの風景が流れていくことに感動しなくなります。ぼくの場合、ウンコが毎日出るようになったら、旅が日常化した証拠です。
 とはいうものの、旅、とくに徒歩や自転車による自力旅が、うさばらしにもってこいの手段であることは確かです。うさが晴れることを巷では「心が癒される」とか「心が洗われる」などというのかもしれませんが、とにかく旅に出ると、周りの風景も、旅先での嫌な出来事も、全て後ろに流れていくので気楽です。
 かといって旅先で傍若無人になるかといえばその反対で、公園などを不当に占拠して野宿するわけですから、逆にマナーには気を遣うようになりました。ゴミのポイ捨てはしなかったし、地元の人にも挨拶するように心がけていたし。旅に出るとぼくは「いいひと」になるようです。本当にマナーを守る人なら、そもそも公園でテントなんか張らないでしょうけど。
 また、地元の人も旅人に対しては「いいひと」になる傾向があると思います。ハードそうな自力旅をしている者への同情なのか、それとも自分たちの町にいい印象を持ってもらいたいというプライドなのか、とにかくぼくは旅先で邪悪な人に会った記憶がありません。
 旅人も地元民も、一過性の出会いだと互いに承知しているからこそ、「いいひと」になる余裕があるのではないでしょうか。
 水が流れ続ける限り、水洗便所は清潔なのです。
 
3、旅情はささやかなものに隠れているということ。
 今どきの日本では、全国どこに行っても町並が変わり映えしません。主要国道を走る限りでは、どこにでもコンビニがあって、「ファッションセンターしまむら」があって、民家の壁にはマルフクの看板があって。景観保全地区に指定されている場所などはさすがに風情が残っていますが、大概の街では中心街が寂れ、バイパスに大型店舗が立ち並んでいるばかりで、町並から旅情を感じることはなかなかできません。
 ぼくが「ああ、遠くまで来たんだな」と思うのは、地元人の言葉のイントネーションが変わった時と、スーパーの鮮魚コーナーで見慣れない魚が売られているのを見た時。
 特に、地元の人から地元の方言で地元の伝説や妖怪話を聞いたときなんかは、「この町に来てよかったなあ」と思いました。
 
4、ぼくの感性は素直でないということ。
 いわゆる有名観光地も一通り見て廻りましたが、写真で見慣れているせいなのか、あまり感動することはありませんでした。そもそも名所と呼ばれるもの自体ジャンルが限られていて、お城だとか、岬の灯台だとか、渓谷だとか、はっきりいってどれも似たりよったりです。
 自分の日記を読み返して、ぼくの感性の傾向を再認識しました。
ぼくは、オシャレな建物より廃墟が好きで、
天守閣より苔むした石垣や石段が好きで、
本堂のご本尊より野ざらしの石仏が好きで、
美しいものより不気味なものが好きで、
あえていうなら、
素晴らしいものに感動するより、下らないものを罵倒する方が好きなのです。
 路上観察や「VOW」が大盛況の現在、こうした傾向は若い世代でむしろ主流なのかもしれませんが、少なくとも地方自治体の観光行政が意図する方向とはギャップがあるでしょう。
 
…ということで、誰が読むのかわからないこのホームページも、もちろんこのあとがきも、すべてぼくの自己満足の結果です。そんな勝手なものにつきあって下さった全ての読者に感謝です。


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