(264)青森県の伝統文化団体 その17 |
2004年 7月 1日(木) |
地域別・芸能別の自由回答の最後を飾るのは三八地域です。 こちらも豊富な意見となっておりますので、3回に分けてお届けしてまいります。
まずは、山伏神楽の保存会からの声です。
資料提供 青森県教育庁文化財保護課 平成13年調査より
【三八地域 その1】
(1)山伏神楽
●総合的に
◇運営費調達 ・もはや会員のボランティア、誠意だけに頼るのには限界がある。
◇練習時間 ・仕事、家業を放っての練習はきつい。農家には休日がない。
◇魅力 ・苦労しているわりには地味で報われない。物乞いの風潮すらある。
◇高齢化 ・師匠の年齢の大半は70歳前後。体が動かない。
などなど問題が多い。
●活動資金が足りない。 ・毎年、市から補助金として2万円をいただいているが、この額はだいぶ以前からで、いかに伝統文化への理解、熱意が足りないか、その額の変化無しに、いつも感じている次第である。県にしても、無形民俗文化財としての指定はあっても金銭的援助は全く無し。地域からの寄付に頼っていられない昨今で、考えていただきたい。
・活動費がもう少しほしい。
●後継者難と集落存続 ・嫁に来る者がないため、後継者がなくなることが一番心配である。
・伝承者が少ないので、行政(特に教育委員会)などの協力をお願いしたい。
・少子高齢化により、保存会の持続が困難である。
●子どもへの伝承 ・これまでは学校のクラブ活動の一環として、毎週必ず1回は練習が確保できたが、クラブの時間数の削減、完全週5日制に伴い、練習時間の確保が難しくなってきている。今後は、学校よりも地域の方々への依存が多くなるのではないか。幸い、本地域は、3年程前に、地域の方々が神楽保存会を立ち上げてくれたため、生の演奏で舞うことができ、少しずつ、昔の形に戻りつつある。このまま、地域の方々のご支援を受けて、伝統を守り続けてほしいと思っている。
●国県指定の文化財以外にも助成を ・各地域には、国、県等の指定を受けていない伝統芸能が数多く残され、それぞれの地域の財産、貴重な文化遺産として、地域の人々に支えられながら、伝承者によって懸命に守り継がれている。しかし、国・県などの補助金制度を見ると、国・県指定の文化財を対象としたものがほとんどであり、これらのものは比較的市町村の助成なども受けやすく恵まれている。今後は、これ以外の、これら埋もれている民俗芸能、存亡の危機にあるものを育成継承するための記録保存、伝承活動への支援などの施策が必要である。
・町より、町郷土芸能保存会を通して援助をいただき、感謝しています。
(つづく)
|
(265)青森県の伝統文化団体 その18
| 2004年 7月 2日(金) |
地域別・芸能別の自由回答、三八地域のつづき。 駒踊りと、えんぶりの保存会の声です。
資料提供 青森県教育庁文化財保護課 平成13年調査より
【三八地域 その2】
(2)南部駒踊
●練習場所や用具の整備 ・練習場所(築16年)の床などの整備、駒踊衣装の新調(11年間使用)、駒の修理などへの援助がほしい。
・担い手の確保が困難になっているため、小・中学校がなんらかの形で、ゆとり教育に組み込んで実施してくれれば、運営がよくいくと思う。
(3)えんぶり
●総合的に ・育成者の人員不足。年行事費用(経費の増額)、新幹線および市の活性化のための新企画の提案、そして観光関係との運営と協力の推進、または抑制について、自治体がもっと考えて欲しい。えんぶりの芸能に対する理解が少し減っている感じが気になる。もっと地元住民の楽しみの場に入り理解を深め、えんぶりを正調と新しい芸とに分けて考えることも一つの方法のように思われる。
・指導的立場の人々は皆、高齢で、その技術を引き継ぐ若者の協力が少なく、思うような活動ができない状態である。うちのえんぶり組は、昔の形式や唄をそのまま受け継いでいる。外の組は、だいぶ型が変わった組もあるように聞いている。今後もこの伝統を守り、型を引き継いで行きたいものと思っている。
・小、中学生より教えていきたいと考えているが、1学区に型の違うえんぶり組が7組もあり、学校で教えることができません。そのため、子ども会などの参加をお願いしたいのですが、大勢参加されても受け入れができず、思うようにいきません。もし、衣装・道具・えぼしなど、子供用が作れると、受け入れることも可能と思う。そのための補助などが必要である。
●祭りへの参加と事業者の理解 ・昔は農民が農閑期に行う祭りだったが、現在は会社員が大半である。えんぶりに参加するから休ませてくれと願い出ても、なかなか許可しない事業主がいる。夏の三社大祭に参加している人間も、休みが多ければ、雇用打ち切りの対象とされることも考えられ、まじめに伝統を継承していく者にとって、良い待遇とはいえない。行政側で各組合員の事業主だけを招待し、一杯飲ませながら、えんぶり(他の芸能を含む)を見せて理解を深める。または、自分の会社の社員が一生懸命やっているところを認識させる機会を作れないかと思う。
●用具・衣装 ・平成11年度に烏帽子の新調費用をいただき、ありがたいと思っているが、製作するのに対して国(文化庁)50%、県(教育委員会)25%、市(教育委員会)7.5%、所有者(管理団体)17.5%として製作したが、今の時代に、20年以上も使える烏帽子を作ってもらうと、15〜20万円くらいする。3体作ると45〜60万円はするのに対し、補助金は一体10万円として、3体で30万円しか出ない。よいものを作ると個人負担が大きくなるので、烏帽子新調にあたって、全額とはいわないが、改善をお願いしたい。平成11年度の烏帽子の製作費用は1体16万円で3体46万円かかった。補助金は82.5%となっているが、1体10万円に対して、3体で247,500円しかこなかったため、もう少しなんとかしてください。
・昨年は大人の衣装を新調し、赤字になった。今年度は子どもの衣装を新調するので、また赤字になるのではと心配である。貯金もなくなりつつある。
●伝承活動・練習時間 ・各えんぶり組に補助金が50万円ぐらい必要。子どもえんぶりのためにお金のかかる組もある。
・会員のほとんどが村外に定職を持ち、各種行事等に参加する要因を確保するのが難しくなってきている。例えば、毎年、曜日に関係なく2月17日〜20日までの「えんぶり祭」への参加も、平日であれば参加者の確保に苦労しているところ。また、児童、生徒の参加も(当組は小学生のみとしている)、学校行事等のため、できない場合もある。
・学校その他行事への出演が多くなり、寄付金を集める時間が少なくなり、活動に必要な財源が少なくなってきている。会員について、自営業者からサラリーマンが多くなり、自由な時間がとれる人が少なくなった。
・伝承者の育成。現在、組員の入会、参加希望者がほとんどなく、何かの形の宣伝などで組員を募集したい。
●行政へ ・教育委員会の総会などへの参加がない。これからの文化伝承などの教育をする立場の人が積極的に参加するべき。また、国指定ではあるが、期間中の小・中・高の休みの扱いが、各校、足並みが揃っていないのには困惑してしまう。
●活動資金 ・できるだけ門付けを少なくして、補助金の援助をお願いしたい。
(つづく)
|
(266)青森県の伝統文化団体 その19
| 2004年 7月 3日(土) |
地域別・芸能別の自由回答 三八地域の最終回です。
資料提供 青森県教育庁文化財保護課 平成13年調査より
【三八地域 その3】
(4)鶏舞
●学校での伝承活動を ・大人が囃子方を担当し、踊りは小・中学生の男子が担ってきたが、少子化、過疎化などから、子どもが減って、踊り手の確保ができない。このため、学校に伝承を申し入れてはいるが、学校の希望する時間帯と指導者の都合がつかないため、実現されていない。
●指導者が限られていることの問題 ・子どもたちへの踊りの指導は、すべてボランティア活動によってなされているが、指導者が限られているため、指導者に事故等があれば、その指導者のセクションができないことになる。
●歴史的な背景の調査が必要 ・できれば行政で歴史的な背景を解明していただきたい。
●県内外の鶏舞を集めた発表の機会がほしい ・当文化財と同種のものが県内外にあるが、一堂に会する機会がないので、どこかで音頭をとって機会を作っていただきたい。
●後継者不足 ・近年、少子高齢化・核家族化による後継者不足が悩みの種となっている。また、それぞれの仕事の都合により、休暇も思うように取れないため、練習機会の不足などで、一人一芸の人が多くなってきており、一人でも欠けると、活動に支障をきたすこともある。
●保存会会員も芸能の内容を理解する必要 ・専門家の方々からは、すばらしい伝統文化との評価を得ているところであり、我々も今一度かかわっている伝統芸能の内容の理解と、さらなる自覚が必要ではないかと思っている。
●参考となる伝承の方法や取り組みを教示してほしい ・それぞれの団体が、それぞれの方法で伝承に取り組んできたところであるが、行き詰まりつつある団体のためにも、専門の先生方には芸能の内容評価だけではなく、参考となる伝承の方法や取り組みについても取り上げていただきたい。
●地域の伝統芸能としてPRの強化を ・それぞれの行政において、地域の伝統芸能、町の伝統芸能としての位置づけがたりない様に思われるので、今後、もっとPRに努めていただきたい。
(5)その他
・奨励金のようなものの交付をお願いしたい。
・補助金を増額してほしいと思っております。本年度から助成金が3万円になったことの連絡を受けておりますが、全国大会の参加など、会員負担が多く、なかなか思うように進まない点が悩みである。
・三社大祭の参加者において、若者の興味が山車組にばかり向き、太神楽は人気がなく、後継者不足が進んでいる。何度も解散の話が出たが、行列の露払いがいなくなると大変困ると言われ、会長が有給で人を雇い参加したこともあった。現在は、小・中学生に助けられて活動しているが、受験を迎えると来なくなる。厳しい現状である。八戸三社大祭は以前、8月下旬開催だったので、厚物生地で衣装を作ったが、8月1日開催に変わって、炎天下での活動となったため、体力を消耗して昼食をとれなかったりする。なんとか夏物生地の衣装にして、快適なものにしたいものであるが、資金難が問題である。
(つづく)
|
(267)青森県の伝統文化団体 その20
| 2004年 7月 4日(日) |
本日で連載終了。自由回答のまとめとなります。 資料提供 青森県教育庁文化財保護課 平成13年調査より
・・・・・・・・・・・・・・・
●アンケート調査の自由意見から代表的なものを活動の課題として取りまとめた。
@地域の人口減、高齢化に伴う担い手の減少 少子高齢化によって伝承が困難になってきている。伝承活動は保存会のみならず、子ども会、小中学校でおこなわれている。また、学校での伝承活動では学校のカリキュラム、指導者の確保などの問題がある。子どもがいないと成り立たない団体も出てきている。就職や進学で地域を離れ、伝承者が残らないという問題もある。集落そのものが人口減、高齢化などによって存続が難しくなっている。
A行政、財団などの効果的な支援(資金難) 民俗芸能を維持していくためには、用具類の購入・補修、映像資料の作成・発表会などへの旅費など多額の費用がかかり、その費用を作ることが困難なので、行政や財団の支援を望む声も多い。
B民俗芸能の持つ意味の変化 人々の信仰心の変化、民俗芸能など、伝統芸能に対する意識が変化したことにより、民俗芸能の継承が困難になってきている。
C伝統や神事を守る 民俗芸能を単なる芸能という切り口ではなく、地域の伝統、神事であることの理解を求めている。
D発表機会の充実 広域的な単位でのイベントに参加することは活動の励みになるので発表機会の充実が必要である。しかし、発表会出演の経費負担も大きいので、それを軽減する措置が望まれている。
E活動への広い理解を 県指定無形民俗文化財の保存団体からは、引き続き、県からの助成を期待する一方で、特別な支援は望まないが、行政および一般県民の伝承活動への理解を深めることも望まれる。
F国、県指定以外の民俗芸能にも支援が必要 文化財指定のあるなしに関わらず、広い支援が必要である。
G文化財指定への希望 学術的・文化的な価値のある民俗芸能は、文化財に指定が必要である。
(終)
|